第17話 舩からの攻擊 ~フネからのコウゲキ~
船から光の矢が灯台に向かって飛んでくる。おそらく、首長竜の攻撃を止めたからだろうか。饅頭が飛んできた方向だから、攻撃してきたのだろうか。理由は後だ。
今は、この光の矢を止めなければならない。フロールの魔法は、海の水を巻き上げて、壁を作る。一方、螢は灯台を囲うように光のバリア魔法を唱える。どちらも、急拵えだが、海水の防護壁で失速し、光の防護壁に少し罅が入っただけで、被害はない。
「間一髪だな……。危うく、灯台が崩落してたぞ」
ヤイバがそう言った。それくらいのパワーはあった攻撃だろう。
「ヤイバ!」
ケンがヤイバに声をかけ、振り向くと
「全く、油断も隙も無いな」
すでに、ケンが剱で戦闘を開始している。相手は、白い仮面を付けた長身の男達。持っているのは、細く先端の尖ったレイピアである。周辺には、空間をまるでファスナーのようなもので開いた、ゲートが存在する。さっきまでは、そんなものはなかった。
"時空の狭間"とは異なる、2つの空間を繋いだゲートのようだ。
「ヤイバ。こいつらの使う剱は、想像以上に撓って交錯させても膠着状態にならない」
「頑張るしかないだろ。二本で十分だろ」
ヤイバは、剱を両手に持ち、二刀流で戦う。うち一本は、伝説の剱、ライトニングソードである。この島に来てから、初めて使う。糟谷頭領との先頭では、両方とも自前の剱で戦っていた。そして、ケンはシルバーソードを使っている。伝説の剱は、その力は未知数であり、謎の多い剱である。ただし、ある物を使えば、飛躍的にその威力をアップさせる。
「神託の国だと、あんまり使えないし、試しに使ってみるか」
ヤイバは、ライトニングソードの柄元にある窪みに、霹靂神の宝玉を嵌め込む。すると、ライトニングソードから、小さな雷のような火花が出る。
コントロールはまだできない。剱で斬るという表現よりも、剱に憑依した雷の力で斬る。剱が届かなくても、憑依した雷が攻撃の範囲を広げる。
白い仮面付けた長身の男達を、宝玉の力により強化されたライトニングソードで無双する。
「これ、想像以上に強いな」
ヤイバ自身も、その力に驚かされるが、その力を過信せず、相手との距離を取り、無謀な戦いは避ける。
「近づいてきたら、容赦なく斬るからな」
斬ると言うより、電撃が正しいだろうか。斬れば、相手に電撃を与えて膝をつかせる。
「戦うところを初めて見ましたが、彼らはかなり強かったんですね」
と、もはや観客の熊沢。シェイは周囲を見渡して、安全を確認した上で、螢に駆け寄り
「螢、あとどのくらい必要だ?」
螢は"刹那の歯車"を見て、
「おそらく、すぐに出来るが、問題がある。2つの世界を紡いだ後、閉じるまでに時間がかかる。その時間を稼げるかどうか……」
「何分あればいい?」
「5分あれば、渡った後に閉じられると思う」
「なら、準備してくれ」
シェイは螢に準備を急がせ、志乃に
「螢をよろしく頼むな」
自分でも、何故そう言ったのか不思議だった。螢と会うのは初めてのはずだ。でも、螢とはどこかで会ったような気がする。不思議な感覚である。シェイは、気のせいだとか、既視感だと考えて自己完結した。
次に、シェイは熊沢に
「熊沢、螢と志乃がゲートを渡ったら、俺たちもゲートでもとの世界に戻るぞ」
「お嬢ちゃんにも伝えないとですね」
もとの世界にそれぞれが戻るために、動き出す。
仮面を付けた長身の男達は、ケンとヤイバが全て相手をして、船からの攻撃は、フロールと螢が防ぐ。
それぞれが忙しい時だというのに、熊沢がふと、気になることを螢に聞く。
「ひとつ、質問良いですか? もし、その"時空の狭間"とかいうのを、私たちの世界や彼らの世界に移動してから使用するのはダメなんですか?」
確かに、それができればこの場をすぐに脱出でき、落ち着いて別れが言える。
「それは出来ない。正確に言えば、出来るんだけど、それをすると君たちに迷惑になる。まず、"セツナの歯車"は、世界を渡るとエネルギーが空になる。再び、チャージして発動するまではかなり時間がかかる。それに、今、目の前で起こっていることと同じ現象が、そっちの世界で発生することになる」
「確かに、そう簡単な話じゃ無いみたいですね……」
「ここの世界で別れた方がいい」
そこまで言われると、熊沢は同意するしか無かった。自分達の世界が巻き込まれるとなると、そう簡単には判断できない。
ケンとヤイバが戦闘を続ける中、相手にパターンがあることに気付き、ケンが
「ヤイバ、この動きって決まった法則性がありそう」
ヤイバは、ケンと背中合わせになり、他に聞こえない声で
「俺たちが怯んだ時、隙が出来た時に、志乃たちの方に行こうとしてることか?」
「おそらく、相手の目的は志乃か螢だと思う」
「その意見、俺もそう思う。螢から聞いた話で、あの船はどう考えても、螢と志乃が乗っていた船にそっくりだもんな」
「志乃たちを奪還に来たのかな?」
「さぁな。本当は、相手に聞きたいところだけど……、少なくとも、こいつらは生き物じゃなさそうだ。斬ったところで、血が出ないし、煙のように消える」
「ゲートの向こうに押し返してみる?」
「……やってみる価値はありそうだな」
ヤイバの反応が少し遅れたみたいだった。それが気になったケンは、
「かなり浪費する感じ?」
「かなり、どころじゃないな。長期戦は期待できない」
宝玉の力は強力だが、それ相当に体への負担が大きいみたいだ。
ケンは、わざと相手に分かるように隙を作り、相手の視線が志乃達に向く瞬間を狙って、攻撃する。パターンが分かれば、怖くは無い。ヤイバも、同じように隙を作って攻撃して、相手をひとつのゲートの前に集めて
「送り込むぞ」
宝玉の力による雷撃により、相手をまとめてゲートに送り返す。ゲートの向こうで爆発の音がした。
敵が一時的に灯台からいなくなり、螢が"刹那の歯車"を使用する。"刹那の歯車"は、純黒で、直径5センチ、厚さ1センチの歯車である。
螢は"刹那の歯車"を右手で持ち、祈るように呟く。なお、その内容は、戦闘態勢のケン達や、この後の作戦会議中のフロール達は聞き取れなかった。
やがて、"刹那の歯車"が黒く光り出して、その歯車が目の前に移動し、時空の狭間が現れる。まるで、"刹那の歯車"そのものが時空の狭間になったかのようであった。
To be continued…
刹那の歯車も伝説の剱も、まだ謎多きものです。
『黒雲の剱』本編で追々語られるものとして、
本編圏外のこちらでは、あまり新しい情報が出ないように気をつけてました。
が、宝玉については、本編を書くよりも先に出た情報なので、本編で説明せねば。
(この後書きを書いてる時はまだ『黒雲の剱』の3部未着手でした)