第11話 財寳の在處 ~ザイホウのアリカ~
龍淵島。本州のとある岬から数百キロ以上南に位置する無人島である。近辺に他の島は無い。島近海の潮の流れが独特で、上陸が難しい日は多い。龍淵島の近海で、資源が眠っていることが分かり、一時期島の人口が増えたが、潮の流れにより資源が想定よりも採掘困難であると分かり、たった1年程度で島は無人島に戻った。しかし、その1年で島の環境が変わった。
さらに先日、龍淵島の半分が壊落し、周辺は危険海域となった。龍淵島が壊落した原因はまだ解明されていない。調べようにも、近づけないからである。テレビのワイドショーでも、島が壊落したことを何度か取り上げており、専門家の意見は様々である。龍淵島の地質だとか、プレートの動きだとか、実に幅広く議論されているが、果たして視聴者はその議論の過程に興味はあるのだろうか。コメンテーターは、結論はどうなんだと口を揃えるが、結論などそう簡単には出ないだろう。結局は、不安を煽るかのように、他の島は大丈夫かとか、海岸沿いで発生はしないのかとか、話を広げて、次のニュースや話題へチェンジする。さらには、祟りだとかオカルト要素も混ざってきて、もはや何が何だかである。
私が思うに、今の報道は……
悠夏はタブレットでそこまで読んで、その記事ページから検索ページに戻った。
「ここの記事、論点ずれてるし、ニュースの検索の上位に出るなら、大事なことを書きなさいよ……」
次の記事を読むが、結論は書かれていない。いくつか読んだ結果、分かったことは
「警部。今のところ、龍淵島の壊落は原因不明であるということが分かりました。警部は何か分かりましたか?」
「僕はオフラインなんで、媒体が無いと調べられないです」
警部は、ロボットであるがセキュリティ対策として、ネットに繋がっていない。店舗に置いてある案内ロボットとかには劣るようだ。
「誰が劣るって?」
「警部、誰もそんなこと言ってませんよ」
悠夏と警部は、待機命令が出ていたので、オブラートに包まず表現すると、暇である。一味の身柄は、すでにヘリで警視庁に護送されている。おそらく、今回の事件に関して警視庁で取り調べが始まるであろう。そして、犯人確保の功績で、特課はまた広報に載るのだろうか。
「私たちもヘリに乗って、帰りたかったな」
「ただ、一味が盗んだものがまだ見つかっていませんよ」
警部の言うとおり、糟谷頭領たちは、被害者から何かを盗んでいる。ただ、何かは分からない。何故かどちらも供述しないからだ。警察としては、あまりに被害者が言わないので、そもそも盗まれた者が盗難品である可能性も視野に考えている。
「もしも、被害者が盗んだ物が盗まれたとしたら、言い辛いのは分かりますが、果たして言いますかね?」
「最悪、自身が盗んだ犯人だと分かってもいいから、警察に見つけて欲しいものですか……。全く情報の無い中で考えられることとしては、それほど価値のある物ですかね?」
警部の推測を、悠夏はそのままの意味で捉え
「美術品とか骨董品ですかね?」
「その可能性もありますし、第三者からは価値が分からない物かもしれません。当事者同士でしか、価値の分からない物……。ただ、そんなもの僕らは探せないですよ」
「……ところで、船の持ち主って判明したのかな? あの船が該当する物かもしれないけど……」
悠夏は自分で言っておきながら、違うと思っているような言い方だった。
「一味の何名かが海上で、捜索してましたよね。これは、つまり……、宝の地図とかどうですか?」
警部がボケなのか本気で言ったのか分からず、悠夏は
「何の宝の地図ですかね……?」
「龍淵島の昔の地図って出せますか? 航空写真でもいいですが」
警部が悠夏の持つタブレットを指差してそう言った。便利な世の中である。現在の地図と過去の地図を比較することは、地図アプリなどを利用すれば、簡単にできる。悠夏は地図アプリを起動して、現在位置から龍淵島を表示する。
「地図アプリでは、壊落前の航空写真と地図の両方がありますね。壊落後は、航空写真しか無いみたいです」
「ポイントは、一味が捜索していた場所です」
警部の推理は当たるのだろうか。おそらく、警部の推理は……
「警部の見立て通りかもしれません。壊落後の海域で捜索していたみたいです」
と、悠夏が警部の方を見たら、警部は無言だった。
「もしかして、見立てが違いました? てっきり、壊落したエリアにお宝か何かがあって、それを一味が探しているんだと、警部が考えていたのかと思ったんですが……」
「……。資源がある海域だと思ったんだけど、違ったみたい」
警部は見立てが違うことを、正直に言った。ただ、悠夏の見立てが有力だろう。壊落したエリアに何か大事な物があり、それを捜索していた可能性がある。
「ということは、彼らが自供するとかしないとかに関わらず、証拠として引き上げないといけないってこと?」
海中の捜索や引き上げは、果たしてどこの課が担当するのだろうか。特課で対応しろなどと言われたら、企業に頼み込むしかないなと悠夏は考えた。危険海域で仕事をしてくれる企業は、果たしてあるのだろうか……。
*
志乃とフロールは、2人だけの会話を楽しんでいる。
「フロールはどこから来たの?」
「ここから遠い国。魔法が使える国から来たの」
「魔法? 螢みたいに?」
「うん」
2人は、純粋で疑問視しないようである。螢がなぜ魔法を使えるのか。まぁ、その辺りを疑うのは飛蝗と熊沢の仕事だろう。フロールも志乃も性格的に、疑ったりしないようだ。
「志乃はどこから来たの? 日本?」
「日本だけど……、ここじゃない日本かも……」
志乃の言い方に、フロールは首を傾げた。ここじゃない日本って何処なんだろうと、当然の疑問である。志乃は続けて、
「分からないけど、私を木の檻に入れたのは、あの人達じゃないと思うの」
志乃がいう木の檻とは、納屋で聞いた時のことだ。熊沢がフロールに分かるように同時翻訳した話である。
直近で覚えていること。格子。鉄ではなく、木製の格子が視界を遮る。大きく体が揺れる。床や壁も揺れる。船の中のようだ。
志乃は、腕を後ろで縛られていた。身動きが取れない。しばらくして、気を失った。
次に目が覚めると、砂浜にいた。縛られていたロープはボロボロで、自由に行動できる。志乃は、海岸から逃げる。しばらくして、人々の声が聞こえる。自分を探しているようだと感じた。
この中で、前半と後半で関与する人物が違う可能性が出てきた。後半部は、龍淵島の砂浜で目覚めて、糟谷頭領達に追いかけられた場面である。当時は、村人か農民かも分からず、(結局は漁師でも無かったが)無我夢中で逃げた。螢と会ったのは、このすぐ後である。
では、前半部は糟谷頭領達は無関係だろうか。警察の調べによると、盗まれた船は中型船舶で、かなりの速度を出せる船だった。船舶には、木製の格子どころか、木材らしき物は無かった。さらに、大きく揺れるのではなく、激しく揺れただろう。
つまり、前半部と後半部はどうやら違うようだ……
To be continued…
さて、11話まで物語が進みましたが、
当初予定の倍以上物語が展開しています。
設定とか結末を最初に考えずに、キャラ任せで書いてたら
こんなことに。まぁ、いつものことですが。まだ続きそうです。