一期一会?
王道だが、恋愛のきっかけは単純だ。
幼なじみでもお見合いでも一目惚れでも、ピンッと来たときに恋が始まる。
成就すればおめでとう、敗退すれば次頑張れ。
まぁそんなものだ。
ただそのピンッと来るきっかけが雑でいい加減で、それなのに本気なのは如何なものか。
夕焼けが次期に暗闇に変わる頃、三宅青子は書店を出た。
立ち読みをしたあと漫画をザッピング、集めてるものと新刊で面白そうだと感じたものを幾つか買いテンション高めに自転車置場に向う。
そんな至福の時に足を止めた。
人がいる、とだけで怖じけづく程彼女は対人恐怖症ではない。
問題は視覚に映った人間が、世に言う「ヤンキー」もしくは「不良」であり見てくれが怪我をしてたり服が破れてたりしてたからだ。
恐らく、いや絶対一戦終わった後。自転車置場の柱に体重を掛けて座り込みまぶたを閉じてる。
当然、なんでここに、と疑問が浮上する。
めんどくさそうに伸ばした足が邪魔だが、余計な事に巻き込まれたくないと青子は避けて通る。
が、彼女は気になってしまうのか、避けていたにも関わらずそのびくともしない不良の回りをうろうろする。
脳内では(救急車がいいのかな、いやそこまで必要ないかも、でも警察は恨み買いそうだし店の人に聞いても意味ないかも)と無駄に騒いでいる。
ヤンキーの生命力を信じてほっとけばいいものを。
さて、ぐったりしている男折原赤斗は、まぶたを閉じていたがうろつく存在には気付いていた。
ここに来た理由としては喧嘩の後の休み場として利用してただけで特に理由はない。
思った以上疲労したのか家まで動く気がなかったのだ。
怪我もほっとけばいい、いつものことだと扱うのは慣れからくる。
お決まりの如く落ち着かない存在感に「うぜぇ」と声を出した。
やはり青子もお決まりの如く驚く。それを無視して赤斗はまぶたを開き、続けた。
「てめぇ、俺に何の用だ」
威嚇をする目付きで、怯える人間を睨みつけた。
青子の恐怖のゲージはMAXだ。
慌ててかばんから絆創膏を取り出し
「あ、あ、あのっこれ、使って下さい!!」
無理矢理、半ば投げ付けるように押し付け、かつてない速さで自転車に乗り込み去って行った。
「…は?」
赤斗はただただ驚く。
暗闇の中でボンヤリ見た女の存在に。
貰った絆創膏をまじまじと見る。赤斗が負った怪我は明らかに覆うことが出来ない。
(三宅……)
去り際に見た名鑑を、あまり使っていなかった記憶力で搾りだす。
折原赤斗にとって、それがピンッと来たきっかけだった。
「何で」と、尋ねたくなるかもしれない。
が、恋愛とはそんなものだ。
ピンッとくるきっかけなんか他人にとって「知るか」でいなされる。
理不尽、不可解。
それが恋の病にかかった人間の症状なのだ。