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空から異世界がまるごと降ってきた。  作者: 稲荷竜
一章   本当に魔王との戦いは避けられないのか?
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裸ジップパーカー魔王の語る、異世界の物語

「戦争が、あった。

 長い戦争だ。そして、激しい戦争だ。

 人の側はとっくに戦いにいたった経緯さえも忘却しているであろうよ。


 まあ、もっとも、おぼえておくほどの理由でもなかった。

『姿の違うあいつらがなんだか気にくわない』。

 このようなささいな原因でケンカが起きてな。

 たまたま同じようなことを考えていた者は、あちらにもこちらにも多かった――言ってしまえばこの程度のことだ。


 そんなものが理由で、最初の数十年戦った。

 あとは、最初の数十年でできた絆や怨恨、義務や仕事なんかが理由で、ずるずるといつまでも戦いを続けていたという有様だ。


 最初の数十年だけでも、色々あったぞ。

 人の側の代替わり。

 こちらも、初代魔王が寿命でなくなり、我らの側での小競り合いとかな。


 次の数十年は、お互いにだいたい内輪もめをしていた気がするな。

 内争の果て、人の側の権力機構もかなり変わったようだ。

 そして我らも変わった。


 我らはな、幾人かの『ロード』を制定し、その王たちで一番偉い『魔王』を持ち回ることにしたのだ。

 その時々の『魔王』の性格によって、戦争の様相は様々だった。


 オークロード〝蛮族の君臨者〟ギィガァの時代などは、一番戦争が激化した。

 逆に戦争が沈静化したのは、インセクトロードの時代であったな。

 まあ、何度か代替わりをして、ようやく現在、私の時代は来たわけだ。


 このころになると、戦争は日常の一部だった。

 なんで戦争をしているかはどうでもいい。

 なんなら、戦っている相手を別に嫌ってもいないという風潮さえあったな。


 ただ、引っ込みがつかなかったのだと思う。

 積み重ねた怨恨、失われた生命、戦いそのものの歴史……様々な要因が、言ってしまえばそもそも『その場のノリ』で始まった戦いに動機付けをしてしまっていたのだ。


 だからな、我の代で綺麗に終わらせてやろうと思ったのよ。

 他の魔王たちがしなかった……苛烈な性格で知られたオークロードでさえやらなかった方法でな。

 つまり――魔王自ら先陣に立ち、人の領地に切り込むという戦い方だ。


 なんで戦争を終わらせようとすると魔王が先陣に立つかだと?

 当たり前であろう。なにせ我らは強さによって『王』として君臨しておるのだからな。


 一番強い者が一番前に出る。

 この『当たり前』を今まではどうしてか、みな、やらなかった。

 だから我がやった。

 それだけのことだ。


 我の手段による成果は上々であった。

 ここ百年あまりちっとも動かなかった版図は、めまぐるしく変化することになる。


 まあ、我の強さのお陰だな。

 あとは、我の率いる『不死の軍団』のお陰でもある。

 アンデッドロードとは、不死者の王であるからな。

 死なぬ軍が先頭に立ちひたすら敵地を蹂躙するのだ。

 我らの歩みを止める者は、皆無だったよ。

 しばらくのあいだはな。


 ……と、そんなことをしていたある日、ついに止まることのなかった我が軍団が止まる。

 人の側の英雄――『終わりを始める者ども』こと勇者どもとぶつかったのだ。


 面白く、美しく、なにより強い相手であった。

 やつらとの戦いは、激化の一途をたどった。


 こちら側にも、あちら側にも被害が出た。

 だが、いいこともあった。

 反目とまではいかぬが、互いに牽制しあっていたロードたちが、団結したのだ。


 我はオークロードがただの乱暴者ではないことを知った。

 さぼり癖のあるインセクトロードの内心を知った。

 他にも数々のロードたちとわかり合い、我らは初めて一つの集団としてまとまった。

 ……まあ、まとまったそばから、欠員は出たがな。


 ようするに、人の側も同じだったのであろう。

 長い時を経て、我らはようやく総力を結集した殲滅戦に入ったというわけだ。


 日に日に戦いは激化する。

 けれど、飽いたような、疲れたような表情をする者は皆無であった。

 敵にも味方にも、な。


 戦争がついに終わる、と誰かが言い出した。

 我も終わるものと思っていた。


 目の前の戦いさえ終えたならば、人か、我らか、生き残る者が決まるのだと――

 あるいは。

『勝者』と『敗者』というかたちではあっても、戦わず、人と我らが共存する世が来るのだとそう思っていた。


 力を尽くし、奥義を尽くし、我は我らのために戦った。

 向こうも同じだ。


 その戦いの果て。

 戦いが臨界に達し、この世すべての力という力が、一箇所に集まったかと思われた時――

 不意に、地面……いや、世界に穴が空いた。


 戦いをしていた我らは逃げることもできず、その穴に呑み込まれていったのだ。

 ……それが、ここにいたるまでの経緯。

 我らが我らの世界から、この世界に落ちてくるまでの、すべてだ」

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