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初対面でこれはないですよ。

現代社会に妖怪とか妖精とかそんな民間伝承の存在なんているわけないでしょう?

実在したとしても科学が信仰を駆逐して絶滅してしまったと思います。でもそんなの珍しい話じゃないでしょう。

……そう考えてる時期がわたしにもありました。

おおかみさんは変なおおかみさんでした。



「げ、人間」

茂みをがさがさしている何かが出てきたと思ったら、なんか人間っぽいです。

しかし「げ」って何ですか、「げ」って。

目があったとたん嫌そうに顔をしかめられました。

うまそうとか言わないんですか、あなたおおかみなんだし。わたし人間ですよ、食べないんですか?

今考えるとそう思います。


そのときのわたしは山に迷い込んで、ひたすらうろうろしていました。

小さいころから山の奥の方には行くな。奥にはおおかみが住んでいて、深いところまで行くとおおかみの群れに食い殺されてしまうんだと耳だこレベルに聞かされていました。

なので、そろそろ日も暮れるし山を下りて早く帰らないと、でないと生きて家に帰れないと思っていました。

そんなわけで慌てて、獣道からヒトの使う山道に戻れる道を探していたんです。

ショートカットのつもりで獣道にもぐりこんだのがいけませんでした。数時間前の自分をしばき倒したいです。

不安も、焦燥も爆発しそうな、綱渡りをずっとしていたような時に。

わたしはおおかみさんと出会ってしまったのです。


しかし、出会いがしらに「げっ」ですよ。失礼しちゃいますよね。

人の顔見てそれですよ?

でも実際後から聞いたところでは「人間は筋ばってて不味い」だそうで。

食えるのはトロい人間ばっかで年寄りとか、子供とか、肉付きの良いのはあんまりないそう。しかも健康的に問題のない人でないとおいしく感じないそうです。グルメなおおかみさんでした。

一応わたしも年頃の娘といいますか、それなりに食べごろだと思うんですけどね。性的な意味でも。おおかみさんはお気に召しませんか?


そもそも、このおおかみさん、喋るし、人の姿してるし、おおかみって呼んでいいのかどうかすら怪しいおおかみさんですけどね。




「は? どう見たっておおかみだろ?」

凄いドヤ顔。胸を張ってりそんなことを言ってます。

本気で言ってるんでしょうかこのおおかみさんは、いえ自称おおかみさんは。

すごい無茶ぶりしてるのに気付かないんでしょうか?

「いやいやいや。人の姿してるじゃないですかあなた」

「そりゃ人の姿してるからな」

話が通じません。

でもまぁ、一部人らしくない所はあります。耳が頭についてます。

犬とか動物の位置じゃなくて人間と同じ所に耳ついてます。でもその耳すっごいとんがってて長い上に、大きめなんですよ。

しかもなんか毛がふさふさしてます、毛の生えたエルフ耳ってやつですか。


あ、もしかしてしっぽあるんですかこの人?

残念、おしりのあたりを見ても尻尾はありません。ふつうの人間っぽいつるりとしたまるいおしりです。

人間と違う所……耳がとんがってて少しふさふさしてるだけです。特徴それだけです。

これはどう見ても。

「人じゃん」

「何だと!?」

なんか怒ります。いやだってどう見たって人でしょうあなた。


「証拠を見せてやるよ!!」

聞いてもないし、見せろとも言ってないのに、証拠を見せてくれるそうです。

このおおかみさんノリノリです。

何度もこういう手合いには出くわしているんでしょうか。リアクションに慣れた勘があります。


ふん。

おおかみさんが力んで気張りました。マッチョが良くするあのポーズをするんでしょうか。アレ難しい名前が付いていたんですけど忘れました。

ともかく、そのポーズをとるとどこからともなく煙が出てきておおかみさんの姿を隠します。見えるのはもやっとしたおおかみさんの影だけです。影絵みたいですね。

それから人のシルエットからだんだん変わっていって。こんどは犬っぽい感じになりました。

この「っぽい」っていう理由は。どう見ても普通の犬より大きいからです。

わたしはおおかみを見るのは初めてですが、骨格とかはそこらの犬よりちょっと違うのはなんとなくわかるんですが……。

こんな大きいものなんでしょうかね、おおかみって。普通がよくわかりません。

そして口を閉じているのに、牙がはみ出しています。牙がわたしの腕と同じくらい。がぶっとやられたら一発でしょう。即死です。本気で逃げても追い付かれますし。

今更ですがわたし、命の危機です。

でもね。


「わーおっきいわんちゃんですね」

何でかそんなに怖くないんです。

シベリアンハスキーみたいな凶暴そうな強面ですが、目が知性ある獣のもので、それも敵意が全く感じられないせいでしょうか、全然怖くないのです。

「いにゅじゃない!!おおきゃみだ!!」

さっきの声のまんまです。

でも噛んでます。なんか舌足らずなこどもみたいです。

人の声をいぬ……もといおおかみの声帯で再現するのは難しそうで、ちょっと噛んでるように聞こえます。

胸きゅんです。かわいいですね、これは。

全く持って怖さを感じません。わたしの本能、壊れてるんでしょうか。

っていうかこんなに。優しそうな顔の獣だとあまり警戒心湧き起こる方が難しい気もしますが。

「かわいいなぁ」

本当に大きな犬にしか見えなくなってしまいました。

もふり。大型犬に抱きつくように、おおかみさんの首周りに抱きつきました。予想通りふさふさです。ぐりぐりと顔を毛にうずめます。ふぁートトロごっこできそうですね。アレ一度やってみたかったんですよ。


