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空から異世界がまるごと降ってきた。  作者: 稲荷竜
三章   魔王と勇者は敵対しなければいけないのか?
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神様に会う方法

「どうしたら神に会えるのであろうか」



 テーブルに着いた僕らは、そんな議題で話し合っていた。

 ここだけ見ると妙な宗教の会議である。しかし悲しいかな、おそらくもっとタチが悪い。

 なにせ異世界魔王と異世界勇者が、僕らの世界で神に会うための方法を協議しているのだ。

 おまけに見目麗しい二人の異世界存在の横には、体長二メートル超えのオーク女子中学生がおり、さらにヘッドホンをつけたガイコツがおり、テレビの前では触手生物が尻を掻いて、オナラをしている。


 僕はアイリンさんにより振る舞われた冷たい緑茶を目の前に、『今の僕の体で食事や飲料を摂取した場合、どういう空間に消えるのだろう』と物理学的なことを考えていた。

 一方ほのかはとても眠そうで、椅子をきしませながら(よく座れたなと感心する)、うつらうつらと船をこいでいた。

 そんなふうにやる気のない現世界組とは対照的に、異世界組の議論は白熱している。



「そもそも魔王ワーズワース、あんたは神と知り合いじゃないの? 魔王と神って対抗存在みたいなものじゃない?」

「いやいや、なにを言っておるか。魔王の対抗存在は貴様ら勇者であろうが。神というのは人と魔とか、善と悪とか、そういったものではなく、もっと法則の外にある超然存在であろう。我の知り合いにはおらんわ」

「頼りにならない……」

「そもそも『勇者』の中にその『転生者』がいるという噂だったのであろう? そうしたら貴様こそ知り合いに『転生者』の一人や二人いるべきなのではないか?」

「……私はほら、孤高の存在っていうか、回復も攻撃も防御も一人でできたからあんまりパーティーとか組まなかったというか……『あの人ってコミュ力以外欠点なくて近寄りがたい』って言われるぐらいだったし……」

「そ、そうか……貴様も大変なのだな」

「うるさいわね! 私のことはいいのよ! がんばって『転生者』の話を思い出すから、あんたもがんばって思い出しなさい!」

「うーむ……そうは言うがな。我が『転生者』について聞いたのはかなり昔の話だ。貴様が生まれるずっと以前というか……」

「あんたいくつなのよ」

「悪いが、今の我は『三』から先は『たくさん』だ」

「このバカ犬!」

「しかしこうして協議していても手詰まり感ものすごいぞ」

「そうね……お互いの知り合いがもっといればよかったんだけど……」

「我には知り合いいっぱいおるから……」

「総数の話じゃなくて! 今、この場に!」

「そ、そうであったか……すまんな。気をつかいすぎたようだ」

「あんた、元の世界に戻ったら覚悟しなさいよ」



 白熱はしているが中身はなかった。

 たしかに、手詰まりだろう――なにせ情報が圧倒的に足りていないのだ。

 成果はといえば、魔王と勇者の仲がだんだんよくなっている感じがする程度だ。

 いや、むしろ悪化しているのか……


 しかし、二人の話を聞いていると、一つだけ情報収集の手段が思いつく。

 ただし確実な効果の見こめる手段とは言えないだろう――手間も少ないし、コストもかからないしというメリットがあるので、『効果を望まずとりあえずやってみたらいい』という、その程度の手段だ。


