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空から異世界がまるごと降ってきた。  作者: 稲荷竜
三章   魔王と勇者は敵対しなければいけないのか?
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パソコン画面から美少女が現れた

「わたくしは神である」



 金とも銀ともつかない髪色の少女は、無表情のまま言い放った。

 手元に電話があったらきっと通報していただろう――『110』か『119』番かは知らないが、一目で『コイツはヤベェ』と思わせるに充分なインパクトを、その少女は放っていたのだ。


 まずは容姿。

 美しいことは美しいのだけれど、人間味というか、魔物味まものみというか、生物味せいぶつみが感じ取れない。

 かといってただの人形のようでもない。たしかに機械的で無機質ではあるけれど、それ以上に不気味さが際立っていた。

 そう、たとえば。

 勝手に動く人体模型とか、髪が伸びるお菊人形とか、そういった超常的な恐ろしさが、その少女からは発せられていた。



「わたくしを呼び出したのはお前か」



 と、自称神、実際に画面の中から画面外の声に反応し、一瞬でこの場に現れてみせる程度の異能力を持つ何者か(おそらく肉体はオウム)は、僕を見下ろして言う。

 その紫色の瞳は、僕を捉えているはずはずなのに、僕を見ていなかった。

 焦点が定まっていないというか、景色でもぼーっと見るかのように、僕をながめている。


 ちなみに。

 僕は現在、Tシャツ一枚の彼女に押し倒されるかたちだった。


 画面から出てきた少女に押し倒される――なるほど、たしかにパソコンの目の前には僕がおり、そこから人が飛び出してきたのであれば、押し倒されるかたちになるというのは自然な流れのようにも思える。

 問題はその衝撃力だ。


 自称神は、椅子に座った僕を押し倒す勢いで、僕の首あたりにまたがっていた。


 僕の耐久力が普通の人間であれば、首がへし折られていたことだろう――神を呼び出すという行為にはリスクが伴うのである。

 僕でよかった。

 僕でなければ死んでいた。皮も肉もないくせにやけに頑強な『魔王ワーズワースの肉体』が役立ったというわけである。


 さて、パンツもはかずに来ていただいて申し訳ないのだが、彼女に用事があるのは僕ではないのだ。

 僕は視線だけを(鏡で見れば僕の眼窩はからっぽなのだが)動かし、背後に立つ魔王ワーズワースを見た。


 彼女はおどろいていたが、僕の視線を受けてハッとなる。

 そして、吠えた。



「うー! わんわん!」



 人の言葉をしゃべったらいかがだろうか?

 そう言いそうになったが、どうにもそのあたりに突っこむのもかわいそうに思ったので、僕は彼女が言うべきことを代弁することにした。



「ええと、彼女は異世界魔王のワーズワースで、そこにいるのが異世界勇者のアイリンさんです。僕はちょっと事情があって骨格標本みたいになってますが、この世界の人間です」

「……」



 神は僕を見下ろすだけだ。

 もしも僕が通常の肉体であれば、首に乗られている現在、気道がふさがってしゃべるどころではないのだが、現在の僕には気道も食道もないので、しゃべるのに問題はない。

 だから上からどかすことの優先順位がいまいち低かった。



「それで、できればこの二人、っていうか、異世界の人みんなを、元いた世界に帰してほしいん、ですけど……」

「……」



 反応がまったくない。

 言葉が通じているのか不安になるというか、声が聞こえてるのかすら、不安だった。

 普通、無視しているにしても、それなりに『無視をしています』みたいな雰囲気はあるものだけれど、自称神は本当に、まったく聞こえていないみたいな無反応だ。


 紫色の瞳を僕に向けるだけ。

 焦点さえ、結びやしない。

 僕は不安に負けるあまり、実に今さらなタイミングで、あいさつをする。



「あの、こんにちは」

「コンニチハ」



 反応があった。

 なんということだ。今まで無視されていたのは、あいさつをしなかったからだったのだ。

 あいさつは大事。そのことを身を以て知った僕は、あらためて話題を切り出した。



「それでですね、この人たちを異世界に帰してあげてほしいんですよ」

「……」

「あの……」

「……」

「こんにちは」

「コンニチハ」

「……上司、ハゲ」

「ジョウシ、ハゲ」

「……」



 やべえ、神様がオウムだ。

 つまり神とはこちらに対し気まぐれに言葉を返すだけの存在であり、こちらの望む結果を望むように差配してくれる存在ではないとういうことなのだろうか。

 いや、自分で『呼び出せ』って言っておいてそれはないんじゃないか……?



「あの、託宣を下すから呼び出せって言ったの、あなたですよね?」

「……アナタデスヨネ?」

「僕じゃないです。あなたです」

「……ハッ、そうだった。わたくしは託宣を下しに来たのだ」

「完全に鳥頭じゃないか……」

「わたくしは神だ」

「じゃあ忘れないうちにその『託宣』とやらをください」

「タクセントヤラヲクダサイ」

「新しい単語を憶えないでいいから託宣を」

「……」

「ひょっとして忘れてる?」

「そんなことはない。わたくしは神である」



 もはや神だからなんだという段階まで来ているのだけれど、それでも神は抑揚なく言う。

 しかし口を開けば開くほど、最初のどこか超然としていて不気味な雰囲気はなりをひそめ、ただのぼんやりしたお嬢さんという感じになっていくのが悲しいところだった。



「託宣……託宣はそう……じゃあお前」



 すごくてきとうに選ばれた感じだが、どうやら僕に下るらしい。

 たしかに彼女を呼び出したのは僕ということになるのだから、正しい流れなのかもしれないんだけれど、神が鳥頭っぽいせいでいちいち釈然としない。


 それでも彼女は、もうただ眠いだけだろと言いたくなるような無表情のまま。

 たしかに僕に焦点を結び――



「世界創造とか興味ない?」



 友達をゲームにでも誘うように。

 そんなことを言った。

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