俺と「友人」たる雑草の話
高校の頃の俺には友人がいて、それは校舎の日陰にしぶとく根を張る雑草だった。
人間の友人がいなかったという訳ではない。確かに人間関係が多少希薄であった自覚はあるが、どこかの世捨て人の様に完全に自分と世間を切り離して生きてはいなかった。
彼、もしくは彼女かには、特に表立って目立つ要素があったわけではない。植物学者にでも聞けばきっとそれらしい名前を言ってくれるのだろうが、僕はあくまで友人をただの雑草として認知していた。
10年に1度の台風によって猛烈な雨と風にさらされようが、逆に2週間雨の恵みが無かろうが、心無い男に小便をかけられようが、枯れ果てることは無かった。冬を除いて。
俺の通っていた高校はあの雑草と同じようにありふれた県立高校で、表こそ汚くないように整えられていたが、生徒の目にしかつかない、校舎の裏の方になると、砂利の狭間から緑の雑草が顔を出している。
昼休み、早々に弁当を平らげて「友人」の元へ向かうのが日課だった。
ある日のことだった。いつものように、意味もない談笑をするクラスメイト達をすり抜け、足早に向かう。用務員が気まぐれでも起こして引っこ抜かない限り、ずっとそこにいるので焦る必要などないのに、体は落ち着く様子などなく、いつの間にか「友人」のもとにたどり着いていた。
そのはずだった。しかし、彼はいなかった。
近くには、市指定のゴミ袋に「友人」たちをぎゅうぎゅうに詰めた、白髪頭の用務員がいた。
「ここらにあった、雑草は・・・?」
焦るあまり、用務員に尋ねる。
友人を失ったあまり、俺の顔は恐ろしかったかもしれない。
「ああ、今日は教育委員会のお偉いさんが視察に来るってんでね、抜いちまったよ」
ショックで、その場に崩れ落ちそうだった。
「友人」だった雑草たちは、俺から見れば何が偉いのかも分からない年寄りへの見栄っ張りのために命を失った。でも、また、同じなのか違うのか知らない雑草がまたここに根を張り、またこの寂しい砂利の狭間から身を捻り出し、しぶとく生きながらえるのだろう。
人間は人生に意味を見つけたがるけど、ただそこにじっと在る、そんな雑草たちの生きざまに俺は魅入られていたのかもしれない。