第四話:学校と少女
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、一切関係ありません。なお、この作品は一部同性愛的な表現を含みますので、嫌悪感を抱かれる方はご注意ください。
朝が明けて、ミヅキとシオリは朝食を食べ、制服に着替えた。
シオリは昨日と同じように早口言葉のようなものを唱えミヅキの通う高校の制服と同じものを着た。
家を出るときには持っていたバックをシオリは魔法で消し、また何か唱え始めた。
(今度は何をするんだろう……。)
ミヅキが立ち止まって見守っていたが、終わっても周りに変化はなかった。
「ねぇ、今何したの?」
「転校手続きみたいなものかな。」
少女は何でもないように言ったが、それはミヅキの通う高校に来るということになる。
「…正しく言えば、前からそこに通っていたみたいに扱われるんだけどね。」
ミヅキは関心したのと同時に驚いたが、それよりも嬉しかった。
もしかしたら、朝になれば別れが来るのかもしれないと覚悟していた分、嬉しい。
けれどミヅキは自分が何故、ここまでこの少女と一緒にいられるのかわからなかった。
シオリのことが気になるものの、それはきっとこの時代では他に頼る相手もいないだろうと自分が少女の頼りになろうと思ったのだ。
本当はそうではないのだが、この時のミヅキは新しい友情を大切にしようと決意した。
少しばかり坂になった道を歩くと、広い敷地にたくさんの校舎が並ぶ高校が建っていた。
シオリはミヅキに案内されながら普通科の二年生の玄関に来た。
ミヅキが下駄箱の中から上履きを出し、履き替えているが、シオリは横でその靴を見ていた。
「学年カラー、生地…よし!」
指をくるくる回し、靴と通学用鞄を出した。流石にここではあの黒い杖は使わないようだ。
今回は呪文も閃光も何もなかったが、ようは気持ちの持ちようなのかもしれない。
ミヅキは呪文も杖もなくても魔法は唱えられるのだとわかった。
「さ、早く教室に行こう!」
「え?同じクラスなの?」
「当たり前でしょ、じゃないと知らない人ばかりで困るし…。」
いつも朝は不機嫌なミヅキはこの一言で更にご機嫌になっていた。
同じクラスになれたうえに、頼られている。いつも無表情なミヅキは今日ばかりは笑顔で登校だった。
教室に入ればクラスメイトがシオリにおはよう、と挨拶をしてくる。少女もそれに返すがちょっと困っているようだ。
「シオリのことはわかるのに、シオリはクラスの顔とか名前わかるの?」
ミヅキは小声でそっと訊いたが、シオリはそれに頭を横に振った。
「ううん…知ってはいるんだけど、こうも皆に挨拶されるとは思わなかったの。」
シオリもそれに小声で答え、苦笑した。どうやら魔法がここまで効いているとは思わなかったようだ。
シオリはちょうど、空席になっていたはずのミヅキの後ろの席の椅子を引いて座った。
「ミヅキちゃん、教科書って何使ってる?」
ミヅキは机の中とロッカーに入れてある教科書をあらかた見せ、これも今用意するのかと思った。
「大丈夫みたいね…あ、さっき手続きの魔法する時に机の中の用意もしておいたの。」
企みの種明かしをするように子どもらしく笑い、シオリはまた欠けているものがないか確認した。
確認をしている最中にクラスメイトの数人がシオリの近くに寄ってきたが、教室に担任の先生が来たためにその生徒達は渋々自分の席に戻っていった。
ミヅキはなぜかまた胸が苦しくなった。
(ただの友だちのはずなのに……。)
後ろを振り返り、シオリを見たが、彼女は首を横にかしげ微笑んだ。
その顔を見ても、ミヅキはやはり胸が痛いままだった。
第4話を読んでくださりありがとうございます。基本的に主要人物の2人以外は出番が少ないので名前がありません。ご感想など頂ければ幸いです。