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ばあさんの影

作者: プチメタボ

漆黒の夜の闇に包まれる。

行けども行けども光が見えない。

虫も鳥もその声を出さない。


普段なら見えるはずの月明かりさえも

雲に覆われて姿を現さない。雨が降り始めた。

最初は小雨だったが、次第次第に大粒になってくる。


気付いてみると私はずぶぬれになったまま

小さな街灯の下に立っていた。

辺りには誰もいない。ここは一体どこだろう?


私は人気のないこの暗闇が耐えられなくなってきた。

益々雨足が強まってくる。

シャツからは腕が透けて見える。

私は走った。とにかく走った。

街灯の光もかき消されるほどの大雨の中を。


とてつもなく長い距離を走った気がする。

実際それはたかだか15分ほどだったかもしれないが、

暗闇に追われていた私には1時間にも思えた。

やっと明かりが見えてきた。見覚えのある場所だ。

いつもの煙草屋に定食屋が並んでいる。


ふと空を見上げると雨が止んでいる。

雲の陰からわずかな光がこちらを見ている。

しかし今日はなぜだか人がいない。

どこを探しても私一人なのだ。

私はゆっくりと自宅へ向かった。

だが、何かがおかしい。

いつもの道を歩いているだけなのに、体の感覚がない。

そしてやはり人影はない。


やがて自宅へ着いたが、周囲の家々は電気が灯いていない。

見渡す限り、光と呼べるものは街灯と月明かりのみだ。

玄関の鍵を外し、ドアを開けた。

私は電気をつけるためにスイッチに手をやった。

しかしスイッチがない。手探りで探すがどこにもない。

急に背中に殺気を感じた。嫌な予感がしながら私はゆっくり振り向いた。

杖を突いたよぼよぼのばあさんが目の前に立っていた。

どう見ても魔女にしか見えない。


私は声を掛けようとしたが今度は声が出ない。

ばあさんはおもむろに顔を上げて私の目を見てきた。

頭の中を記憶が駆け巡る。めまいがしてきた。

と同時に吐気がしてきた。お腹を押さえてゆっくり横たわろうとした時

私は初めて自分の体の異変に気が付いた。

足がない。私は驚きを隠せず倒れるようにしてその場にうずくまった。

今度は体が消えていく。首まで迫ってきた。

そしてついに目が見えなくなった。


はっとして意識が戻った。夢か。

朝の光がカーテンの隅から舞い込んで来る。

窓から外を見て私は目を見張った。ばあさんだ。

私は目をこすってもう一度彼女をを見ようとした。

しかし黒い服も杖もどこにも見当たらない。

そこにはただいつも通りの景色が広がっているだけだった。

私は玄関のスイッチを確かめに行った。

何事もなくそれはそこにあった。

戸を開けてばあさんが私の目を見てきた場所に立ってみたが、

何も問題がない。いつもと変わらない。

私は狐につままれた感覚を覚えながら玄関の戸を閉めた。

テーブルも椅子もキッチンも普段通りの様子で変わったところはなかった。

私は考えることを辞めにして朝食をとり、いつも通り会社へ行った。

定時になるといつものメンバーが何事もなかったかのように仕事を始めた。


夜になった。自宅へ戻った私は玄関の電気をつけようとしてスイッチに手をやった。

やはりそれはそこにある。昨日の夢は何だったのか?

そして今朝見たあのばあさんはいったい...

奇妙な正夢に底知れぬ不安をかかえたままその日は過ぎ去っていった。

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