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火曜日(祝)4

「カーナビのGPSは衛星捕まえてる? ――おーけー。だいちゃん、一応確認すっけど後ろの機械は触ってないんだよね?」


 俺より年上の車とは思えない軽い音でエンジンがかかったボルボのトランクを開けて、工具やなんかを入れる部分をランちゃんがごそごそ確認している。


「例の基盤だったら触ってないよ。特に電装系に悪さもしてなさそうだったし、この車に関しては基本的に通常メンテ以外いじらない。って約束だしね」

「確認しただけだから気ぃ悪くしねーでよ? 何しろ先生が居ねぐなってから稼働した事がねー。旨く動けばお慰み……。グローブボックスの中に蓋がついて隠れたボタンがあるかな。保持らないただの押しボタン。――了解。じゃ、一回だけ押してランプ点灯(つく)か見て」


 何となくリアシートに乗り込んだ俺と月仍だが、現状特にする事は無い。

「ホジルってなんだろう?」

「俺に聞くな」

 機械関係の専門用語かな。こんなにケータイ、PCはおろか機械関係にさえも明るいのに何故家事が出来ないんだろう、ランちゃん。


 ただ、名刺にソリューション設計部係長補佐。と書いてあるにーちゃんには通じた。

「ただのメイクの押しボタンってこと? これかな? ――お、赤いランプついたよ」

 その声を聞いてランちゃんはリアのドアを閉めると助手席に乗り込む。地図が古くて普段使っていないカーナビ。FMになっていたスイッチをAUXに切り替える。【No signal】画面にはそう表示される。


「DVDプレーヤーとかつないでないし、どうするの?」

「そう、このノーシグナルの表示がくせ者だったのよ。さっきの機械がAUX入力に噛んでる。ナビ本体が表示しているんじゃねくて、あの機械が出してんのさ、この表示。更にGPS信号をフィードバックして再計算して再度戻すっつー面倒くさい制御をしてる」

 ――当時GPSは精度の良いのは高かったからナビから借りてるかたちなんだ。この車、GPSアンテナだけで二組あるんだぜ。そう言うと後ろの俺達を振り返る。



「ツキ、ヨウになんか“無料メッセ”、送ってみ?」

『やっぱりみんなそう思うよね、無料メッセって』

 全く躊躇しないでテレパシーの色がついた月仍の声が聞こえる。

「ふざけんな! 一通受信するごとに10円取るからな!?」

「やったな? おーけー。――おっ。ホントに来た……っ!?」



 画面の表示が【Signal reception......Please wait.】に変わり、そして数秒後、素っ気ない文字列が表示される。


【LOG:01 / FR : +0 LR : R0 / AbilityPerson(s) : Multiple / Last:0min】



 やや顔色の悪くなったランちゃんがうなずく。

「能力者複数、装置中心で1m以内。間違いなくここだ。スペック通りなら半径200mはいけるはず。――これほどまで研究が進んでいたとは。……もう既に研究者の仕事じゃ無い。こんなの、本当にマッドサイエンティストの領域です。……先生、いったい」


「ランちゃん、これって」

「あぁ。……これはアビリティ・ディティクター。日本語にすれば能力者探知装置。こないだのハードに名前と仕様書があった。期待してねがったが本当に稼働するとはな」




「前提条件としてその箱は先生が失踪する前から研究室にあった。ある装置を作ろうとして失敗したものだ。記録上作られたのは四台。今、目の前にあるモノの他、あたしのアパートにも同じものが二台ある、その三台全て稼働しねー。そして行方不明が一台あるが」


 ランちゃんはそこまで喋るといきなりコーヒーカップを煽る。かなり濃いめに入ってしまったはずだが、一気に飲み干してしまう。やけどしないもんなのか心配だが、いずれコーヒーの飲み方じゃあ無い。何かを非道く気にしてる様だがビールや酎ハイで酔う訳には行かない、と言う事なんだろう。


 取りあえず車庫から戻ってきた。コーヒーが飲みたい、と言うランちゃんの申し出によってアルコール類では無くコーヒーカップ四つと、そして無骨な金属の箱がダイニングのテーブルの上に置いてある。そのカップの一つは今、あっという間に空になった。月乃がおかわりを入れる。

 コードを差し込んでもスイッチやボリュームをひねっても動かないらしい。成功した機械があるにしろ何に使うのか、この見た目からはまるで見当もつかない。


「研究進捗のメモ、走り書き、考察のまとめ、機械の設計図、それに日記……。あのハードには色々見た事無い資料が残ってた。その箱も資料に詳細が出てた。行方不明の一台は一番最初に作られたモノ。そして設計通りの動作を確認出来たのはその一台だけ」

「ランさんが持てる位だ、中身空っぽだね? デカいのは熱を気にしてるのかな。中身が持てない位に熱くなるって感じ? さっきのアビリティ・ディティクター、だっけ? そう言う類の機械?」


「大体だいちゃんの読みで良い。熱対策で基板を浮かせて箱自体をデカくした。中身は大してデカくない。見た目が荒いのは箱の加工まで先生が自前でやったからみてーだ、穴開けてメッシュを張るつもりはあったみてーだし、1台目はそういう加工もしたようだ。ファンでも付ければそれこそ大きさは1/5で済む。――ただ機械の性質はまるで違う」

 ――どこから話をしたもんか。そう言ってコーヒーカップを見る。その後、ぽつぽつと語り始めた話。ランちゃんを泣くほど追い詰めた事実は確かにあったのだ。 



切りが悪いので18;00に続きを投稿します。

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