第一話:梅雨と少女
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件など一切関係ありません。なお、この作品では同性愛的な内容も一部含まれております。嫌悪感がある方はご注意を。
梅雨の時期特有の湿気がした。道端は所々水溜りができている。
一人の少女が運悪く、はねた泥水で靴下を汚した。真っ白な靴下は後ろに少し染みを作った。
少女は少し顔をしかめて、またすぐ歩き出した。
この少女の名はミヅキ。近くの高校に通う生徒だ。今年で二年になり、運動部であれば大事な時期だが、彼女はあいにく茶道部だ。部活動は二週間に一度で、出るか出ないかだ。
ちなみに今日は部活動のある日ではないので、いつものように彼女は家に帰るところだ。
だが今日の彼女は何を思ったのか古びた神社に寄り道をした。得に用もないが、暇つぶしに寄っただけのようだ。
「きゃ―――!」
いきなりどこからか誰かの声がした。ミヅキは辺りを見回したがその声の主だと該当する者はいなかった。
「どいて――!」
上から声がすると気がついた頃にはもう遅かった。上から降ってきた少女にミヅキは下敷きにされてしまった。
あまり重いとは感じなかったが、やはり痛いようだ。ミヅキの眉間には皺がよっている。
「・・・どいてくれない?」
「え、あ!ごめんね!」
少女は申し訳なさそうにして、すぐに彼女の上から降りた。それから周りを見回して、息を吐いた。
「着地はなんとか成功・・・あ、怪我とかしてない?」
「平気。」
少女はミヅキを確かめるように見てから微笑んだ。心底安心したというように笑って、それから顔を赤らめた。
「よかった・・・あ、私シオリ。魔法使いなの。よろしくね。」
「ああ、私はミヅ・・・・・・。」
言いかけてミヅキは一瞬固まった。彼女の言ったこと。一体何を言っているのか。天然なのか、ウケ狙いか、ただのアホか。彼女はシオリという少女を凝視した。
シオリは紺色のブレザーにスカート、白靴下という制服を着ていた。しかしそれは自分達の学校のものでも、近く学校のものでもなかった。特には目立たないからそれは気にしない。ある一つのものを除いてはだ。
シオリは変わった形の杖を持っていた。ちょうど五十センチ程の黒い杖だ。それがシオリの先程の言葉で異様なものに見える。
「その顔は信じていないでしょ?・・・しょうがない実際に見せてあげるね。」
少女はそう言ってから杖を高く上げて呪文を唱え始めた。早口言葉のようにも聞こえる。
一瞬光り、コルクが抜けたような音がした。その場には怖そうな犬がいた。どうやら機嫌が悪いようだ。
「ほらね、言った通りで・・・。」
シオリが話し終わる前に、犬がシオリ目掛けて噛み付こうとした。当然そんなことになれば驚いて逃げ出す。
神社の周りを追いかけっこするように走り、シオリは何週目かでミヅキに向かって倒れた。
犬は今がチャンスと思ったのか一気に飛びかかろうとしたところ、煙になって消えてしまった。
どうやらシオリの魔法は術者が意識を失うと消えてしまうようだ。
ぼんやりと消えていく煙を眺めてから、腕の中に倒れこんでいる少女を見つめた。
どうやら本当のようだと一応、納得はしたがこの状況をどうしたものかと思い悩んだ。
そのまま起きることのない少女を抱きかかえ屋根のある場所に腰をおろした。
「起きた後にゆっくり話を聞くからね?」
ミヅキは横で丸くなっている少女に向かって一言言い、ため息をついた。
再び雨が降りそそぐ。もう少しだけここで雨宿りをするかとぼうっと、その景色を眺めた。
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