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土曜日5

「いずれヨウとツキはテレパシーの能力が使える。ここまでは確定事項っつーことだ」

「テレパス? 私も?」

 月乃は驚いた様子だが、その部分、俺には特に驚きは無い。実際、俺には口に出していないはずの月乃の絶叫が聞こえたのだから。


「話が面倒くせーんだよなぁ、こっから先は。じゃあ、その超能力の定義ってのを簡単に説明すっか。黒石先生は普段は講義しねーんだよ、臨時講師は別料金だぞ」

 そう言うとジャージの内懐に手を突っ込んでタブレットと眼鏡を取り出す。

 ……だから、普通無いだろ、内ポケット。自分の能力よりそっちの方が気になるよ。

 どうやらタブレットには自分がまとめた文書か何か入ってるようだ。二,三度画面に指を滑らせる。


「ようするにさ。超能力ったってほとんど生活に影響がねー程度の力なんだよ。例えばスプーン曲げなんてサイコキネシスの発動ではあるんだけど、あのレベルでもむちゃくちゃ強力。実際には雑草の茎を揺らせるだけでもたいしたもん、って感じだ」

「だから俺達も、自分がそう言う力を持っている事に気がつかなかったって事? 力が小さすぎて、パワースポットで持ち上げられるまで気がつかなかったって?」


「んだ。……実際問題、さっきのサイコキネシスにしても自分の腕力以上のものをねじ曲げるとか、そう言うのは無理なんだと思う。あくまで自分の筋力の延長上にある力、みてーな感じだからな。それにお父さん式の分類ならそう言う力を、持ってる持ってないで区切るのもおかしいって事になる。みんなが普通に全部持ってる前提だ、例えば聴力とか腕力みたいなものの、その延長線上にあるテレパシーやサイコキネシスって考え方。……んーとな。力の大小。実用的に使える、使えねーは横に置いてみんな持ってる普通の力っつー事だ。だから最初期以外の文献では、超は取って単に能力と書いてある」


「ねぇランちゃん先生。そしたら私、テレパシー以外も使える可能性があるって事?」

「普通にな。但し走るのが速いヤツが居れば、泳ぐのが得意なヤツも居る。サッカー部だろうと方程式も解けば英語も訳せる。それと同じ事だと思えば良いべ。今のところツキはテレパシーで言葉を伝えるのが得意。ヨウは逆に聞くのが得意ってー事かな。あと一つ二つは見える形で発現する可能性、お前とヨウはかなり高いとあたしは見るね」


 ほれ、読め。その方が早えーわ。そう言ってタブレットを無造作に月仍に放る。

 月乃が慌てて捕まえたタブレットの画面を頭を並べて見る。【超能力関連書籍原稿(E-2)の前書きと思われる部分より要約抜粋】という題の付いた文章が表示されている。





 【……だから超能力、と言う言葉には違和感を覚えざるを得ない。超、と言う部分に関してである。なぜならば普遍的に誰でも持ち得る力であるから。という表現もこの場合は正しくない。誰もが持っている力であるから、なのである。


 何故に持っているのか、と言う疑問はさておいて、どうしてわからないのか。と言う点に対して答えてみよう。答えは簡単、あまりにも能力が小さすぎるから。である。

 ……映画やアニメの超能力戦士の様に相手の思考を読み取ったり、念力で岩を持ち上げたり等は出来ないのだ。例えばものを持ち上げるのなら最大でもその人の持てる重量の限界が念力で持ち上げる重量の限界であり、……テレパシーで呼び掛けようにも頭で言葉として整理した上でかなりの近距離で無ければ呼び掛けた事さえ伝わらない。単純に話しかけた方が数段早い。


 要するに持ってはいるが使い道が無いから使わないのであり、それはたまたまスプーン曲げのような形で発現する事によって日の目を浴びるのだが、意味の無いものとして曲げた本人が心に鍵をかけ無かった物としてスプーン曲げを封印してしまうのだ。

 テレパシー、サイコキネシス等の分類も実際的には今までの常識とは趣を異にし、それは例えば視力検査であったり体力測定であったりするイメージだ。先ほど書いた誰でも持つ力。は全ての種類の超能力を内包するという意味合いでもある。


