双子の妹と俺
そして結局。
普通の日々は普通のまま続く。
続くことを許されたのか続けられる権利を勝ち取ったのか。そこは良くわからないけど。
俺と月仍は相変わらず県立の中等部二年だし、
にーちゃんは会社員だし、ランちゃんは野良猫博士だった。
……いや、最後だけは少し変わったな。
ゴールデンウィーク明けのある日、
「だいちゃん。家賃は払うし、リフォーム費用は全額持つからガレージの二階さー、あたしに貸してけんねーがな?」
ランちゃんが突然言いだし。その二日後には、いきなり建築業者がすごい規模で工事を始めた。
そして約三週間かけてガレージ二階はもとより、母屋二階とつなぐ渡り廊下まで作った大工事が終わった直後にアパートを引き払ったランちゃんが越してきた。
「ね、ランさん。……いくら、かかったの」
「ひ・み・つ」
けれど一番大きな問題はそこには無くて。
「――は? ……大学辞めたって、どう言うこと!?」
そりゃにーちゃんで無くとも驚く。
「人の為に働くのも、人目を気にして働くのも、もうイヤだって事。……いやいや、だいちゃん、怒る前に聞ーてよ。研究じゃ無くて物書きだけど仕事はあるんだよ? それに前に書いた本が何故か大ヒット御礼になっちゃったっていったべ? 目先の銭もある」
書いた当人さえ、何故当たったのかわからないと首をかしげる雑誌のコラムをただ纏めた【教えて! ららちゃん先生!!】は、もっか五週連続売り上げトップテン入りしている。
著者近影が眼鏡をかけて茶髪をくくってある写真なのがちょっとズルい。
メイクもバッチリ決まってるので、何時もの金髪ストレートの本人と会っても誰も気付かないだろう。
更には同じ作者だと言う事で過去に出して本人さえ忘れていた本まで売れ初め、夢の印税生活だ! と当初は喜んでいたくらい。
取材対応など面倒事が増え始めたので喜んだのは当初だけだったが、これについては大学からもイメージアップに貢献した。としてご褒美のボーナスが出ていたはず。
もっともあまりお金に興味の無いランちゃんがそれを喜んだかどうかは知らない。
まぁ、普通に考えると基本的に辞める理由は無い。
一応の説明を受けたにーちゃんは、それでも、
――うーんわかんないな。と首をかしげる
「あとさ、分家の叔父さんって人が去年亡くなったって葬式行ったろ? 子供いない人だったんだけど、なぜだかあたしに遺産の一部が転がり込んできてね。……諸々の結果、今の預金残高はOL換算だと生涯年収はるかに超えちゃってんだ。ここから先は趣味の研究だけで暮らすんだ!」
ついでに言えば普段の生活には普通の人の半分もお金がかかっていない。
実質大学に住み込んで、家賃二万円のボロアパートの電気とガスは使わず、普段はジャージかスエット以外着ないし、下着さえ百円ショップや安売り店でほぼ済ませてる。
更には三度の食事さえ忘れるし、食べるにしても菓子パン一つで一日暮らせてしまう程に燃費が良い。
お金がかかる買い物と言えばアルコールのみ。
そして具体的には知らないが大学でのお給料も、同い年の事務員さんなんかに比べればはるかに良かったらしいし、その給料だって。
そう言うことだからここまでほぼ手を付けないで済んでしまっているはずだ。
口で言う程欲のある人じゃ無い、お金は貯まるだろう。だって使わないんだから。
「あとであたしの部屋、見に来てよ。綺麗に仕上がったよ!」
お金はある。だからこれからはニート生活を満喫する。どうやらそういう理屈らしい。
そして月末にならないとわからなかったことがもう一つ。
「なんだこの電気料金? ウチはいつから商店になった! ちょっと、ランさんっ!?」
ランちゃんはリフォームと一緒に最新鋭超豪華電化製品を店ごと買い占める勢いで買い込んだ。
省エネやエコのマークが付いている商品ばかりだったが、量はちっともエコでは無かったと言う事だ。
そしてその電化製品を使い切る為、木の板にネジ止めされた15Aと書かれたブレーカーとコンセント一つ。
それしか無かったガレージ二階はブレーカーが8個付いた立派な分電盤が取り付き、電気が足らなくならない様に母屋のブレーカーを大きくして、配線を太くする電気工事も契約容量の変更も。リフォームの時にキチンとしてあった。
結果、それがバレたランちゃんはにーちゃんに怒られたのだった。
と言う事で、変わったことと言えば野良猫博士が引きこもり博士になったことと、電気料金が二倍になったことくらい。
普通の定義なんて結局なにもわかっちゃいないが、それでも。
今日も俺と月仍は自転車で学校へと出かける。
平凡な日常。いつも通りに、普通に。
風景シリーズ、2作目の終了となりました。
これもひとえに読んで頂いた皆様のおかげです。
お付き合い頂き本当にありがとうございました。
感想等頂けたら嬉しいです。




