KYとハミは違います
人の評価の七割は第一印象で決まる、という言葉があるそうだ。
そんなわけあるかと否定する方もいるだろうが、実際第一印象の力は無意識に大きい。「一目惚れ」なんて第一印象重視を如実に表しているではないか。
そして感じる側に個人差があることも忘れてはいけない。
惹かれる観点は人により異なる。
「はぁ!?てめぇら何やってんだ?!」
その罵声は片木高校によぉーく響いた。
今朝杉松高校に特攻して追いやられた折原赤斗、中林、大木を小森灰正座させ尋問(拷|問ではないらしい)している最中に思わず声を上げたのだ。
赤斗達は、三宅青子に疾走され友人の塚地黄華に質問攻めした後、杉松高校名物大魔神(本名:白神勝則)プレゼンツ座禅を抵抗虚しく受ける羽目になった。
そして昼前フラフラになりつつ片木高校に行けば木刀持った小森が御立腹。
軽く一戦してこのザマである。
片木高校の有力者である赤斗も、小森は手に負えないむしろ小森の方が強い。
「中林さん」
「おぉ?」
「小森さん、なんであんなにお怒りなんすか?」
「シラネェ、おいてけぼりにしたからじゃね?」
「小森さん朝はすこぶる弱いっすからねー」
「黙れ、タバコ無くてイッライラしてんだ」
※未成年のタバコは禁止されてます
※タバコの喫煙は早死にします
一通り説明したものの熱り立っている小森は納得しなかった。
「あのー、正座もうヤなんだけど」
「うるせぇ、たかが女に何馬鹿やってんだ」
「女言うな!三宅青子さんだ!」
「そうそう!聞いてくださいよ!兄貴、見に行こうって言ってた写真の女子と違ってたんすよ?!」
訴える大木の言葉に小森は眉を潜めた。
「オイ、その写真いつ見てたんだ」
「えっと、昨日晩?」
「小森が原付のメンテして出てったとき」
パカーンッ!といい音したのは小森がそこいらにあった空き瓶を投げ付け壁に当たった為。間一髪で三人は避けたものの、通常騒がしいはずの教室が無音になった。
「……くっだらねぇ」
小森の周囲が淀んでいるのがハッキリとわかる。
何故そこまで怒るのか、理由は単純かつ厄介である。
「女作って囮に使われるオチをわざわざする馬鹿は死ね」
かといって彼等が女に無縁かといったらそうではない、セ/フ/レな関係を築いてたりする。
小森が言いたいのは「不良ならではの抗争に女は邪魔だ、本命作ってソイツの為に振り回されるのは下らない」ということだ。
喧嘩史上主義の小森だからこその意見である。
そんな副音声が赤斗達に伝わる訳が無い。
「オメー三宅さん見たことねーから言えるんだ!」
「いやーでも俺小森に着くわ」
「中林裏切るのか?!」
「裏切ったのはアニキっすよ!なんすかあのフツメン、一緒にいたお友達の方がまだマシでしたよ!」
「大木は黙ってろッ!」
赤斗に頭を殴られた大木は奇声を上げた。
「おい外野、コイツらの一部始終をだれか説明しろ」
赤斗達の内輪揉めに痺れを切らした小森は黙り込んだクラスメイト(部外者含む)を見回す。
冷汗を垂らしながら押し出された一人が解説することになった。
それは昨日晩、まさしく小森が原付のメンテナンス(という名の改造)をしてたとき、折原の携帯に着信したメールに起因する。
相手は緑、大木や中林にとっては会ったことのない赤斗の参謀(と、勝手に扱ってる)だ。
そのメールは「三宅その①、クレーム拒否」というタイトルでただ写真が添付されてるだけだが、赤斗の目的の人物がいた。
ご存知の通り三宅、というのは赤斗が一目惚れした人物。そして緑と同じ学校に通っている。
また会いたい、という欲望に面白半分で同行したのが中林。金魚のフンが大木。
そして今の状態に至る。
「…例の写真はどれだ」
「なんだ小森、お前も三宅さんの魅力を知りたいか?」
カーンッと赤斗の頭に空き缶が命中。
声も出ないくらい痛かったようだ。小森は構わず赤斗の学ランポケットに手を突っ込み携帯を強奪。勝手に取るな!と遅れた抵抗を無視して携帯開く。
「ッ……」
開いてすぐ人の写真。
第一印象は確かに綺麗だ、と不覚にも惹かれる。
画面左側、長髪に流し目の女子が机に頬杖をついてるだけなのに見栄えがいい。
待受にするなというツッコミを忘れる程だった。
がしかし赤斗が肩越しに指を指す先に小森は目が点になった。
「これが三宅さんなんだよ!」
それは惹かれた女子の右奥に写るポニーテール。教室に入ってきた様子。
出オチの後のソイツは恐ろしい程見劣りした。(超絶失礼)
「パッと見て絶対手前の人だって思うよな」
赤斗の反対側から覗き込む中林は言った。そして小森は全力で同意する。
「てか眼科行け」「お前らが行け」
ガンッと顎に一発食らわす。
いくら同じ高校でも容赦しないのが小森だ。ただし赤斗と中林限定。
顎を摩る赤斗を中林は笑う。
「アニキ今日はトコトンついてないっすね」
自滅するのが大木である。本日何度目かの奇声が教室を満たした。
「こんな無駄なことにこだわるな馬鹿」
「あぁ?!」
「手前の女なら価値あるがソイツはどこにでも居るようなヤツだ、わざわざ会いに行って一目惚れ告白玉砕なんてアホくさ」
小森は鼻で笑う。赤斗はそれが許せず小森と向き合い睨みつけた。
負けじと小森も睨み返す。
「小森ィ……いくらテメェでも三宅さんを否定すんなら許さねぇ」
「そもそもどこに惚れる要素がある、お前B専?」
「眼科行け、オメェに理由なんざ言ってやらねぇ」
「聞いても無駄だけどな」
「結局テメェは目利きじゃねぇってこった」
「お取り込み中失礼だけど」
今にもつかみ合いが始まろうとする時、中林が言葉を遮った。
「外野がウザがってるから外でよろしく」
親指で指す先は沈黙したクラスメイト(部外者含む)達だった。
親指で示された先を二人は見遣ることはしなかった。
しかし不毛だとわかったのか、フィッとお互い視線を逸らし赤斗は近くの椅子に音を立てて座り、小森は教室を出る。
「どこいく」
「帰る」
小森を止める者はこの学校で教師以外居ない。
そして教師もあまり強く言わない。
引き戸が破壊音に近い音を立てて閉められる。
気まずい雰囲気が教室を支配したまま時間は過ぎて行くのだった。