 ……だから此所より先は、いわゆる超能力はあるのだという事を前提において超を取り払い、単に能力と呼称する事とする。そしてその種類や能力の方向性などを一緒に探っていければと思っている。今この文章をお読み頂いているあなた自身もまた能力者であり、明日にでも目に見える能力が発現する可能性はあるのだ。


 但し超能力戦士として地球を守る事が出来ない事は私が保証する。秘密組織を相手取って世界の明日をかけて歴史の裏で命がけの戦い。はあなたにとって幸運にもか、残念ながらかは判らないが、それは出来ない。


 なにしろ出来る事はあなたの家のスプーンが多少使いにくくなる程度の事なのだ。だから本書におつきあいを頂く以上は、曲げても良いスプーンを片手に……】





「これについてはお前らのお父さんが能力関係の本を書こうとしてたって部分も結構な驚きではあんだよ。どうせ認めてもらえねー研究の第一人者なら自費出版でも著書くらいねーとあとでツブしが効かねー。ってーのもあんだろうがさ。まぁ能力関係の基本的考え方はこれが一番しっくりくるんで、あたしの仮説もその文章ベースにしてるっつー事だ」


「ランちゃんやにーちゃんにも能力の、発現? ……それの可能性があるって事?」

「それはどうだべな。例えばピアノにしてもテニスにしても。超一流の連中って子供の時からやってるべ? そう言う意味での後天的な限界値の底上げとか、伸びしろの年齢的限界とかはあるんでねーがとは思う。ただ、思うばっかで今のところ何もわかっちゃ居ねーんだけどよ」

「やっぱりさ、能力? それがバレたところでそんなに悲観する事も無い気がするんだけど。その辺、叔父さんはともかくランさんとしては現状どう思ってるの?」

 ビールの缶を片手に話を聞いていたにーちゃんが口を挟む。


「まぁ、な。基本的に、って注釈付ければあたしもそうは思ってんだよなー。実は」

 ――またちょっと遠回しな話になっても良い? 順番的に不安要素の理由から説明したいんだ。そう言うとランちゃんはビールの缶を取る。

「この辺からは実際の能力者が近所に居なかったから実験も聞き取りも当然出来ねーし、だから全部あたしの仮説、っつーか想像なんだけどさ。体調不良、精神面でのダメージ。能力者であっても能力が発動出来ないことはあると思うんだ。トップアスリートだって風邪を引いたら走れねー。みたいな。――んー、んまく伝わってるかね? この辺」


「それはわかるかな。確かに、風邪引いてる時にごはんですよのキャップが開かないなんてのはあるよね。でもそんなのは……」 

 気配りの人にしては珍しく、そのにーちゃんの言を遮ってランちゃんが続ける。


「オーケー。で、前提として能力者の存在は公式には知られてねー、と。故にこいつらの事を聞きつけた誰かが、興味を持って研究を開始する。としよう。……問題はこっから」

 漸くいつもの調子を取り戻したランちゃんがビールをのどに流し込む。いや、いつも通りの明るいお酒じゃ無いようだ。少し目が据わる。


「こいつらが被検体になった場合。完全に認知された能力ではねー以上。実験での観察、同定の作業は必ず必要になる。どんな種類の実験だって絶対条件は一つ。いつでも同じ条件下では必ず同じ結果が得られないといけない。そうで無ければ実験する必要はねー。だから繰り返し、何度も何回でも実験する。ここら辺の概念は中学生だってわかる、よな? ――で。もし、仮にだ。万が一にも何度か連続して能力発動実験に失敗した場合……」


 明治時代、女性の公開実験では良い結果は出なかった。そして……。

「目立ちたがりの嘘つき呼ばわりされる。最悪世間から抹殺される事だって、あり得る。極端すぎるかも知れねーけど、可能性はゼロじゃ無いし、ならばあたしは看過出来ねー」

「そう言う可能性も、無くは無い。のか……」

「先生もかなり早い時点であたしと同じ結論に達した。だから超能力研究の第一人者になろうとした。……ヨウ、ツキ。お前らを守るために。自分専属の被検体にするために」

 ――お前らを守る。出来ればあたしの立ち位置もそうありてーもんだと思ってる。そう言うとランちゃんは大きくため息を吐く。


「超の着く心理学なんつーのは、勿論あたしの専門じゃ無い。ウチの大学じゃ無いけど真面目にやってる人達が居るってのも知ってる。だが、彼らには悪ぃけど全体で見れば正直オカルト、お遊びの延長って感じの扱いだ」