「うぉい!!」

咆えるように怒られました。

こんなにもふもふですから、気持ちよさそうと思ったんですが。ダメですか。私は断然アリなんですけどね。

おおかみさんのほっぺにぐいぐいわたしのほっぺを押しつけます。うふふふ。ふかふか。

「いにゅじゃにゃいっていってるだろ!! もう充分だろ!」

ああもう。ぷりぷり怒ってるのにかわいいですね、本当。


わたしを振り払っておおかみさんはまた、ふん、と力みます。

また都合よくもやが出てきて、おおかみさんの姿を隠します。

大きな影が飴細工が溶けるように人間型に変わっていきます。

「何なんですかこれ?」

「ちちんぷいぷい的な何かだ」

靄越しのシルエットのおおかみさんが言います。

手をかざすとほんのり冷たい感触がします。何かの気体のようですが……。

「答えになってませんよ」

「知らん、お約束的な何からしい」

「どこの世界のお約束ですか」

「入浴中だと不自然な光が局部を隠したり、髪で隠したりとかそういうのだ」

何ですかソレ。何でそんな都合よく隠れるんですかね。

DVD版だと消えるんですか? 消えるんですよね? 期待していいんですか?

無修正版が見えることを期待して買ってもクーリングオフって効きますか?

「ともかくこれはそういう性質のやつらしい。ぶっちゃけ、人間の骨格が変化して、おおかみの骨格に変化したり毛深くなるのって見ててキモくないか?」

そう言われると積極的に見たいものじゃないかもしれません。納得のオチですね。

「でもさっきまで真っ裸でしたよね、いつ服着たんですか」

おおかみの姿の時は服なんて着てなかったはずなのに。真っ裸のまま変身したら真っ裸のはずでしょうに。

「ちちんぷいぷい的な」

「それはもういいです」

ちちんぷいぷいって便利すぎますよ、超科学ですか。ご都合主義過ぎます。

ため息をついて気を取り直しましょう。話の腰がぎっくり状態ですよひどいです。

「それで、大体のことはわかりました」

「そうか」

「あなたが、おおかみになれる人間だってことは、おおかみ人間なんですよね」

「ちょっと待て!!なんでそうなる!!」

「だって人間もおおかみの姿もとれるんでしょう? でしたらオオカミ人間じゃないですか。古今東西いろんな所で、色んな風に伝承に残ってて、ラノベとかでも大活躍じゃないですか」

そういう筋で行くとこの人は人間とおおかみのハーフでしょうか。萌えますね!

「そんな俗な奴らと一緒にすんなよ。人間とつがいになるなんて、正気の沙汰じゃないぞ」

「あら、萌えませんか? 他種族間の恋って」

「いや燃えるだろ? ?? なんか発音おかしくないか?」

「萌えは萌えです」

「…………とにかく。おおかみ人間がいたとして、」

「目の前にいるんですが」

「あげあしとんじゃねぇよ!! いちいち話の腰折るんじゃねぇよ!!」

ツッコミの激しいおおかみさんです。

話の腰折るなとか、おおかみさんに言われたくないですね。

「そいつらは絶対に人間に正体を隠し通す。万一バラすとしても相当信用のおける奴だけだ。

そんなほいほい教えていたら大変だろう。レッドデータに記載されて保護って言う名目で乱獲されて、交配、解剖実験、役に立たなかったら始末されて終わりだ」

確かにありえそうです。

人間に害成す動物を徹底的に駆除しますからね。そこにいるのが迷惑だって理由で殺せますからね……犬だって猫だって。

あれ? わたしはいいんですか、教えちゃってますけど。


「お前はいいんだよ。どうせ周りの人間に言ったって信じねぇだろうし」

「なら教えて下さい、あなたは何者ですか?」

「群れから捨てられて、人間に育てられた。んで今に至る」

あっけにとられた。

「全然説明し切れてませんよ!? どういうことですか!?」

「今ダイジェストで言ったろ」

「ざっくりし過ぎて伝わってませんよ!?」

どういうことだろう、わたしがツッコミに回ってるなんて。さっきまでボケ倒していたのに。

「ともかく話は終わりだ。さっさとふもとに案内してやるから、帰れよ」

背中を見せて、おおかみさんはすたすた行ってしまう。

慌ててあの背中を追いかける。

いつの間にか日は暮れて、真っ暗になっていた。

「ま、待って下さいよ! まだ話は済んでませんよ!!」


まずこれが一回目でした。

ファンタジーの世界、こんにちは。

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