第1話 始まりの燈 ~ハジまりのトモシビ~
『紅頭巾』と『黒雲の剱』のキャラが登場するクロスオーバー作品。
よろしくお願いします。
深い闇。洞窟かそれとも森林か、はたまた建造物の中なのか。少女はボロボロになった衣服と心身で、力の限り走る。追われている。後方では、農機具や松明を持った村人達が叫んでいる。どうやら、少女は村人達に追われているようだ。
少女、志乃は手探りで物陰を探し、身を隠す。
村人達はこの暗闇の中、焦っている様子で
「畔柳さん、見つからないです」
「やむを得ん、糟谷頭領に報告して、捜索範囲を広げるぞ。この島から逃げられまい」
村人達の足音が遠のく。しかし、志乃は疲弊により、その場から動けない。そこに
「お困りかな? 力を貸そうか」
と、フードを被った少年?少女?が、手を差し伸べる。声は中性的で、フードにより顔が分からない。口元だけでも性別は判断できない。志乃が「きみは?」と聞くと、
「"螢"。"星空 螢"」
そう言った。
*
紅色の頭巾を被った少女フロールは、バイクが運転できる熊の熊沢さんと、館内で倒れていたところを助けた飛蝗と3人……、いえ、1人と1頭と1匹で館を彷徨っています。事の発端は、魔法を取得したフロールが、自宅で魔法を乱用し、母親が激怒して館に放り込まれたのです。魔法がかかったこの館は、不思議なことがいろいろと起こりますが、それはまた別のお話。
「お嬢ちゃん、この扉だけ他と雰囲気が違うみたいですよ」
熊沢さんが見つけた扉は、黄色と黒のゼブラ柄です。とっても警告してそうです。
フロールは、熊沢さんに
「くまたん、その扉は開けない方がいい気がする……」
「why? 何故ですか?」
「分かんないけど、なんか嫌な気がする」
フロールの勘に、飛蝗君も「賛成だ」と。
「でも、もう開いちゃいました」
熊沢さんはなんと、会話の前からドアを開けていたようです。
「えっ」
次の瞬間、扉が勝手に大きく開き、熊沢さんが吸い込まれたのです。
「くまたん!?」
フロールと飛蝗くんが後を追いかけます。
扉の向こうは、緑生い茂る森でした。
「ここは?」と、フロールはあたりを見渡す。
「どこですかね……?」と、文字通り、フロールの尻に敷かれる熊沢さん。
「あ、飛蝗くんは?」
「かなり飛ばされてたんで、はぐれちゃいましたね」
「探しに行こう」
*
神託の国。辺りは暗い。2人の剱使いの少年、ヤイバとケンは、焚き火で野宿である。ケンはカレーを煮ている。ヤイバは水筒の水を飲む。どちらも喋らない。逢魔劔隊の騒動から、数日が経つ。
「誰か、いるな……」
最初に気付いたのは、ヤイバだった。
「どっちかな……」
ケンは、敵対すべき人物か、そうでないかという意味で、そう言った。暗闇からやってきたのは、
「少しいいですか?」
と、近づいてきた人物は被っていたフードを外した。中性的な顔立ちで、性別は分からない。ヤイバは警戒を続けるが、ケンは断る理由も無いので、
「今から、晩ご飯食べるんだけど、一緒に食べる?」
「いえ、そんなつもりじゃ」
「もう断れないぞ」
と、ヤイバは冗談で言った。
「自分は、明かりが欲しかったので」
ヤイバは見た目で判断できず、何て呼んでいいのか分からないので、
「俺は、ヤイバで、そっちがケン。君は?」
「自分は、ケイです」
「ケイか。聞いておきながらだけど、ケンと名前似ててややこしいな……」
ヤイバはそう呟きながら、水筒の水を飲む。
「カレー、温まったよ」
ケンは、普通に3人分を用意する。飯盒に入っていたご飯は、3人でも足りた。
ケイも混じって、カレーを食べる。さっきまで黙っていた2人とは思えないぐらい、ケイがいると話が弾んだ。途中、ケイが思い出したように、水筒を取り出し、
「この前行った村で美味しいお茶を淹れてもらったので、おふたりも飲んでみてください」
そう言われて、ケンとヤイバは何も疑わずにお茶を飲んだ。
そこまでは覚えている……。
*
ケンとヤイバは、見知らぬ地を歩く。
「ケイに騙されたな」
ヤイバは、そればかり言っていた。ケンが反応しないので、余計にである。
ケンは、この先にいる人影を見つけたみたいで、
「誰かいるみたい。話を聞こうか」
そう言って、人影の方へ向かう。ヤイバは、「言葉が伝わればいいけどな」と、呟いた。人影は、漁師の人らしく、今朝獲った魚のうち、商売にならない魚を選別しているようだ。で、案の定、ケンとヤイバの話す言葉は、漁師に伝わらず、漁師の喋ると言葉をケン達は理解できない。伝わっていない。
「どうする? 言葉が伝わらないと、ここがどこだか分かんないぞ」
と、ヤイバも流石に現状に焦っている。
「でも、なぜだか、微妙に聞き取れそうなんだけど……」
ケンの言う"微妙に"は、ニュアンス的にということだろうか?