 僕は異世界魔王と勇者の激論が止まるタイミングを見計らう。

 それから、満を持して二人に声をかけた。



「あの、一ついいですか?」



 二人は顔を見合わせてから、同時に僕の方を見た。

 そしてアイリンさんが口を開く。



「なによ」

「今みたいに『やりたいことがあるけどどうしたらいいかわからない』というような状況下で、この世界の人がだいたいとることになる情報収集手段があるんですけど」

「そんなのがあるの!?」

「というかアイリンさんは、母さんの記憶を参照してるんですよね? だったらわかると思いますけど」

「……? ああ、ひょっとして、パソコン?」

「パソコン……まあ、パソコンを使うんですけど、なんていうか、言い方がものすごくおばさん臭いですね……」

「くっ……! 白骨死体におばさん臭いって言われた……!」

「あの、僕死んでないです……あと十代です……」

「私だって……子持ちで……十代……息子は十六歳……あれ? 私が生まれる前に生まれた子供なの?」

「どうか冷静になって」

「……本当にまずいわね。早く元の世界に戻らなきゃ」

「まあ話をうかがった限りだとどう考えても『元の世界』は滅びているので、戻る世界がそもそもあるかどうか、僕は非常に疑問なのですが……」

「……ひょっとしてあんた、思いやりが足りないわね?」

「似たようなことをワーズワースさんにも言われました。それで、情報収集手段についてですが、あなたの言う『パソコン』、ようするに『ネット検索』を一回やってみませんか?」

「今はなんにでもすがりたい気分よ。わかったわ、やりましょう」

「……この状況ですから、あらゆる回線がパンクしててもおかしくありませんが……ま、駄目でもともとでね」

「わかってるわよ」



 そういうことで話が決まった。

 かのように思われたのだが――



「待て」



 そんな声をあげた人物がいる。

 魔王ワーズワースだ。



「どうされました?」

「パソコンというのは、よく貴様が開く、温かい箱のことだな?」

「そうですね」

「我はあんなものに頼るというのは、賛成できん」



 意外なことに、反対意見である。

 現状をかんがみれば、藁にもすがる思いというか、リスクのない情報収集手段が思いついたなら総当たりするべき状況のようにも思われるのだけれど……


 しかし、パソコンのことを語るワーズワースさんは、忌々しそうに顔をゆがめていた。

 なにか因縁でもあるかのような、それは勇者と相対した時よりなお険しい表情である。


 勇者とか魔王とか言ってる世界観の人が、パソコンと因縁?

 四角形恐怖症とかだろうか?


 首をかしげる僕とアイリンさん。

 その視線を受けながら、ワーズワースさんは、重苦しく語る。



「他のなにに頼ることになろうとも、パソコンにだけは頼れぬ」

「なんでですか?」

「あやつはな、ご主人様を奪うのだ」

「…………」

「急に大きい音を出したり、ビカビカ光ったり、おまけによく知らない、においもない他の犬なんかを中にしまっていたりもする。……不気味で怖ろしい相手だ。いつか倒すべき、我が敵だ。そいつの手を借りるということは、魔王としてあってはならん」



 魔王としてっていうか、犬としての意見だった。

 僕とアイリンさんは顔を見合わせる。

『駄目みたいですね』

『そうね。急がないと』

 僕らは視線でそんなやりとりをして、席から立ち上がった。



「待て! どこへ行く!」



 ワーズワースさんも慌てたように立ち上がる。

 まあ、パソコンが嫌ならスマホでもいいのだけれど、あいにく僕のスマホは壊れているので、やっぱりパソコンを頼らざるを得まい。

 そうなると、行く場所は――



「僕の部屋ですよ」

「なんだと!?」

「なんでそんな大きい声をあげられるのかさっぱりわかりませんが……パソコンは僕の部屋にあるんで、僕の部屋に行かないと」



 なにもおかしなことは言っていない。

 ただし、ワーズワースさんは冷や汗を垂らし、息をあらげていた。

 その反応の意味はわからなかったが――



「早くしましょう。私、もう明日の夕飯のこととか考え始めてるから。急がないと元の体に戻っても影響が残りそうで怖いんだけど」



 ということらしいので、固まるワーズワースさんのリードを引っぱって進み出した。

 僕は妹にも声をかけようとしたのだけれど。


 ドゴン! という音がする。

 その方向を見れば、先ほどまで船をこいでいた妹が、ついに眠ってしまったらしく、僕らの思い出深い食卓を頭突きでたたき割って、床で寝息を立てている姿が見えた。

 妹が眠ってしまったならば、それはもちろん兄として部屋に運んでやったりするべきなのかもしれないけれど、今のあいつを運ぶというのは大変そうなので、放置することにして、僕らは僕の部屋に向かった。

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