第六話:雨天と少女
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。なお、この作品には一部同性愛的な表現を含んでおります。嫌悪感を抱かれる方はご注意ください。
シオリがミヅキのもとに来てから、もう一週間が過ぎていた。
その間のシオリの住まいは二人が最初に出会ったあの古びた神社だった。
つまりシオリは六日間ここに住んでいることになる。
放課後になるといつものようにミヅキとシオリはこの神社に来る。
「シオリ、夜とか寒くないの?風邪ひいても知らないよ。」
「平気平気!身体だけは丈夫だから。」
そうは言っているが、実際はシオリの顔色はいつもより悪く見えた。
普段でも白く、不調そうに見えるが今日はそれに少し青味を加えたように見える。
「けど朝から具合悪そう…やっぱり私の家に来なよ。」
「それじゃミヅキの家の人に悪いし、それにここでも大丈夫だって。」
笑っているが、やはり辛そうだった。シオリは空を仰いだ。
昼までは日が昇り暖かかったが、今は一面灰色の雲に覆われている。
「雨が降りそう…ミヅキはもう帰ったほうがいいよ。」
「けどシオリを一人でここに置いて行けないよ。」
「私のことは気にしないの。ね?」
シオリはミヅキの額を軽く指で小突いてからまた笑った。
それはいつもよりも儚く、そして無理をしているとミヅキはわかっていた。
それでもこの少女に気を使わせないようにとミヅキは帰ろうと思った。
本当は自分がこの微笑を見ていたくなかったからかもしれない。
「…じゃ帰るよ。本当に無理しないでね。」
「わかってる。気をつけて帰るんだよ。」
「うん。またね。」
またね、とシオリもそれを返し、ミヅキが帰るのを見送っていた。
ミヅキは振り返りシオリを見た。やはり顔色は悪いと思った。
それから一時間が経ち、雨が降り始めた。
ミヅキは自分の部屋の窓から外の景色を眺めた。
今頃はあの少女はどうしているのかと思うと不安に胸を駆られた。
雷まで鳴り、それが余計不安にさせた。
「やっぱりシオリの所に行こう…。」
ミヅキは部屋を出、階段を降り、玄関にある自分の靴を急いで履いた。
「お姉ちゃん!今日、私外出するって言っておいて!」
姉は居間の方から顔を出し、嫌そうな顔をしている。
「ちょっと!アンタどこ行くつもりよ、何にも持たないで。」
「友達のとこ、それじゃ!」
姉が呼び止める声がしたがミヅキは気にせず神社に向かって走って行った。
傘を差してはいるが、走っているせいであまり意味がなかった。
神社に着いた頃にはずぶ濡れになっていた。
それでも構わずシオリのもとに行こうと肩で息をしながら屋根のある場所に入った。
シオリはそれに気付き、ミヅキにタオルケットを被せた。
このタオルも魔法で出したのだろうかとミヅキはぼんやり考えた。
「まったく、バカじゃないの?!こんな雨の中来るなんて…傘だって意味ないし…。」
言葉尻が小さくなっていた。怒声というよりも涙声も近かった。
「うん…ごめん。」
「これじゃミヅキが風邪ひいちゃうよ…。」
最後の方は声になっていなった。シオリは泣いていた。
「泣かないでよ、シオリ。」
「だって…。」
嗚咽しながらシオリはミヅキに抱きついた。温もりが伝わってくる。
同時にシオリの衣服も濡れてしまっていた。
「ごめんね、ごめん。」
泣きやむように、ただ抱きしめて頭を撫でた。
ミヅキは胸が苦しかった。シオリの笑顔を見ているときよりもずっと痛いと思った。
シオリはしばらくして泣きやんだ。目が赤くなり兎のようだと思った。
「可愛い…。」
小さな声で呟いたつもりだったが、どうやらシオリに聞こえていたようだ。
シオリは弾かれたように顔を上げたかと思ったが、今度は俯いた。
微かに頬が赤いと思った。
少し気まずい、とミヅキは思ったがそれから意を決したようにシオリに向き直った。
「あのさ、シオリ…。」
呼ばれてシオリはその顔を上げた。
久しぶりの更新です。第六話、読んでくださりありがとうございます。次もよろしくお願いします。