雨音
雨が降り出した。
「カナ、暇だからじじいんとこ行くぞ」
「ふぁーい」
じじい、と、呼ぶ者は、少し離れたところに家を持つ、私とユイの知り合いだ。
じじいの本名は入井聡。67歳。
いつも車庫にこもっては物を作っている。
雨の中2人歩きだした。
無言が続く中傘にあたっては落ちてゆく雨の音が鳴り響いた。
ユイはなんとなく、車道側でなく水溜りの少ない歩道側を歩かせてくれた。
変なところの気遣いが良い。
ガラガラガラ
「すみませーん、・・・じじい!」
ユイが玄関の引き戸を開けた。中から木の香りがした。
ここはじじいの家。木造の古びた民家だ。
「はーいはい、はいはい」
「あ、こんにちは」
「こんにちはー」
奥から女性が出てきた。道子さん。じじいの奥さんだ。
「じじいねえ、また車庫にいるから、その道使って行ったって」
道子さんはゲタを履いて車庫がある方向に突っ立って指を指した。
「ありがとー」
私はゆっくりお辞儀する。中学生ともなると当たり前だ。
「それにしても大きくなったね。付き合ってるん?」道子さんは言った。
「「ちちち違いますっ!!」」
ハモった。
否定というのはいくらでも出来るんだなあ。
「おー、久しぶり、おまんらの親アホだな」
じじいの第一声はこれだった。
「いやー、チビ2匹も置いてご旅行だ?サルでもしねえよ。まあまあ座んな」
「・・・、じじい。また太ったろ」
ユイは近くにあったデカい椅子にドカっと腰掛けた。その椅子は大統領が座るみたいな椅子。
「なーにを言うか、つっても1キロぐらいだよ。じじいナメんな」
「あそ」
じじいはじじいのクセに口が達者である。
「で、おまんら一戸の家に2人だけなんだって?」
「ああ、そうだよ」
じじいの質問にはユイがすぐ答えてくれるから気が楽だ。
たまに面倒くさいのが来る。
「おまんら絶対やらしいことしてるだろう。中学生が1つ屋根の下で眠るんだぞ、2ヶ月も。馬鹿親のせいでな。カナちゃんだけでもこの家へ置いときたいぐらいだわ」
じじいは淡々と喋る。
「じじー、あのな、少なくとも俺やカナはんなことねーから。第一カナだぞ?このチビ」
悪寒に触れた。
「おおーっとスルーできませんねその言葉。カナはチビじゃありませんけど、これでもクラスで後から5番目のデカさですけど。こっちこそユイとなんか何もないんですけど。」
「おまんらほんと仲いいな。ユイがカナちゃんにほれるのも分かるわ」
「黙れじじい。その言葉一生使うな」
「へーへー」
なんか聞こえた気がした。