第15話 天空からの解放 ~テンクウからのカイホウ~
螢の話は、シェイにとって疑問だらけとなった。ただ、フロールの前で聞けることだけに絞っていたら、フロールが先に
「迷い込んだ船で、研究員のひとりに匿われいたんだけど、檻に入っていた志乃に会って、檻を触ったら腐敗で壊れて、2人で逃げた先がこの世界だったてこと?」
フロールのまとめに、螢は少し笑って
「ざっくり言うと、そうだな」
「状況は分かった。似た状況の話を、ケンから聞いたばかりだからな……」
ヤイバは、ケンから時空間の神殿での出来事を聞いたときのことを言っている。同じように、自分の身を守るために、時空を超える少女のことを。ケンも当然ながら、それと関連付いて考えたが
「雷霆銃族と関連付けるのは、違う気がするね」
雷霆銃族、旧名は戦魔盗賊団。少女クロバーを追う組織である。念のため、螢に確認したが、雷霆銃族も戦魔盗賊団も聞いたことは無いと言っていた。全く異なる組織だろうか。
「目的は何だろうな。って、今考える必要は無いか……」
と、ヤイバが敢えて口にして言った。結論が出ない、時間をかけても分からないことである。
聞きたいことはあるが、シェイが最初に聞いたのは
「螢、魔法はいつ覚えたんだ?」
「いつ覚えたか……。もともと使えていたのか、途中で覚えたのか分からない。船内にいたときは、多少の魔法が使えていた。だから、長い期間、乗組員に見つからなかったんだ」
螢がそう言ったので、シェイは
「もしかして、乗船前後以外にも、記憶が抜け落ちてるのか?」
全員が驚いたようだった。螢は黙って、頷き
「乗船前の数日間、ニュースとかの出来事は覚えている。ただ、誰と何をして過ごしていたのか、はっきりとしない。だから、帰ったところで、すぐに行く当てがない」
「志乃の記憶は?」
シェイは志乃にも、記憶に関して聞くと
「一生懸命思い出そうにも、何かに拒まれるのか、抜け落ちているのか分からないけれど、はっきり覚えてない……」
そこから、導かれたこととして、
「もしかして、志乃の……」
"隣にあった檻は"、そこまで言い切る前に、大きな音がした。海に何かが落ちて破裂する音。
全員が灯台の窓から外を見る。すると……
*
まだ明けぬ夜。警部はエコモードに突入し、現在は休止状態。悠夏が使用していたタブレットも、今後のことを考えて、使用を控えていた。モバイルバッテリーはあるが、それも有限である。悠夏は欠伸を噛みしめて、捜査本部からの連絡を待つ。
空は星や月が見えない。曇っているようだ。それも、雲の隙間がなく、かなり厚い雲のようだ。
「星が見えれば、少しは暇がつぶせるのにな……」
曇り空を眺めていると、稲光が見えた。翡翠の色をした光の線が走る。
「警部、起きてください。超常現象が始まりそうです」
悠夏の声に警部が休止状態から立ち上がる。厚い雲に大きな穴が開き、巨大な船底が見える。船の出現位置に、翡翠の稲光が何度も発生している。船の全貌は見えない。暗闇に発生する稲光で見える程度である。
見えてる大きな船底より上から、丸い玉が落ちてくる。まるでそれは……
「警部、あれは砲丸でしょうか。それに、宇宙船ですかね……?」
悠夏は目の前の光景に、何が出来るわけでも無く、眺めるしか出来ない。砲丸は、海に落ちて大きな水柱ができる。花火のような音がし、海が光る。
「映画でも見ているんですかね……?」
悠夏はそんなことでも言っていないと、何も喋れなくなる。そこに冷静な警部が、追い打ちをかける。
「どうやら、マジでヤバイやつですかね……。僕には何も見えないので、機械のレンズでは捉えられないみたいです。つまり、写真を撮っても映らない……」
