確実な未来の不安
未来に「絶対」はほぼ存在しない、というのは作者の持論だ。
いつどんな時どんでん返しが来るかわからない。
予測が的中しないからこそ命拾いまたは命を落とすなんてことがある。
いざとなれば火事場の馬鹿力が出るかもしれない。
もしかしたら志半ばで失敗すら出来なくなるかもしれない。
かもしれない。
…例外もあるのだけれど。
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結局青子は一日をどう過ごしたかは覚えていない。
放課後を知らせるチャイムが鳴って、掃除の開始を促されてようやく青子は意識を覚醒させた。
(そうだ、掃除しなきゃ)
箒を求めて掃除道具をあさる。
廊下からあれが?とか意外ー!等の声が耳に入り、嫌な汗が流れた。
今朝の事故だ。
ヤンキーに気に入られた人間がどういうのかを見に来たのだろう。
見物人はもはや他人事のように笑う。
(気に入られたくてこんなんなったんじゃない!)
口から出たのは罵声ではなく溜息。
そのうち笑えなくなるかもしれないのに、暴動事件が起きて新聞沙汰になるかもしれないのに、と妄想だけは活発になる。
そんな青子を紫織が見かねて背中をたたいた。
「大丈夫?」
「いや…」
「でしょうね」
紫織はまだ見ぬ青子に告白してきたヤンキーを恨んだ。
親友が辱められる姿を見ていられなかった。
同時に告白した当人がこの現状を知らないということにも苛立ちを感じる。
遊びでこんなにも振り回すなら最初から絡んでくるな、嫌がらせだったら滅びろ、というのが紫織の持論だ。
「青子、今日はもう帰った方がいいよ。掃除変わるから」
「そ、掃除ならできるよ大丈夫!それより一人で帰るのが嫌だから…」
慌てて言ったが後半はしりすぼみだ。箒の柄が強く握られる。
今日は青子の所属する調理部はない。普段はそのまま帰宅するのだが今日はそれどころではない。
これから起きるであろう予測不能な事態に青子は空気を重くする一方だ。
そんな青子を見て一瞬顔をしかめた後、紫織は思い切って言った。
「わかった、今日部活休んで青子と一緒に帰る」
「えぇ!?」
青子は紫織の決意に驚いた。
紫織は剣道部員で夜になるまで練習をするほど熱心に活動してるのだ。
気持ちは有り難いが、申し訳なくなる。
そんな青子を宥めるように納得させるように紫織は言う。
「大丈夫よ、一日くらいなら許してもらえる」
「でも部長さん厳しいんじゃ…」
「前のはね。今は真面目だけどちゃんと理解力ある人だから」
紫織は笑顔で言いつつ青子の両肩に手を置き
「いざとなったらそのヤンキーをアタシが打ちのめしてやるんだから安心して!」
と言った。
少しの不安がまた加わったのだった。