漁師は、他の漁師仲間に声をかけているみたいだ。外国語が喋れる人を探しているのだろうか?
すると、鐔付きの帽子を被った少年が出てきた。自分達より少しばかり幼いだろうか。初見で分かったのは、この地域の子どもでは無いと言うことだ。
「ねぇ?この言葉は伝わるのかな?」
ケンは丁寧に喋った。少年は、
「どこから来たの?」
ケンとヤイバは、2人とも顔を見合わせ、言葉が伝わることに喜んだ。
「神託の国ってところなんだけど……」
「"シンタクの国"……、分からないなぁ」
「そうか……。ねぇ、ここは何処なの?」
会話はケンと少年が主体で、ヤイバは余計な口出しをしない。
「ここは、"龍淵島"。本土からかなり離れた島らしい」
「らしい?」
「俺は今日、ここに来たんだ」
「今日? 観光とか?」
「いや、連れてこられたというか、事故というか、なんというか……」
少年は、言葉の表現に困っているのでは無く、普通に言って伝わらないので、その言い方に困っていた。
「自己紹介が遅れたけど、僕はケン。こっちがヤイバ」
「俺は……、シェイだ」
少年シェイは、そのあと漁師になにやら説明をして、ケンとヤイバに、
「地元の組合の人が、もうすぐ魚料理を振る舞うそうなんだ。それを食べないかって。あと、数に限りがあるけれど、饅頭やフルーツもあるそうだ」
*
「見つかりませんね」
「くまたん、諦めちゃダメだよ」
フロールと熊沢さんは、はぐれた飛蝗を捜索中です。
(シェイ君、どこに行ったんだろう?)
熊沢さんは、館で飛蝗くんこと、シェイの昔話を聞いています。フロールの前でその話は、一切していません。
「あれ? だれか倒れてるよ」
フロールは、意識を失っている少女と出会いました。
「衣服がボロボロですね。お嬢ちゃん、魔法とかで直せたりは?」
「あの本が無いと、分かんないよ」
「流石に、あの本は持ち運びできないです」
2人の言うあの本とは、全12巻に渡る魔法の呪文が書かれた本です。とても分厚く、魔法を使えるようになって間もないフロールは、これがないと、決まった魔法を出すことができません。
「一先ず、どこか休めるところに移動しましょうか」
熊沢さんは、辺りを見渡します。
「もう少し歩くと、森を抜けられそうですね。ただ……」
「ただ? どうしたの、くまたん?」
「このご時世、幼い子を連れて行くのはいろいろと問題が……」
「くまたん、それ何処の国の話?」
少なくとも、フロールの住む国の話では無い。
「まぁ、私、こう見えても熊ですし」
熊沢さんは、こうでもどうでも、誰が見ようが疑いなく熊です。
「猟師とかに撃たれたら、痛いじゃないですか」
「痛いですむの?」
「多分、すまないですね。最悪、熊汁ブッシャーの、バタンキューですね」
「……?」
フロールには伝わらなかったようです。血と言わないのが、熊沢さんっぽいですけど。
To be continued…
昔、ブログに載せた『龍淵島の財宝』は跡形も無く、全て書き直しています。もともとは、『紅頭巾』のメンバー以外がクロスオーバーで登場していたので。