「えぇ?」
悠夏は試しに持っているタブレットのカメラや、スマホのカメラをかざす。映らない。自分の目では見えるのに映らない。
「これは、水上容疑者が不法入国を幇助した疑いで、再逮捕する必要がありますね」
「警部、なんでそんなに冷静なんですか!?」
悠夏はすぐに連絡しようと、電話をかけようとするが、
「こういうときって、必ずって言っていいほど、電波妨害されていると思うんですが」
警部の言うとおり、携帯は圏外だ。ネットも繋がらない。固定回線ならば繋がるのではないかと思うが、生憎この近くというか、そもそもこの島に公衆電話とか固定電話があろうか。可能性としてあるなら、灯台の中だろうか。ただ、施錠されていて使えない。
「磁場の乱れが凄くて、このまま稼働すると基板も部品も壊れそうなんで、僕は寝ますね。多分、通信線もノイズがかなり酷いような状況だと思います。くれぐれも、ヘリは飛ばさないでくださいね」
「警部?!」
無情にも、ロボットである警部はシャットダウンした。こんな重い物をどう運んで逃げれば良いのだろうか。
すると、遠くから台車を運んでくる警官が。
「警部が緊急信号を飛ばしたんで、回収に来ました。サイバーセキュリティ課の伊與田と言います」
「そんな機能あるんですか?」
「えぇ、だからこうやって回収しに来ました」
伊與田は、ヘリの近くで待機していたらしい。警部を台車に乗せて、屋内へ避難する。
*
砲丸が海中で光を放って、5分が経った。今思えば、砲丸が投げられたのは、龍淵島が壊落したところである。地鳴りがし、海中から、咆哮が聞こえてくる。何かが海中深くから浮上する。
海上に浮上してきたのは、首長竜だ。かなり岩肌のようにゴツゴツした全身。灯台の光が、首長竜を照らす。
「どれから、言えばいいのか、理解が追いつかないんですが」
今島に残された人が思っていることを、熊沢が代弁してくれた。
「あれから守るのか……、想定外だな」
ヤイバがそう呟いた。正直、島から離れて出現した首長竜を止める方法は1つしかない。魔法ぐらいしか。首長竜は、口を大きく開けて、エネルギーを一点に集中させる。どう考えても、島に向かってビームが飛んできそうである。
「あれを防げるのか?」
シェイは魔法で防げるか考えるが、相殺は無理。反射させるとして、どこへ向けて反射させる? 被害が最も少ない方向が分からない。
てんやわんやする中、フロールが熊沢に
「くまたん、なにか食べ物ある?」
熊沢は唐突に聞かれて、お昼のときに貰っていた饅頭を思い出した。数に限りがあったので、熊沢はフロール達に隠していたみたいだ。ちなみ、島で調理した物では無く、偽漁師のひとりが、逃走途中のコンビニで買ったものだったのは、後の調書で明らかになるが、今はどうでもいい。
フロールが饅頭を受け取り、すぐそこの扉から外に出て、灯台の回廊へ。まず最初の魔法。饅頭を上に投げて、魔法の杖を一振りする。すると、饅頭が高速で発射し、首長竜の口へ。すぐに次の魔法を唱える。すると、饅頭が巨大化して、首長竜の口いっぱいに。エネルギーを発射できなくなった首長竜は、口の中で暴発。饅頭が焦げた。
熊沢は冷静になり、
「なんとも、お嬢ちゃんらしい魔法ですね。考えつかなかった方法で、窮地を脱しましたよ」
「暢気にコメントしてる場合か? ここからどうするか考えないと」
シェイの言うとおり、まだ事態は収拾していない。
To be continued…
さらに補足として、こしあんの饅頭でした。また、コンビニで河邉が6個入りを2つ購入しました。
居酒屋から船のある港まで、コンビニに寄る余裕はあったみたいです。
たぶん、情報としていらないけど。