第八話:恋敵と少女
この物語はフィクションです。実在する人物・団体・事件などには、一切関係ありません。なお、この作品には一部同性愛的な表現を含みますので苦手な方はご注意ください。
次の日になってもシオリの態度はいつもと変わらなかった。
否、ミヅキに時々微笑む中の儚さがなくなったのだが、ミヅキはそれに気付いていなかった。
二人はいつものように一緒に登校し、教室に入った。
未だにクラスメイトがシオリの周りに寄ってくるが、ミヅキがそれを追い払ってくれていた。
「ありがと…。」
シオリの顔が朱に染まっている。さながら王子に助けられた姫君と比喩しておこう。
「どういたしまして。」
ここ数日で見慣れた光景になりつつあるが、今日はいつもと違うようだ。
「ミヅキって瀬口さんと仲いいよね。」
クラスメイトの男子生徒だった。名前は確か杉野だったかな、とシオリは思った。
「まあね。シオリは私の親友なの。」
「ふーん……それよりさ、朝学習のプリント取りに行くの手伝ってくれないか?」
「何で私が…。」
「一週間くらい仕事サボってたんだから当たり前だろ。ほら、来い来い。」
ミヅキは杉野に連れられて渋々といったように教室を出て行った。
シオリのカーディアンであるミヅキが出て行ってすぐに先程追い払われた生徒達が寄ってきた。
シオリはその生徒達の話を聞きながら、ミヅキが消えていった方のドアを眺めた。
「ミヅキって杉野君と仲いいの?」
お昼時に急にシオリは質問を投げかけた。
いつもいるミヅキの友達の少女達は今日は委員会でここ、屋上にはいない。
シオリはチャンスとばかりに本人に聞くことにした。
「別に。悪くもないけど…なんで?」
「ううん…ただなんとなく、ね。」
それからミヅキはお弁当の中身を箸でつついた。ちなみに今日はシオリのお手製弁当だ。
ミヅキの好物のから揚げが入っている。
シオリもお弁当を早く食べ終わろうと再び箸を動かし始めた。
シオリはミヅキに気付かれないように杉野のことを他の生徒に聞くことにした。
「え?杉野君?…ミヅキちゃんとはそんなに仲が良さそうには見えないけど。」
「井上と杉野ってそんなに話してるとこ見ないけど…。」
「杉野君と井上さんってなんか二人共クールな感じじゃない?だから意外と話は合うかもね。」
井上とはミヅキの苗字だ。何人かに聞いたがやはりあまりいい情報はなかった。
放課後になり、今日は予定があるからとミヅキは急いで家に帰ったがシオリは学校に残った。
「瀬口さん?何してるの?」
教室で一人、今までの情報をまとめようとしていると当の本人である杉野が声をかけてきた。
「あ、杉野君。」
「めずらしいね。ミヅキがいないなんて。」
「うん、急用があるって先に帰っちゃったんだ。」
シオリがそう言うと、杉野は隣りの席の椅子を引き向き直り座った。
クールというよりも、読めない人だった。
「瀬口さんはミヅキが好き?」
「え?うん。好きだよ。」
ふーん、と笑ってそれからまたシオリに向き直った。
「どういう意味で?」
「…どういう?」
シオリがその問に困っていると杉野は椅子から立ち上がった。
「俺もね、好きなんだ。」
何がと問おうとしたが、杉野は瀬口の頭を撫でてから教室を出て行った。
きっとあの少年はミヅキが好きなのだ、とシオリは思った。
一人だけの教室はとても静かだった。
恋敵?杉野君の登場です。やっとここまで。読んでくださりありがとうございます。