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プロローグ ― 少年の記憶

 僕にとどめの一撃をくれようとしたヨシュアが、こぶしを振り上げた姿勢のままで横向きにすっ飛んだ。


 それまでニヤニヤと僕たちを見ていたヨシュアの取り巻きたちは、みんないっせいに呆然として、そのままピンク色の嵐になぎ倒されていった。


 ピンク色の嵐はその辺りを一周すると、スカートと見事な金髪を風になびかせながら僕の前に壁のように仁王立ちした。


 風向きの関係で、地面に倒れた僕からはスカートの奥のドロワーズが丸見えだが、彼女はそんなことを気にする素振りもない。


「また弱い者いじめしてるのか、この玉なしども!」


 ピンク色の上等なワンピースを着た少女は大喝した。


 その声に取り巻き達はびくっと震える。

 

  少女は腰を抜かしたままの取り巻き達に言った。


「おい、そこのアンタとアンタ。そいつを病院に連れてってやんな」


 とても一〇歳にも届いていない少女のセリフとは思えない。


 取り巻き達はヨシュアを肩に担ぐと、捨て台詞を吐きながら去っていった。


「うるせー!帰ってカーチャンのおっぱいでもすってろ!バーカバーカ!」


 少女は彼らの背中に、さっきまでよりちょっとは子供らしい罵声を浴びせ、こちらに振り返った。


「またやられてたの?ベルティ兄ちゃん」


 少女が腰をかがめ、心配そうに僕の顔をのぞき込んだ。

 

 夜明け前の空のように、深く澄んだ濃紺の瞳と繊細な金髪。


 小さく整った顎と、ふっくらした唇。

 

 りんごのように赤いほっぺと、白く透き通った肌。


 僕が目をそらしたのは、今思えば、恥ずかしさのせいだけではなかった気がする。


「兄ちゃん、弱いんだからケンカしたらダメだよ」


 いいながら少女は膝をつき、僕の顔に手をのばそうとする。


 それとなくその手をかわし、僕は立ち上がった。


 目は合わせないままだ。


 少女は僕を見上げながら質問する。


「どうしてまたケンカしたの?」


「……だってあいつら、ローラのことをメスゴリラだなんていうから」


 僕がそう言うと、少女は嬉しそうに目を細めた。


 僕はその笑顔を見て誓ったのだ。



 必ず彼女より強くなって、彼女を、この笑顔をあらゆる危険から守ろうと。


 


 そうだ。


 俺はなんとしてもそれをなさねばならない。




 たとえ俺自身がどうなろうとも。

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