その後 2
全員ベンチにへたり込んで動かない。と、突如月乃はぴょんと飛び跳ねる様に立ち上がると俺の前に回り込む。
お前の循環器は鋼鉄と耐圧ホースで出来ているのか?
「なぁ陽太、……サイコキネシスで穴って掘れると思うか?」
「手で掘った方がマシなんじゃねぇのか? ……パワースポット効果も乗るって話か? ――出来ない事は無いと思うけど、それでも多分メートル単位でなんか掘れないし、力の上乗せで無理すれば超筋肉痛確定だぞ? ……何する気だ?」
「体育会系舐めんな、筋肉痛が怖くてサッカー出来るか! ――手帳を掘り出すんだよ。見えた感じではそんなに深くなかっただろ?」
月乃はさっきの映像で手帳のあった辺りに早歩きで向かう。よく見ると地面にはひび割れた様な跡が大小二つある。
荒唐無稽な話ではあるが、月乃の行動自体がパストコグニションで見た残留思念の映像を元にしている。もとより影も形も無い話だ。
小さいひび割れの上。月乃が右の手のひらを地面につけ、左手で引っ張る様にすると手のひらより一回り大きく地面が剥がれて手のひらに付いてくる。
厚みは手のひら程度。
そう言う掘り方かよ! ……まさに荒唐無稽な景色だった。
「硬い~。スコップでも掘れないなこりゃ。……こうやって掘るのが一番早いよ、多分」
「無茶苦茶なことを……。副作用で爪が割れたりするかも知れないぞ」
「そん時はそん時。今は私は穴を掘る!」
それを一三回繰り返した。深さは五〇センチを超える。まだなにも出てこない。ある程度回復した善道さんは、何処かに電話をかけながらこちらを見ている。
「右腕がだるい、肩が外れそうだぁ」
「もうやめとけよ。大体俺が埋めるの前提なんだろ? それにチャリで帰るんだぞ?」
あまりがんばられるとあと作業が厄介になる。休みの日にスコップでも持ってきた方が早い。
もっとも大っぴらに穴を掘って良い場所なのかどうかよくわからないんだけど。
「まだ動ぉく! うりゃあぁああ!」
月乃の右手に分厚く付いた焦げ茶色の土の中、茶色の背表紙が見える。
「やったぞ月乃! 発掘成功だ!!」
土に密閉されていたからか、革の厚いカバーが良かったのか。
あまり傷んでいない手帳は、しかし中身は開けずに土だけ落として持ち帰る事にした。
ランちゃんとにーちゃんに事の顛末を報告する時に、一緒に中身を見ようと思ったからだ。
その後。
善道さんのおつきの二人がホームセンターのシールを貼ったスコップを抱えて登ってきて、穴を埋め、一礼すると善道さんとともに帰っていった。
穴を埋めてくれることでいい人を演出したわけでもあるまいが、相変わらず気の回る人だ。と思う。
「なんかお礼、した方が良いのかな?」
「最後に関しては、微妙な良い人加減だけどな……」
「地割れが起こったのを見て慌てて戻そうとしたところでそこに落ちた。何せ暴走中だ。その後意思に関係なく修復の力だけは発動した。……その映像に解説を付けるならこーとしか言えねーな。――だいちゃん、あたしからも頼む。気持ちはわかるンだけど、そこを何とか。今回は、その、許してやってくんねーかなー。って。……ね? ダメ、かな?」
『あたしらに最期は見せたくねーってか。確かに雅乃さんの子供だよ、優しいんだから』
「……怒ろうかと思ったけどやめた。僕らに内緒にした気持ちはなんとなくわかる」
『僕らに最期を見せたくない、か。要らないところで大人になりやがって、こいつ等は』
完全にこちらの意図は読まれた上で文句も言わず怒りもしないことにした様だ。
但し声が聞こえるのは二人とも言おうとして飲み込んだから。
自分の目で確認したかったのは良くわかる。
でもこの二人にはやはり見せなくて正解だっただろう。
あの映像はもしかしたら、二人が大人だからこそ俺達以上に衝撃を受けたかもしれない。
「だいちゃんがなにも言わないならあたしがなにかを言うところじゃ無い。……残留思念は、そう言う概念はあったんだな。そうか、認識を改めないとな。……幽霊みたいなもの、では無いんだよな。――違う、そうじゃねーぞ。お父さんの幽霊ならあたしも会いたい!」
お化け、幽霊の類が大嫌いなランちゃんではあるが、そういう人がどうして誰もいない学校や、電気の止まったアパートで寝られるのか不思議ではある。
夕食の準備が止まって約三〇分。
