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攻勢(2)

『パラディン、ハマー43だ。あと三斉射で準備砲撃が終了する。最後は同時着弾射撃、敵陣とその周囲の地雷原に燃料気化弾頭を八〇発叩き込む。吹き戻しに注意しろ』

「ハマー43、パラディン了解。みんな聞いたか?ちゃんと頭下げてろよ!」

『パラディン2より各員、攻撃開始二分前』

『パラディン3より全騎、データリンクオンラインとせよ。データリンクオンラインとせよ』

『シックル1-1よりシックル全騎。奇数番号前進用意、偶数番号打ち方用意』

『フレイル全騎は行進射用意』

『ハマー43よりパラディンへ。最終射弾着一〇秒前。九、八、七、六、五、四、三、二、弾着、今』

「うは。こりゃゴッツイ眺めだ」

『戦争も進歩したもんじゃのぉ』

『フンメル31、パラディン3。情報支援を要求します。パルスドップラー地形照合を行いたい。パルス発振間隔は二秒六〇発を要求します。現在の速度と角度で進みながらパルスを打ってください。可能ですか?』

『パラディン3、フンメル31。可能だ。いますぐやろう。GPS座標同調確認。パルス打ち方用意……始め』

『フンメル31、パラディン3。ありがとう、良いデータがとれました』

『どういたしまして』

『パラディン3よりパラディン各騎。最新の地形及び装甲目標のデータ入手しました。データリンクへアップロード中。確認されたし』

「敵陣の重火器は三、四割ほど減らせたか。よぉし、各員戦闘用意」

『前進開始一分前。戦闘用意』

『シュバルツ、地雷処理ロケット準備完了』

「総員、安全装置解除。これより各中隊以下の音声無線は大隊指揮系統より離脱せよ。各中隊以下の音声無線は大隊指揮系統より離脱せよ。以後、大隊指揮系統音声無線は各中隊長ないし代理指揮官よりの音声無線に対してのみ応答する。データリンクは維持せよ。データリンクは維持せよ。歩兵各小隊は、各梯団の指揮官に従え。把握した各級指揮官は戦術情報ストリームにピン2発」

『三〇秒前』

『パラディン3より各部署。電波警報。電波警報。衛星軌道よりlバンドおよびXバンドのマイクロ波複数を感知。パルスパターンは帝国軍。繰り返す。帝国軍偵察衛星よりの探査電波を感知』

