将軍様は嘘がお好きです sideギル
ギルバート視点なだけで、内容自体は「将軍様は嘘がお好きです」とほぼ同じです。
「私と偽装婚約してくれないですか?」
「はい??」
私の言葉を聴いた瞬間、愛しい彼女は訳がわからないといった様子で首を傾げていた。
その仕草がまた可愛らしくて、思わず押し倒しそうになった本能を理性で抑え込むのが大変だったものだ。
私の名は、ギルバート・ヘーゼルクラン・ファンベルグ。
現宰相ファンベルグ公爵を父に持ち、私自身は陸軍将軍という地位を賜っている。
我がファンベルグ公爵家は過去にも宰相や文官を多く排出している由緒ある家だが、私はそんな一族にあって武官を目指した数少ない人間らしい。
まぁ宰相職は恐らく次期公爵の兄が継ぐのだから、私は好きにさせてもらってもいいだろう。
そして私の言葉に驚き固まっている愛らしい彼女の名は、シャルロッテ・リーズ・グラビス侯爵令嬢。
侯爵家の一つであるグラビス侯爵家の長女であり、一人娘。
彼女の母方の祖父は我が師である、今は亡きクラウス将軍閣下でもある。
クラウス閣下に師事していただき、度々稽古をつけていただくためにご自宅まで伺っていた折に、彼女とは何度も会っていた。
まだ幼かった彼女に一目惚れして、クラウス閣下に頼み込んで彼女が来る日を教えていただいて足繁く通ったのは苦い思い出だ。
ここ最近は彼女の父上であるゼノン閣下と仕事の打ち合わせと称してお邪魔させていただき、度々彼女との婚約を打診している。
「ゼノン殿。」
「ギルバート、貴様まだ諦められんのか?」
「諦めるわけがないでしょう。
彼女以上の女性がこの世にいるとは思えませんので。」
「当たり前だ!
私の娘以上の令嬢がいてたまるか!!
そして、私の目が黒いうちはどこの馬の骨ともわからん奴と娘は結婚させん!!」
「私はどこの馬の骨のつもりはありませんが?
今現在、私以上にゼノン殿のお眼鏡に適う男がいるとも思っていないのですが?
クラウス閣下には、ゼノン殿が許すならばよいと亡くなられる前におっしゃっていただきました。」
「父上が許したのは知っておるわ!
それでも私の気が済まんー!!!!」
父親である今は亡きクラウス閣下が孫である彼女と私の婚約を許しても、ゼノン殿にしてみれば娘を結婚させることには抵抗があるらしい。
彼女は一人娘なので、実際は私が彼女の家であるグラビス侯爵家に婿入りすることになるのだが。
「ゼノン殿は私の何が気に入らないとおっしゃるのか?」
「貴様以上にあの子の相手として、地位も名声も我が家の跡継ぎとしても相応しい男がおらんことが気に食わんわ!!
なぜ貴様のように性格の悪い男だけが、私の条件に当てはまるのか!!」
「はははっ・・・失敬。
まぁ性格はいいとは言いませんが、性格が良すぎては将軍職など務まらないと思いますが?」
「全くだ!
ええい、忌々しい!!
仕方ない!仕方なくだからな!!
あの子が、シャルロッテ自身が了承した場合に限り、貴様とあの子の結婚を許してやる!!
もし、少しでもあの子が渋った場合、この話はなしだ!わかったな!!」
「ありがとうございます。」
そして、私は話があると言って彼女をお茶に誘い、冒頭の発言となる。
私の言葉に落ち着かなくてはと思ったらしく、
彼女は一つ深呼吸をしてからお茶を口に含んでから、私に聞き返してきた。
「申し訳ありませんが、ギルバート様。
もう一度言っていただけませんでしょうか?
