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土曜日4

「ごめんなさい」


 いきなり俺と月乃、ユニゾンでそう言われてにーちゃんは面食らった。

 そうなった理由は、夕食の片付けからにーちゃんがテーブルに戻って来るのを待った上で、――だいちゃんになんか言う事あんだろ、おめーら。と既にスーツでは無くいつものだぶだぶジャージのランちゃんに言われたからだ。


「いったい、何の話だ? えっと、あのな……」

「ちょっと待った。何をやらかしたかはあたしから説明する。今回についてはこいつらを許してやって欲しい。だいちゃんに迷惑かけたくねー、その一心からの行為なんだ。結果的にあたしにバレたから、結局心配かけちゃう事になってっけどな」

 今日の午後あった事を、ランちゃんが一気にダイジェストでにーちゃんに説明する。パワースポットと俺にだけ聞こえた声の話が抜けている。

 まぁ飲め。そう言った当人も含め誰も手を出してないビールとコーラの缶は少しずつ水滴が大きくなっていく。


「こいつらだけで覆花山……。いや、大丈夫だよ。僕は初めから、文句は言っても怒るつもり無いから。――で、ランさんは何しに行ったの? こいつらを追った。と言う訳では無さそうだし」

「こっからが色々アレなんだけど。先ずあたしがあそこに行った理由から行こうか。こいつらが会ったスーツの連中、新興宗教の事務屋なんだ。宗教法人光善館(こうぜんかん)。……光の人(ひかりのひと)善行会ぜんぎょうかいって言った方が分かり易いかな。――そ。こないだインターの前にドデカい本部を立てたトコな。そこが今、覆花山を丸ごと買収しようとしてんだよ。だから、公園として親しまれているから買収は考え直して頂けませんか、とか何とか。話だけでもしてみっかなー、って思ってさ」


「んー。……ランさん、公園なんて簡単に売れるものなの? 一応町の持ち物なんだろ」

「あたしもそう思ってた。けどあそこは公園じゃねー、空き地なんだよ。地元の町内会が花を植えて草むしりしてっけどな。頂上の半分は元々神社だったみてーだけど、もう引っ越しおわっちゃってて、土地は町に半ば強引に寄付した。あそこは町が持ってる空き地」

 なるほど、神様が居ないなら賽銭箱も無くなる通りではある。二人合わせて10円損した。と言う事らしい。そして聞こえた声は公園として解放する、とも言っていた。


 ――あそこは書類の上では公園じゃ無かったんだよ。ランちゃんはここで初めてビールの缶を取ってみんなを見渡す。みんなそれぞれ缶に手を伸ばす。

「土地は持ってるだけで維持費がかかる。田舎の財政はいつでも火の車。相手が宗教法人なのはちょっとやっかいだけど、得てしてその手の連中は金払いは良いからそこだけはもめない。あんなとこ、普通は売れないだろうけどせっかく買いたいと言ってる事だし、これから準備すれば今期の下半期には収入として計上出来ると町は踏んだ」

「大体そのとーり。だいちゃん、なんで学校のお勉強は駄目だったんだろ? さておき、――そこの事務方のトップがあそこに行くと小耳に挟んだんで、一応偶然を装って大事な思い出が。とか嘘泣きしながら言ってみっかなー、なんて思って。そしたらこいつらが居た、そういう事」


 何故博士の“コスプレ”をしていたのかはわかった。服装によって相手の態度は変わる。だから普段はどうでも外で誰かに会うときはキチンとしろよ。にーちゃんは何時もそう言うが、ランちゃんは心理学者だ。そういう事は言われなくてもわかってるだろう。

「とにかく今は何もわかんねー。だからあそこは公共の場であって欲しいんだけど。……でも、直接話さねーで良かったかもなー。タイミングってあると思う。こいつらが居なかったら要らない事まで喋った気がする。あたし、だいちゃんほど人間が出来てねーから」


「要らない事?」

「昨日の話の続き、超能力の話の続きだ。あたしがある程度、押さえてまとめた話だよ。核心部分が抜けてるって昨日言った、その話」

 ――覆花山には関係ないんじゃ……。にーちゃんは怪訝そうな顔で缶を口に付ける。

「残念、ところが大ありなんだわ。あそこは特定の人間にとって、超能力を発動させるには最適の場所なんだ。――ん? そーだな-、俗っぽく言えばパワースポットってぇ感じでも、いいかなー。……で、先生が何故その辺、ぼかした表現しか使わなかったのか。それの理由が今日わかった」


