石橋を叩いて壊す君の手を、僕は握る。
考えすぎるのが君の悪い癖。
暑いくらいの日差しの中、ウィンドウショッピング。
僕が歩く半歩後ろをついて歩く時には、君は、ほら。ショーウィンドウの小物を見るフリでこっそりうかがえば、君は染めた頬をうつむかせながらたまにこちらをちらちらと見ては、キュッと口角を上げて可愛いかお。
見えてないと思って安心して気をゆるめてる。
僕の前じゃ、唇を引き結んだりとがらせたり、ツンと顔を背けてみせるくせに。
君ときたら、素直な自分を見せるのがみっともないとでも思ってるんでしょ。
みっともなくなんてないよ。すごく可愛い。
今日の私服も可愛い。よく似合ってる。決めるまで、一体何時間悩んだのかな。ああでもない、こうでもない、って自分を少しでも可愛く見せたくて、鏡の前で一人ファッションショーしたんじゃない?
服を決めて、髪型を決めて、アクセサリーにお化粧、バッグ。一生懸命に考えて、考えて、「よし、決めた!」って決めても、次の瞬間には君はまた不安になって、泣きそうなかおで鏡の前で服に埋もれていたに違いない。夜更かしのせいで目が赤いよ。
ほら、今も。今度はどうしたの?
ポケットに突っ込んだままの僕の手に、おずおず手を伸ばして、後ちょっとのところでおびえたように引っ込めて。ポーチから出したハンカチでふくほど手に汗をかいてるとか、緊張しすぎじゃないの? また震える手を伸ばして、思い直したように引っ込めて。
そんなんじゃいつまでたっても手をつなげないよ。
「ちょ、ちょっと!?」
何をするのと声をひっくり返して慌てる君の手を掴む。ああ、あわあわして真っ赤だ。
「いいでしょ? デートなんだし」
手ぐらいつながせてよ。
真っ赤になってうつむく君の唇が結ばれて、ギュッと寄せられた眉の下で、君の大きな目に葛藤が見えた。
僕の手の中でたおやかで柔らかな熱い手が、もがくのを止めてもじもじとして。
「デートなんだから、仕方、ないわね。あんたも格好つかないだろうし。手ぐらい、つながせてあげるわよ」
きゅうと臆病な細い手が、おっかなびっくり僕の手を握る。
フン、と顔を背けて、仕方がない、というポーズを取らないと、君は手すらつなげない。
でも「ありがとう」とうそぶいて、手を引いて歩けば、ほら。花が咲くよりきれいに可愛らしく、君は僕の背に笑顔を向けてくれる。
理由を付けて、恋なんてあいまいで不確かな、やわらかなあわくもろい動機を包んで守らなくちゃ、君はきっと息も出来ないんだ。
石橋を叩いて叩いて叩いて、君は壊してしまう。落ちたら溺れてしまう。だから、壊してしまう前に、僕が君の手を握ってあげる。怖がらなくてイイよ。君だけが僕を好きなんじゃない。僕だって君を好きなんだから。
大丈夫。僕が居るよ。僕も君を好きなんだから大丈夫だよ。
君は溺れない。君の恋がちゃんと息を継げるように、僕はいる。