前夜
あの日からわたしとユイの関係は変わった。
とは言え、お互いを見る目が変わったという感じ。
例えば、食事中。
「ゆ、ユイー、おしょうゆとって」
「あ、ああ。しょうゆな、はい」
「ありがとー」
ドバッ
しょうゆを豆腐にどばっとかける。
「あーあーあー、女なんだから遠慮とか塩分とか気にしろよ」
「え!?あ・・・、はい」
最近、女という単語をよく使うようになった。
ユイにしてはとてつもなくめずらしい。
「ゆーいーくーんー」
「なんだよー」
夏休みに入って結構時間が経ったある日。
「明日からあれじゃん。3日間学校じゃん」
「うっわ、忘れてた。授業あるし。良くぞ言った」
「感謝しろよー」
うちの学校は、夏休みの間に登校日が何度かある。と言っても4日ほっどだが、うち3日は連続して学校に登校し、授業を普段どうり受けなければならない。
と、いうことで明日から3日間、私とユイは学校へ行く。
「学校のやつら久しぶりだなー。外出っつっても同じメンバーで遊ぶばっかだし。以外に楽しみかも」
ユイはパソコン机の横の椅子に座り、方杖をついた。
・・・
楽しみ
だと・・・!?
「ユイ、学校が楽しみなの!?」
「は?そうだけど。なに、お前学校ヤなの?」
「ヤ・・・っていうかね!うん、みんなに会えるのは超楽しみなんだけど、アレだよ、アレ!」
わたしは手を大きく振って「アレ」を表現した。
「アレってなんだよ」
ユイはキレ気味にわたしをにらむ。ウザいときのクセ。
「一緒に!住んでる!」
「・・・だから?」
・・・
・・・
・・・だから・・・その・・・
「みんな知らない!怪しむ!中学生が!同居!色々!勘違い!!」
はあ・・・はあ・・・
早口で言ったせいか、息があがってしまった。
自分でも言っていることが馬鹿らしいことぐらい分かってる。
でも、これをユイに言わないと、学校でどんなことになるか・・・
「っでね・・・、わかってくれる?」
どんな罵声を浴びせられるか怖かった。
多少上目遣いになってしまう。
床に座っているわたしはユイを見上げた。
「!?」
ユイと目が合う。そのまま3秒くらい見詰め合う。
「・・・」
頬杖をついたままのユイ。目をそらせようとしない。
パッ
わたしから目をそらせてしまった。
無理、なんか無理
なんか、自分が変。
ユイに対して、自分がなんかおかしいのに気づく。
これが何だか分からない。
「飯・・・準備するわ・・・」
「え」
急に席を立ってキッチンへ向かっていく。
ユイ・・・?
「あ、あ、カナも手伝うね!!」
「いや・・・」
長時間床に座っていて立つと膝の骨がポキっと鳴った。
その音と一緒にユイは首を振った。
「今日はもう・・・風呂洗ったら寝てていいよ」
「え、でも」
「ねーてーろ」
「・・・」
ユイが私を気遣っている。長年一緒にいたせいかそれくらいは理解できる。
「あ、じゃあ洗ってくるわ」
「おう、悪いな」
「ふー、気持ちよかった。何見てるの?」
風呂あがり、風呂からでた後リビングにユイがいた。
「明日の天気。あいにくの雨だ。家には誰もいねーから明日は洗濯物干すのやめとこ」
「ああ、そっか学校か。じじいに来てもらえば?」
冗談っぽく笑ってみる
「阿保か」
ユイもクスっと笑ってくれた。
お天気お姉さんの声が鳴り響く部屋の中。
「あのさ」
ユイが口を開いた。
目が合った
そのときにテレビを消す。
「お前」
「ん?」
部屋がとても静かなものに包まれているのが分かった。
「カナ・・・は・・・」
名前を呼ばれた。
いつもと同じ呼ばれ方なのに、なぜかドキリとする。
ゴクリとつばを飲む。
「好きなヤツとかいんの・・・」