表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

水曜日5

「目撃の手段もおわかりになりましたか?」


 ランちゃんはカマをかけるような会話を続けているが、間違いなく俺との電話や現地での会話も光人善道はランちゃんの記憶の中で見て、聞いたはずだ。


 俺は既に前半のどうでも良いエピソードは半分忘れているがきっとこの人は全て覚えてるだろう。

 完全に理解出来たなら、そもそも忘れるはずが無い。

 この人のパストコグニション自体がそう言う能力である事を俺は理解した。


 厳密に言えばテレパスの能力も混ざっているだろうが、電話や通信機を連想するような俺や月仍の持つそれとは全く違う。

 過去が見えるだけでは無い。見えた過去に付随する心の中にわだかまるもの、過去に考えた事など、その記憶に対する“感想”までがまとめて見えて、聞こえてしまう。


 記憶に絡めてイメージ化した画像や言葉。そんな本人でさえ良くわからないようなものを、握手一つで言語化、イメージ化した上で見聞き出来てしまう。

 この人が持つのはそう言う能力だ。ただの過去視では無い。


 必ず過去の実体験が絡む必要があるから、現在何を考えているかまではわからないだろうけれど。

 それでも彼は存在しないはずの他人の頭の中まで読み取る、サトリの化け物なのだ。



 確かに信者が何に悩んでいるかなど簡単に見抜くだろう。

 自分で自分を誤魔化している微妙な感情も。忘れてしまった過去も。何もかも今まで見聞きした事全て。

 この人に自分の来歴について嘘を吐く事は不可能だ。


 そしてその衝撃的な映像を見、記憶の独白を聞いて尚、全く平気で話を続ける。

 能力もすごいが本当にすごいのはこの精神力だ。



「確かに警察に相談しても取り合ってはくれないでしょうね、誘拐されるビジョンが見えた。などと言ってもね。そして妹さんを誘拐したものが、当会の理事長、荒巻であると。そういう事ですか。私に相談というのは」


「荒巻理事長は陽太も一度、顔をあわせています。彼が見たと言っている以上、何故そこに居たのかはともかく現場に居合わせた事、それ自体はほぼ間違いないものと考えます」


 ――荒巻理事長はもう帰りましたか? 机のインターホンを取り上げ、やりとりをする光人善道の顔が曇る。

「ふむ。困った事になりました。一昨日の昼から誰も彼を見たものが居ない。携帯も通じないのだそうです……」

「それでは……」


「黒石先生はお疲れのご様子、先ずは家にお帰りになるのが良いでしょう。妹さんが帰ってこないとも限らない。……こちらで何かわかればすぐに連絡をいたしましょう。――私はいつでも出ますのでこの番号に」


「妹に何かあった場合、私は。……荒巻氏を、その仲間を。殺すかも知れません」


「ふむ。天網恢々疎にして漏らさず、と申します。夜であっても神の見通せぬ闇は無いのです……。お気持ちはごもっとも。ですが、黒石先生のお立場の方が、あまり軽々にそのような事を口にされるものではありませんよ。――ちなみにこの場で信じて頂けるとも思えませんが、覆花山の件については荒巻の独断です。一度計画は中止させましょう。これを私の身の証だと思って頂けませんでしょうか。少なくとも私は黒石先生の敵では無いし、勝手な話ではありますが今後も懇意に願いたいとさえ思っています。ですが今、このときにはそれを示す身の証、それが他に無いのです」


 まだ話をしていない覆花山も話に織り込む。光人善道が悪人で無い事を祈るばかりだ。


 ――お客様がお帰りです、お見送りを。ランちゃんが覆花山の単語を聞き、むしろ機嫌を悪くして彼をにらみつけつつ立ち上がったのを見て、光人善道は柔和な表情は崩さず、インターホンのボタンを押してそう話しかけた。





 無言でボルボまで来た俺達はそのまま車に乗り込みシートベルトを締める。ランちゃんがエンジンをかけて、こちらに向き直る。


「どうだった。パストコグニション、本物だったか?」

「本物。しかも笑っちゃう位に強力。――あんな能力が俺にあったら、多分気が狂う」


 テレパス、それもレシーバである俺でさえ、他人の頭の中の映像は見えないし、想いなどは聞こえない。心の中で大事にしていることなんか当然わかるわけが無い。

 いや、さっきの件でもう懲りた。それらについては今後一切、相手が誰であろうとわかりたくない。


「そうか。……なんか、見えたんだな?」

「見えた。過去に絡む会話はもちろん思った事まで全部わかる出鱈目な能力だ。ランちゃんの分類ならあり得ないし、それが見えても平然としてるあの神経もおかしいよ。――ただ約束だから見聞きした事は話さない。ランちゃん本人にも、誰にも」


「そうしてくれっと嬉しい。真面目なふりをしていただけで、面白くもおかしくもねー、地味ーで暗ーい青春時代を送った女だ。なんて話は知られたくねーし、言われたくもねー」

「……あれって、自分でも何かわかるものなの?」


「ここまで生きてきた中で最高にイヤな記憶だけが鮮明に丸ごと蘇ったぞ。二,三日寝付けねーぐれーのレベルでな、どういうんだアレは。――たった数十秒、どんだけ見えた?」

「約束破って良い? ――――うん、ごめん。……約三十年分、全部」


 ――なるほど。これはもう、ヨウには一生逆らえねーな。そう言うとボルボは走り出す。

「何が見えたかは約束通りで良い。……彼の能力の概略だけ、聞いとこうか」


 ピ。広い駐車場から道路に出たところでナビの画面がようやく立ち上がる。そこには 

【LOG:02 / FR : +67 LR : L24 / AbilityPerson(s) : Multiple / Last:15min】

 と表示が出ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