あの頃
これはあの頃の話だ。
小学校6年生の修学旅行、私は大阪にいた。
思い出作りのためのイベントだが、この日のメンバーは中学に上がっても同じである。
「ユイくんってさあ、絶対カナのこと好きだよね」
1日目の宿泊先の布団で彼女らは話始めた。
小学生とは言えもうすぐ中学生で、こんな話をするようになる。
私はというと、眠りにつこうと布団にもぐりこんだ。というところ。
話を聞いていないだろうと思って同じ部屋の住民は語りだす。
「ああー分かる、それっぽいよね。」
「だよねー!!」
え、え、なんか始まってる!ユイがカナを好き!?ありえないんだけど!
いっつもバカみたいなこと2人でしてるし
なんかいじめてくるし
あんな行為してくるのに好きって勘違いしてるの?
「この前だってね、ユイくんと男子が喋ってるとこ見ちゃったんだけど、ある男子が『カナのことどう思う』ってたずねたときに、真っ赤になってたの!」
「まじで!?あたしはこの前、『カナのこと可愛くない?』つって話してる男子にユイくんがキレてるの見たよ(笑)」
「ええー、やっぱそうなんじゃん。絶対好きだよー」
・・・
なにこの話。
ユイが赤くなってるのなんかバトンリレーで負けて悔しがってるとき以外見たことないし。
カナは別に気に入られるような女の子でもないし。
他に可愛い女の子なんか山ほど・・・
なんか消極的になっちゃった。
「でもさあ・・・、ユイくんのこと好きな女子って結構いるんじゃない?」
恐れていたコメントがきた。
やっぱりね
色んな子に好かれてるユイが
カナのこと好きになるってあり得ない。
人気のある子ってのは人気のある子を気に入るんじゃないの・・・?
どうでもよくなって眠ってしまった。
2日目の夜、女子の中の数人が、男子部屋に集まることになってしまった。
ちなみに、
その中に私も含まれていた。
「お邪魔しまーす♡」
女子だけのときとは全く違う、高い声を男子に向けているみたいだ。
「ユイくんこんばんわあ」
1人の女子が部屋に入るなりユイに猛アピールだ。
きっとユイのことが好きなんだろう。
あ・・・
男女関係なくユイのことろへ人が群がっていく。
ユイは変なものでも見るような顔をする。
でも彼は好かれてる。
いいなあ ユイ
「カーナ」
「うぎゃっ」
ぼっとしていた私の真横からユイが顔を覗かせた。
「なによう。みんなと話してたんじゃないの」
「ああ、みんな王様ゲームしてる」
「あは(笑)面白そう」
「おもしろかねーよ。みんなキスとか馬鹿なこと言ってるぞ」
「それはやだ」
「だろ」
いつものように会話が弾む。
「お2人さーん、一緒にやろー!」
男子が1人私たちに向かって手をふっている。
「「えー・・・」」
嫌がる声がハモった。
「強制参加だよ」
嫌な予感がした。
「5番と7番、手つないでー」
王様が大声で叫んだ。
それとともに奇声がドっと起こる。
男子同士が手をつないでいるのを見て気分が悪くなった。
「次ー」
今度も男子が王様だった。
「2番と8番キスぅ!」
えっ
キス?
絶対したくないよ。
でも12分の2の確立だし、大丈夫か。
2番があたってしまった。
最悪。
しかも相手はれっきとした男子。
クラスの中でもトップクラスの人気者。
相手はまんざらでもなさそうな顔をしていて腹が立つ。
「カーナちゃーん!どうぞ!」
おだてる声がわんさか上がる。
どうしよう
怖い
座っていたのを無理やり誰かに立たされた。
カウントダウンが始まる
「3」
「2」
「1」
目をぎゅっと閉じた。
やだっ・・・・!!!
その瞬間、生暖かいものが口の上にかぶさった。
手も握られていた。
やだ
やだ
「ユイ・・・くん・・・?」
「え」
「マジ?」
耳に流れ込む人の声。
歓声かと思いきや、意味ありげな発言ばかり。
・・・
ユイ?
ふと目をあけるとユイが目の前にいる。
「ユイ・・・?」
「・・・」
これが私のファーストキスであった。
レイコの話によると、
キスしようとした8番の男子が私の腰に手を回したとき、
急にユイが立ち上がって、その男子の肩をはじいたらしい。
そのまま私の手を引っ張ってキスをしたようだ。
真っ赤になった私にユイは告げてきた。
「ごめん」
それからめっきりユイと話をすることはなくなってしまった。
この話を思い出すと、胸がいつもしめつけられる。