私が聞き間違えていなければ、偽装婚約・・・とおっしゃられたように思いましたが?」
「聞き間違いではなく、正しく偽装婚約して欲しいと言ったのですが?」
「なぜ私と偽装婚約という話になったのか、お伺いしても?」
全く訳がわからないという風に、彼女は首を傾げて聞いてくる。
そんな彼女に私は微笑んで答えた。
「私は今現在、婚約も結婚もしていません。
さらに言うと、私の肩書きや見た目だけに群がってくる令嬢達とは結婚する気がおきないので。」
むしろ、目の前の君以外どんな令嬢も目に入っていないのだが・・・と私は心の中で呟いた。
「つまり、私に熱烈な令嬢方からの秋波を避ける防波堤・・・になってほしいとおっしゃいますか?」
「まぁ、そうなるのでしょうか。」
「それで、私に何かメリットがおありに?」
私にしかメリットがないのではという彼女に、私は彼女を私だけのものにするために話を続ける。
「あなたのメリットも私と大体同じになると思います。
ゼノン殿の眼鏡に適う男が見つかるまで、あなたの容姿だけに群がるバカな男達の防波堤にはなるだろうと。
まぁ、バカはどこまでもバカだから、それでも手を出してくる輩はいるでしょうけどね。
そんなときは、しっかりあなたを守ることは我が剣に掛けて誓いましょう。」
「確かに・・・私の見た目や家名だけに関心をお持ちの殿方は願い下げですけれど、このお話はお父様は了解しているのでしょうか?」
「ゼノン殿には先ほど、あなたがよければと了承済みです。
受けてくれますか?」
ゼノン殿にとっては、仕方なくといった感がありましたがね。
「・・・わかりました。このお話お受けさせていただきます。
期限は、本当にギルバート様が結婚したい相手が見つかるまで、もしくは私にお父様が結婚させたい相手が見つかるまで・・・でよろしいですか?」
「それで構いません。
では改めて・・・
シャルロッテ・リーズ・グラビス嬢、私ギルバート・ヘーゼルクラン・ファンベルグと結婚を前提としたお付き合いをしていただけますか?」
「喜んで、お受けいたしますわ。」
彼女の前に跪き、左手を取って正式な心からの婚約の申し出をする私に、彼女は笑顔で了承してくれた。
そう、ゼノン殿の条件であった彼女から婚約の了承を、私は取り付けたのだった。
それから三ヶ月の間は、招待された晩餐会や舞踏会には全て私と彼女はパートナーとして出席致した。
夜会で見る彼女は、昼に会う彼女とは違って扇情的で艶めかしく、今すぐ押し倒したい衝動に駆られるほどで、どれだけ理性を総動員したかわからなかった。
彼女を他の男共の視線に晒したくなくて、どれだけ牽制したかわからないほどだ。
さすがに私に喧嘩を売るだけの度胸のある輩は今のところいないらしく、遠巻きに彼女を見つめる視線だけがある。
それにしても、どれだけ私を虜にすれば済むのか・・・
今夜は国王主催の舞踏会で、彼女は青色が上から下に向かって濃くなるようにグラデーションになっているドレスで、肩が大きく開いている。
同色の長い手袋に、白い小さな真珠を大量に使って幾重にも重なって作られたネックレスをしていた。
髪は半分結い上げて、残りはそのまま垂らしている。
彼女が動く度に髪の隙間からチラチラと見えるうなじが、また欲情を誘ってくる。
全く、どれだけ私の理性を総動員させれば気がすむのか・・・
私が髪を掬いあげて口付けると、彼女は照れたように赤くなって俯いてしまうが、それがまた可愛らしくてたまらない。
彼女は私のモノだと主張するように抱き寄せてダンスを踊り、周りの男達に牽制する。
「あの、ギルバート様。お願いがあるのですが・・・」
「何です、愛しの我が姫。」
ダンスを終わった後、彼女ははにかんだように何かを言おうとした。
「あのですね・・・「ギルバート!」」
そんな彼女の言葉に重なるように、私に声を掛ける方がいらっしゃった。
その声に私と共に振り返った彼女は、相手の顔を見て臣下の礼を取った。
そこにいたのは、この国の第一王子にして王太子であるルキオン殿下と、婚約者であり私の実の妹であるアイリーシャだった
「殿下にはご機嫌麗しく。」
「堅苦しい挨拶はいいよ、顔を上げてくれ。
ギルバート。お前、婚約したそうじゃないか!
そちらにいるのが、お相手のご令嬢か?」
そう言って殿下が彼女の方を向くと、彼女はすぐさま淑女の礼を取る。
「ルキオン殿下にはお初にお目に掛かります。
シャルロッテ・リーズ・グラビスと申します。」
「グラビス・・・ということは、ゼノンが目の中に入れても痛くない程溺愛していると噂のご令嬢か!!