 ――先生だって本来の専門は犯罪心理学だしな。やっと調子を取り戻したランちゃんは冷蔵庫からいつもの長い缶を二本持ってくると一本をにーちゃんに放る。


「悪いけど、僕は明日午前中仕事だから今の分だけで良いよ」

「心配しなくてもあたしも遅くまで飲む気無いよ。……ツキ、冷蔵庫行くときだいちゃんの分戻しといて。――なんつーか非常に不自由なんだよ。専門外、しかも学問として認められていない分野の事をやってるというのはさ」

 ランちゃんは今まで飲んでいた短い缶をくしゃっと潰す。


「専門家じゃねーって事はスピードも内容も全てが足りねーって事だ。学問として認められていなければ作業は一人、参考文献だって使えるものは数が限られる。事態がこうなっちゃえば、実在する可能性がある能力の把握だけでも急がなきゃいけねーのに今は全てが足りてねーって、そいな話になるわけだ。――だいちゃん。あのハード、頼んでくれた?」

「ごめん、その話してなかったね。今年は前半、休み無しでやるから明日の午後にはもう渡せる様になるって言ってた。明日貰ってくるよ、料金は請求書で良いから月末に……」


「住所教えて。明日午後一番で貰ってくる。あのハードにあたしの四年分以上が詰まってる可能性がある。いや、どんな内容でも、仮に今までの資料とかぶっててもプラスだ。スピード勝負。だったらぜってー必要なんだよ」

 ランちゃんは、まだプルタブを引いていない新しい缶をもてあそぶ。

「そんなに慌てなくたって、数時間じゃないか」


「とにかくスピード勝負だって言ったべよ。例の新興宗教にツキの送信型テレパシーがバレた可能性が否定出来ねーのが不味い。ヨウの受信型テレパシーは大丈夫だとも思えっけど、それだって芋ずるでバレる可能性はあんだよ。趣味で4年研究続けた素人専門家が、徹底的にそれを否定しなくちゃいけねー状況があっかもわかんねーんだ。そしてそれをする為には、肯定的な資料全てに目を通して理論武装を強化する必要があっぺ? ……急ぐ理由はそういう事」

「わかったよ、わかった了解……諏訪さんの名刺、今持ってたかな?」


「あ、それとだいちゃんにもう一つお願いできた。明日、仕事だ。つったよね?」

「いや、うん。……午前中だけだけど、それがなにか?」

「パートのおねーちゃん、おばちゃん連中から例の光の人善行会の噂、良いのも悪いのもひっくるめて集めてきて欲しーんだ。新興宗教研究してる人の話を聞いたって、この場合あんまり意味がねーし。あたしには良くも悪くも素人のパイプがそもそもねーからさ」


 ――そうだなぁ、理由的にはあたしの実家が入信を考えてるって言えば、当たり障り無いんじゃねーか? コトン。いじっていたビールの缶をテーブルに置く。

「休みだし、おばさん方も全員出てくる訳じゃ無いけど出来る限りでね。町内会は不味いよなそう言う話、会長の奥さんとか詳しそうだけど。あとは警察か。――名刺、これ」

「ありがと。――警察とご近所はやめとこ、なんかあったらあとで色々面倒だかんな」

 にーちゃんから業者の名刺をもらうと、――悪ぃ、先にシャワー浴びて今日は寝るわ。そう言ってビールを二本、冷蔵庫に戻しつつ二階へと上がっていった。


「ランさん、お風呂もお湯張ってあるから入ってよ? シャワーだけじゃなくてさっ!? ――ありゃあ寝ないな。あの調子だと一晩中パソコンとにらめっこだぞ。全く……」

「ごめん、なさい」

 またしても俺と月乃は、事前協議無しのユニゾンでにーちゃんに謝まる形になった。

「謝るなら僕じゃ無くてランさんに謝れ。……遅かれ早かれいずれこうなったろうから、気に病まなくて良いさ。――タイミングねぇ。そう言うのって、あるんだろうな」

 ――明日は午後から雨かぁ、鬱陶しい。車、洗えないか。にーちゃんはドラマが流れていたテレビをニュースに替えると、いかにもな台詞を呟いたがわざとらしく聞こえた。



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