 ――だいちゃんと一緒。大事な家族を守りたかったからだ。そう言うとランちゃんは手を組んでそこに額を乗せる。顔が見えなくなる。

「……もう少し分かり易く話して貰わないと、僕にはさっぱり」


「遠回しだったね。――はっきり言っちゃえばヨウとツキ、二人ともかなりのレベルの超能力者だっつー事。そしてそれに気付いて露見する事を恐れた先生はむしろ本格的に研究に没頭していった。……自分の子供が見知らぬオカルト系科学者の被検体になるのはイヤだっつー理由でね。あそこは多分、少なくともこの二人にとっては最強に力を引き出せるスポットなんだ。この二人の事を隠そうとしてたから、文献は内容が歯抜けになってた。そう考えれば資料の穴が。……埋まるんだ。埋まっちゃうんだよ」


「そんな場所を私有地にされたらそれはちょっと困るけど。でもそれって、むしろすごい事なんじゃ無いのかな? 別に隠す必要なんか……」

 でもランちゃんはそれにはすぐに答えず、顔を上げるとビールの缶に手を伸ばす。

「あるよ、資料の何処にも書いてやしねーけど。だいちゃんも納得する様な理由が、さ。ちゃんとあんだよ」


 ビールの缶をずいと押しやるともう一度手を組み、今度はあごを乗せる。

「近代日本で超能力が初めてブームみたくなったのは明治時代、千里眼と称された二十代前半のさる女性から。ってー事になんのかな……」

 ランちゃんの話は一切の前置き抜きで始まった。




 ――そう、彼女は千里眼の持ち主。今風に言えば透視能力者、かな。横文字で言えばクレアボヤンス。んーと、あと能力的にはリモートビューイングやプレコグニションも含まれるって事に成るかなー。まぁとにかく、そう言う能力があると思われる人だった。っつー事だ。


 ――んで、それを知った今の東大にあたる大学の先生が彼女を研究した。紙に何か書いて封筒とか両側潰した鉛の筒の中に入れて、その内容をあてさせる。みてーな実験をね、何度かやってそれなりに結果もでた。当然色んなところから反響があって、大学のエライ人や新聞社なんかの立ち会いの下で、公開実験をおこなう事になったんだ。


 ――ただ、公開実験では良い結果が出なくってねー、むしろインチキの証拠みたいなもんまで見つかった。で、当然各方面から叩かれた。今ならまだ世間知らずの小娘と言い張っても何とか通るくらいの、あたしとさして変わらん当時二十三歳の彼女が、だ。……いや、だいちゃん、いったん話が終わるまで黙ってて貰おうか。


 ――いずれ今残ってる資料を見る限りでは、彼女の千里眼に肯定的な結論に至っているものはあまり多くねー。ほぼねーと言って良い。まぁ、事の真偽はともかく。公開実験以降、彼女の超能力は基本的にインチキとしてみられた、と。そーゆー事になんだろーな。


 ――その彼女は二十四歳の時、服毒自殺で亡くなってんのさ。これは公開実験の翌年だ。でもこれは透視実験とは関係がなくて実は家族間トラブルが原因って説もある。


 ――ただ、事実はこうだ。千里眼と謳われた女性は公開実験失敗の翌年、自ら命を絶って亡くなった……。




「先生、だいちゃんの叔父さんが何を心配してたか。……わかってもらえるよな?」

「わかるんだけど、……でも。研究者とかマスコミに関わらなければ良いんでは?」

「超能力持ちがバレればそうはいかねーさ。キミの叔父さんの職場は何処だ? いろんな事の専門家中の専門家、オタクの中のオタクが白衣を着てうろついてんだぞ。そーゆー事に興味を持つヤツは絶対居る。先生だってその身内だ。逃げを打てっと思えっか?」



 ランちゃんは予想していたのだ。証拠が手元に無かっただけで俺達に超能力があると初めから思っていた。だから覆花山に行くなと言った。何かの拍子に超能力を使ってしまう事を恐れて。それが他人にばれてしまう事を恐れて。

 そう、今回のようなことが起こる事を恐れて、だから行くなと言った。但し、そんな理由は絶対に明かせない。


 ファミレスでのランちゃんの言葉が蘇る。――いや。いずれ今更だよなぁ。説明をしたいが故のあのハードディスク、だったのかも知れない。だったら俺達はその説明の先回りをしてしまった事になる。



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