ギルバート、お前彼女に手を出してよく生きていられるな?」
「まだ手は出しておりませんが?」
殿下の言葉にさすがに私も眉を顰めた。
手を出したいのはやまやまだが、今手を出して彼女を失うわけにはいかないのだから。
そして私は殿下に引きずられるように、彼女の側を離れた。
「それでギルバート、ゼノンには殺される予定で彼女と婚約したのか?」
「殿下、失礼なことおっしゃらないでいただけますか。
私はゼノン殿から、彼女が同意したならば結婚は許可するとおっしゃっていただいております。」
「それで、彼女は同意したのか?」
「もちろん、同意していただきましたが何か?」
ニヤリと笑う私に、絶対何か裏があるだろうという顔をした殿下だったが、私は無視しておいた。
それよりも、アイリーシャが彼女に何かよからぬことを吹き込んでないかのほうが心配だ。
「リーシャ、何か私の悪口を彼女に吹き込んでませんか?」
「あら、ギル兄様。私は事実しか申してませんわよ。
ギル兄様が腹黒で陰険なことなんて、身内も兄様の部下の方も、殿下達だってご存知じゃありませんか。」
「まぁ、確かに敵と思った相手には性格悪いよね、ギルバートは。」
殿下まで、楽しそうにアイリーシャに同意してくる。
まったくこの二人は、私の恋路の邪魔をしないでもらいたい。
私は愛しい彼女にだけは、優しい顔しか見せないのだから。
しかし、アイリーシャが余計なことを吹き込んでくれたおかげで、彼女が私の違う面を怖がってしまっては元も子もない。
ここは逃げられないほど、愛情表現しておかねばな。
「敵に情けはかけないだけです。
その分、愛するこの人には愛情を注いでいるつもりなのですが、あなたには伝わってませんでしたか、そうですか、でしたらもっとわかりやすく愛情表現しないといけませんね。」
そう言って、私は笑顔で彼女に今以上の愛情表現を宣言した。
それからは、一目も憚らず彼女の頬や手にキスをして、腰を抱き寄せて耳元で愛を囁き、羞恥で赤くなる彼女の愛らしい姿を堪能していった。
恥ずかしさで潤んだ瞳で見上げられると、さらに欲望を掻き乱されるが、そこはまた理性を総動員している。
そんなある日、いつものように馬車で彼女を迎えに行ったとき、彼女を馬車に乗せて向かい側に私が座ると、彼女は一つ深呼吸をして声を掛けてきた。
「ギルバート様、先日言い損ねたお願いなのですが・・・」
「あぁ、殿下に邪魔されて聞き損ねてしまったやつですね。
何でしょうか?」
「あのですね・・・私とギルバート様の婚約は偽装・・・でしたよね?」
未だに私との婚約を偽装だと思い込んでいる彼女は、言いにくそうに聞いてくる。
だがしかし、私とゼノン殿の約束では既に正式な婚約ということになっている。
「もちろん、あなたに相応しいお相手が見つかるまでは偽装という形でしたが、ゼノン殿は私が一番あなたに相応しいと思って頂いているようなので、既にゼノン殿の中では正式な婚約となっていますよ。
私も、あなたの事は私に相応しい相手と思っていますので、このまま本当に婚約者として結婚したいと思います。」
むしろ、やっと手に入れたあなたを私が手放すはずがないでしょう?という言葉を心で呟いて私は彼女に笑顔を向けた。
「え???・・・えぇ?!?!」
驚きを隠せない彼女に、私は笑顔で彼女の手を取り、そして最も愛おしいというように彼女の手の甲に口付けてこういった。
「そういうわけですので、諦めてこのまま私の花嫁になってくださいね。
あなたにだけは、これからもずっと見せて来た『優しい将軍閣下』のままでいますので安心してください。
敵は全て叩き潰しましたし、誰にも邪魔はされません。
私は自分のモノを取られるのは嫌いな性質なので、あなたは誰にも渡しませんから。
私の愛しい姫君。永遠の愛をあなたに・・・」
そして、私はまだ驚いて固まっている彼女の顎を持ち上げ、その愛らしい唇を堪能した。
やっと手に入れたのだから、もう離してあげませんよ。
私の最愛のレディ、永遠に君は私のモノ。
読んでいただきありがとうございました。
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