大体の事情の説明が終わったところで例の手帳をテーブルの上に置く。
「これが本当に先生最後の記録っつー事か。だいちゃん、このシステム手帳に見覚えは?」
「無い。叔父さんが手帳を持ち歩いていたことすら知らないよ」
「あたしはこの手帳は知ってっけど中身は……。お父さんは最後のページ。何を書いた?」
「記憶の映像ではぼけてて見えなかった、そして直接は見てない、まだ開けてない」
「みんなで見るのが良いと思ったんだ。私と陽太だけだと、変なことが書いてあったら耐えられないから」
――変なことなんか書いてねーだろー。と言いながらランちゃんも手帳へ手を伸ばすことはしない。
だからあえて俺が開き止めになっている革のベルトを抜くと、表紙とベルトの間に入り込んだ細かい土がテーブルにこぼれる。
最期のページを探すべく後ろからページを繰る。見えた映像では三行、黒いボールペンで書き込んだはずだ。
「……ここだ」
【プリメイン付加実験が上手くいけば能力封印のめどが付く 手法は乱暴かも
知れないが単なる小学生の方が二人の為だ 我が子らに始終ご縁のあります様に
これより装置稼働2:26PM】
「……ランちゃん。意味、わかる?」
大きな瞳に涙を溜めてそれでも博士の顔になると、視力両目1.5の彼女は黒い伊達眼鏡をかける。
素通しレンズの向こう、涙は見えても瞳の写す気持ちまでは見えなくなる
「勘違いしてた……。先生はテレキネシスの能力者なんだ。疑似プリメインアンプの使い方って。――荒巻にしたことを自分でおまえらにしようとした、んだろう。……多分」
「ランさん。……なら、実験って」
「自分でコントローラとアンプリファイヤの能力を行使して、二人の能力全てをまとめて握り潰す(封印する)つもりだったんだ。……テレキネシスは仮想スイッチを破壊するのに必要だから、だからテレキネシスの能力発動にこだわったんだ……!」
あとはうつむいてしまったランちゃんをあえて無視して更にぱらぱらとページをめくる。
どうやら研究日誌兼日記のようなものなのか。研究の進捗を書いた物も、日記も各々別にあった様なので防備録というか雑記帳というか、そういうものなんだろう。
毎日書いているわけでも無く日付もあったり無かったり。
1ページに何日分も書いてあることもある。2,3年分くらいは有るだろう。
実験や研究が全く関係の無いページで指が止まる。
【10:30AM 国立の大友教授とTEL 助手が欲しいのでランを出来れば
引き取りたい旨 但し専門が多少食い違う ランを学内に残すメリットは?
但し当人はイヤがるよな 給料と食堂はサイコウなんだが アイツは食い気も
金目もかんけー無いヤツだし 困った娘だ
せめてキンパツ止めてくれないかな・・・
来週PM東京の会館中会議室にて会合 火曜11:00頃
大宮新幹線ホーム待合わせ】
「先生……、あたし、あたしは……」
【3/26 1:00PM 宇都宮れいなちゃんからメール
広大は当分頼むとのこと
観ゼ音のこともあるから今はまだ戻るのはキビシい?
弁ゴ士事ム所大山先生と家裁へ
一応相談するか?
大山先生→29日1:30PM 研究室来訪打ち合わせ予定】
「……叔父さん」
“れいなちゃん”は母さんの妹、にーちゃんのお母さんであるところの宇都宮の叔母さん、麗菜叔母さんだろう。
映画にまで成った大事件を起こしたにーちゃんは地元では悪目立ちしすぎて普通の生活が出来なくなった。
ちょっと悪ぶった高校生は存在を抹殺されてしまったのだ。
だから父さんがこっちで生活できるように手を打った、そういう事なんだろう。
少なくとも、最期のページだけ解説してもらえばあとは俺達は見なくても良い。
だから月仍と二人、立ち上がると夕飯の準備を再開する。とは言え。
「このカレー、今日食べきるかな?」
「だったらお前が二人分食え! 食い切らなきゃ明日もカレーだぞ……」
「……黄色くなっちゃうよっ!」
することは鍋を温めてご飯をよそうだけ。昨日にーちゃんの監督の元、ランちゃんが張り切ってやたらたくさん作ったカレーが残っていたからだ。
今回は最終回と言う事で変則的に
一時間後にエピローグを投稿します。
別にリアルタイムで読んで頂く必要は無いですが、
最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。




