第二話:夕焼けと少女
この物語はフィクションです。実在する人物・団体・事件などには、一切関係ありません。なお、この作品は同性愛的な内容を一部含んでおります。嫌悪感を抱く方はご注意ください。
雨もすっかり止み、もう夕方だった。傍らで横になる少女は未だ気持ち良さそうな寝息を立てている。
いい加減に帰らなければいけないと思い、ミヅキは少女を起そうと身体を揺さぶった。
シオリはゆっくりと瞼をあけ、それから瞬きをした。ミヅキの顔を見て微笑む。
「おはよう。」
呆れた様に、眠っていた少女に向け皮肉も含めて言ったが、半分眠りの世界にいる少女はそれに気付なかい。
「おはよう、ミヅキ。」
小さく欠伸をしてから立ち上がると、両腕を上に伸ばし目を瞑り背伸びした。
ミヅキはその様子を見て何故だか綺麗だと思った。特に変わった所がないはずの行動が不思議とそう思えた。
「ところで君さ、魔法使いって本当なんだね。犬に追い掛け回されてたのはカッコ悪かったけど。」
「カッコ悪いは余計だよ。」
シオリがふくれたようにそっぽを向くと、ミヅキは苦笑した。
「ま、それはいいけど。シオリちゃん?…スカート短すぎないか?」
そう言われてシオリは自分のスカートを見下ろした。紺色のブレザー、スカート。ワイシャツ。白い靴下。
他校のものだろうが、ミヅキにはそれ以外の理由で異様に思えた。
ブレザーの下には紺色のカーディガン。そして太ももが出すぎの短いスカート。
この二点がミヅキには異様に思えた。
「そうかな。私の周りでは普通だけど。」
対するミヅキのスカートは長かった。膝下丈の紺スカート。髪は腰くらいまであり、前髪も長い。
さながらスケバンのようだ、とシオリは思った。
「まぁミヅキちゃんが可笑しく思うのも無理ないよ。私この時代の人じゃないし。」
魔法使いと言うのは一応理解したが、ミヅキはやはりこの女はネジが吹っ飛んでいるのかと思った。
「私ね、時空移動してここに来たの。」
「時空移動って、本当にそんなことできるの?」
「うん。長い時間呪文を唱えて、成功すれば移動できるの。でもそのせいで寝てなかったから…。」
そう言ってから顔を赤らめた。その答えに納得したのかミヅキは少女が眠ってしまったわけがやっと理解できた。目の前にいる少女はやはり魔女なのだとも再認識した。
「それで?シオリちゃんはどうしてここに来たの?」
「会いたい人がいるんだ。元の時代だと、会う勇気がないから。」
魔法使いの少女は淋しそうに微笑んで、夕焼けを見つめた。
その横顔をまた綺麗だと、ミヅキはぼんやりと思った。瞳の中に小さなオレンジ色の球体が映っていた。
何か触れてはいけないような、神秘的なものだと感じた。
「それって恋人か何か?」
「うん。そんなとこかな。」
それからシオリはミヅキに向き直り笑った。先程の微笑とは違い今度は明るさを差し込んだ笑顔だった。
「その人に、一目会ったら帰ろうと思うの。」
「……その人は、どんな人?」
何故だかミヅキは胸の辺りが痛くなったような気がした。すぐに気のせいだと思ったが。
「内緒。でも、とても大事な人なんだ。」
そっか、と相槌を打って、この少女はその相手を見つけるまでどうするのだろうと思った。
暮らす場所はどうなるのか。それともいちいち元の時代に帰るのか。ミヅキは訊いてみた。
「この時代に残って探そうと思うけど、あてがなくて。」
「じゃあさ、私の家に泊まりなよ?学校の子だって言えば大丈夫だと思うし。」
ミヅキは自分で言ったことに内心驚いたが、それよりもこの少女のことが気になった。
「ありがとう!お言葉に甘えるよ。」
屈託のない笑顔。それは大輪の白い花を思わせた。
夕焼けに染まる場所で二人の少女が微笑んでいた。
第二話、読んでくださりありがとうございます。ご感想などあればよろしくお願いします。