『フンメル31は敵衛星および敵ネットワークへの攻撃を試みる。期待はしないでくれ』

「フンメル31、無理はするな。君が無力化されたら事だ」

『わかってる』

『一〇秒前、カウントダウン、八、七、』

「全員ケツを上げろ」

『四、三、二、一、』

「攻撃開始」



『攻撃開始』

「シックル!奇数番号前進!偶数番号打ち方始め!」

 あいつの声が聞こえた瞬間に、俺は駆け出した。

 俺のすぐ脇を中隊の放った徹甲弾が追い越してゆく。

 俺が、俺達が敵を殺せば殺すほど、あいつへの危険は漸減する。

 そんなことは真実どうでもいい。

 殺したいから殺すのだ。

 破壊したいから破壊するのだ。

 この金属の塊に乗って混沌を振りまきたいのだ。

 それだけだ。

 俺にはそれしかないのだ。

 俺は何も生み出すことができない。

 俺は心底戦争にしか興味が持てない。

 より効率的に。より広範囲に。破壊と殺戮を。

 俺には人の情も愛もよくわからない。

 どうしてこうなったのかはよくわからない。

 生きていることを後悔しない日は無い。

 俺を産んだ親を恨まない日もまた無い。

 恐らく生まれて来るべきではなかったのだ。

 それでも、こんな腐った俺をあいつは抱きとめてくれる。

 ただそれだけだ。

 ただそれだけで、俺はまだ生きていて良いのだと思える。

 そうだ、俺にあいつがしてくれるように、俺もあいつを愛したいのだ。

 そのやり方は未だにわからない。

 ガキの頃からの付き合いだというのに。

 俺はあいつをうまく愛してやることができない。

 嫌いというわけではないのだ。

 声を聞くと安心する。

 一緒にいると安らぎさえ覚える。

 だが、違う。違うのだ。

 俺があいつを好むのと、あいつが俺を好きでいることは、やはりどこか違うのだ。

 あの頃は、まだボブが自分のことをボブと呼ぶように要求し始める前の頃は、あいつのことばかり考えていたのに、いつの間にかこうなってしまった。


 だから。だからこそだ。


「効果確認!偶数番号前進!奇数番号停止、打ち方始め!」


 今はまだ、自分一人の楽しみのためだけに死ぬことはできない。

 あいつを悲しませたくはない、というただそれだけの理由で。




『攻勢開始』

『シュバルツ、地雷原処理開始』

 儂ら第二中隊前衛に位置したクロカワの工兵小隊が、三台の地雷原開啓装置からロケットをぶっぱなした。ロケットの尻にはぶっといロープが接続されているが、コイツの中には高性能爆薬が詰め込まれとる。

 軽く一Kmほどの距離をロケットが比較的ゆっくりと飛んでゆき、後ろに引いたロープごと地面に落ちる。ほんの一秒ほどの間を置いて、ロープとロケットが白煙を上げて爆発する。ロープに沿った幅二〇mほどの地面で幾つかの誘爆が発生し、その内の二つほどは五〇〇mほども空高く土砂を巻き上げた。対AD地雷だったようだ。あの猛烈な砲撃の中でも生き残っていたとは。だがこれでひとまず進路の地雷は除去できた、と思うことにした。

「よぉし、者共、槍持てい!出陣じゃあ!」

《応!》

 時代がかった芝居を打つと、我々は第一中隊とは対照的に粛々と横隊で前進を開始した。

 配下の者どもは皆経験豊かな武辺者。そりゃあ各小隊に一人ぐらいは新品少尉も紛れ込んじゃあ居るが、装備を受領してからこの四ヶ月、寝食を惜しんで育て上げてきただけあってみんな落ち着いとる。

 儂は軽く鼻を鳴らすと、騎の右腕を振ってハンドサインを出した。各小隊長騎がそれを確認、小隊ごとに左上がりの梯形へと隊形を変更する。

 大隊の方針では、第一中隊は右翼よりまっすぐ敵前衛に突っ込みこれを撃破、儂らは歩兵と歩調を合わせ左翼から旋回しながら比較的ゆったり前進する。

 恐らく陣地の制圧には手間取らんだろう。問題はその後じゃ。

 ワイルダーめ、ちっとは成長したようじゃが、さて。


同時着弾射撃:

砲丸投げやキャッチボールをすれば分かる通り、砲弾の初速スピードと仰角(打ち上げる角度)によって砲弾はどこに落ちるかがほぼ決まります。

実際は風邪や地球の自転、砲弾自体の回転の影響も受けますが、ごく大雑把に言えばそうなります。

それを応用して、一つの砲で撃った複数の砲弾をほぼ同時に同じ場所に落とすのが、同事着弾射撃です。

より少ない砲門数でより多数の砲弾を一箇所に打ち込める=より確実に敵を制圧できる・より強固な装甲を持つ敵を撃破できるということで、現代では必須の能力になっています。

また、飛んできた砲弾をレーダーで捉え、弾道を逆算することで敵の砲の場所を割り出す対砲迫レーダーの発展に伴い、短時間で多数の砲弾を送り込めるこの能力の拡充が急がれています。


ピン:

PINGのこと。接続問い合わせ信号。潜水艦の探針音(ping、pinger)に由来。UNIXコマンド。

当然ショートカットキーで動作します。

「ピン2回発信」は、受信側の通信ログ上では

ping frm CCL11 (シックル1-1よりピン受信)

ping frm CCL11


ping frm FRL11 (フレイル1-1よりピン受信)

ping frm FRL11

のように記載されます(帝国/共和国のIP規格までは設定していませんので悪しからず)。

気に入らないインターネットユーザーのIPアドレス検索して、PING100億万回攻撃なんてしたらダメだぞ!!(普通に犯罪である)


パルスドップラー地形照合:

電波の反射と位相変化(ドップラー効果。近づいてくる音は高くなり、遠ざかる音は低くなるというアレ)、移動しながらパルスを打つことによる電波の反射角度変化を用いて地形図を得る方法。

一番身近なものでは気象観測レーダーがあります。

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