踏み台昇降の片思い。
片思い?
※踏み台昇降とは、高さのある台に昇ったり降りたりを繰り返す全身運動。
一定時間昇降を行った後、心拍数を測定し、心拍の回復によって全身の持久力が評価される。
今日は、学校の体力測定日。
体操服に着替えて、クラス単位で、男女で別れて測定場所を回っている。
ここは、1階保健室廊下前。
廊下の端にずらりと並んだ、高さ30cmほどの踏み台。隣の隣の校長室前まで伸びている。
前のクラスが、メトロノームの一定のテンポに合わせて、踏み台昇降中。
ダンダン、トントン、ダンダン、トントン・・・
一糸乱れぬ足運び。
へ~。始めて見た。あんな感じで昇り降りすればいいのね。
なんだか軍隊みたい。
3分間の踏み台昇降が終わり、昇降していた学生が、踏み台に座り、もう一人の学生が脈を測っている。
へ~。そういえば先生、ペアになった人の脈を測るって言ってたな~。
私、脈を測った事ないけど、脈どこ、どこ?
見学しながら、自分の右手首を左手親指で押さえるが脈が触れない。
先生、運動後は脈が強くなるから、脈が触れるって言ってたから大丈夫だよね。
私のクラスの番になった。
身長順で踏み台の前に並ぶ。
私は後ろから2番目に身長が高い。
だから私の右隣には、隣のクラスの男子生徒が立った。
あっ!前田君だ。
前田君とは、面識がある。
いつも一緒に登下校している友達と同じクラスの前田君。
友達は前田くんと仲が良いい。
私が帰りに隣のクラスに友達を迎えに行くと、友達はクラスの数人と話している事が多い。
その中の1人が前田君。
前田君と、挨拶はしたことある。
私を見ると、「おい、咲ちゃん迎えに来たぞ」って、友達に教えるから、私の名前も知ってもらっている。でも、しっかり話したことはない。
私は、前田君の友達ではない。知り合いかもしれない。
細身で、身長が私よりも高くて、髪型はツーブロック。
顔はイケメンかと言われると、普通。おでこにニキビが少しある。
でも、友達への声掛けとか、さりげないフォローとか、机に腰かけてる座り方とか、かっこいいと思う。
私に向ける笑顔。好きになってしまった。
前田君が友達を好きかは知らない。
友達には彼氏がいるから、その恋は実りはしないと思う。正直、実って欲しくない。
前田君に、挨拶すべきかな?
前田君は、自分の前髪を触っている。私の方を見ていない。
私に気付いてない?
「はい、始めるぞ。メトロノームリズムに合わせて昇降しろ。10秒カウントするぞ、11で足を動かせ」
「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10」
ダンダン、トントン、ダンダン、トントン・・・
前田君にあいさつ出来ず、踏み台昇降が始まってしまった。
みんな一糸乱れぬ動き。誰もおしゃべりしていない。
メトロノームのチクタク音と、足音だけが響く廊下。
私は、遅れないように、メトロノームの音を拾うことに集中。
だいぶん、足運びが慣れて来た。
少し疲れた。
少し汗かいてきた。
ん?なんだか、右隣からいい匂いがする。
ん?前田君の匂い!
何?香水でもつけてるの?いい匂いなんですけど!。
はっ!私、臭ってない!臭い?!腐ってたらどうしよう。
私は、踏み台昇降しながら、顔面右往左往。
ダンダン、トントン、ダンダン、トントン・・・
ハア、ハア、ハア、ハア・・・
疲れた~。呼吸音が強くなる。
右隣りからも呼吸音が聞こえて来た。
ハア、ハア、ハア、ハア・・・
ハア、ハア、ハア、ハア・・・
呼吸音が重なる。
なんか、エロイ。
呼吸音が重ならないように、調節しようとするけど、失敗。
サザエさんの次回予告のように「んぐぁぐ」になってしまった。
絶対聞かれた、恥ずかしい。
いい匂いと、重なる呼吸音の3分間の踏み台昇降が終わった。
踏み台昇降の台の上に座り、ペアの人に脈を測ってもらう。
隣に座った前田君が近い。
踏み台昇降の台が小さいから、動くと肩がぶつかる。
動けない。汗をかいた私、湿った体にくっつかれるのは不快だろう。
私は身体が硬直したみたいに、微動だにしなかった。
そのうち、脈の測定も終了し、私のペアの女子と交代した。
ペアの女の子が踏み台昇降中。
隣に控えている前田君は、こちらを見ない。
体操座りして、ずっと下を向いている。耳は真っ赤だ。
私、臭い?
自分の匂いをさっりげなく嗅いだが、わからない。
ペアの女子の、脈測定も終わり、次の体力測定場所へ向かう時、
前田君と目が合った。
前田君は、私に向けて、片手を上げて去って行った。
私が隣だと、認識してたのか~嬉しい。挨拶すればよかった。
◇◇◇
俺には好きな子がいる。
隣のクラスの、咲。
身長が高く、胸は小胸。顔は可愛いと言うより清楚系の美人。
髪は長くて、いつも後ろに1つ結び。全体的にすらっとしている。
一見おとなしそうに見えるが、わりと天然。
感情が顔に出やすく、俺と目が合うと顔を真っ赤にする。
始めは、女友達の友達としか思ってなかったが、そんな態度を取られたら、意識しない男はいない。
挨拶するだけで、顔が赤くなり、口をもにょもにょしている咲をみると、面白くて、つい笑ってしまう。
クラスの友達が近くにいるから、恥ずかしくて挨拶以外の会話をした事はない。
体力測定
「だるいな。正直だるい」
「それな。でも、顧問うるさいから、仕方ない」
クラス単位で男女に別れて、測定場所を回っている。
本当は、体育館で反復横跳びの順番だったが、ふざける奴が出て時間が押してしまった。
急遽、踏み台昇降を先に測定する事になった。
あっ!咲だ。
踏み台昇降測定場所の保健室前廊下に行くと、咲が次の順番を待っている。
咲は身長が高い、このままいけば、咲の隣は、俺のクラスの男子だろう。
俺は、ペアの男友達を引き連れて、咲の隣を陣取った。
隣に立った俺に、咲は気付いたようだ。
ビックリ顔から、思案顔、口を開きかけ、閉じるを繰り返している。
俺は、その様子がおかしくて、髪を触りながらチラチラ見ていた。
「はい、始めるぞ。メトロノームリズムに合わせて昇降しろ。10秒カウントするぞ、11で足を動かせ」
「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10」
ダンダン、トントン、ダンダン、トントン・・・
咲に話しかけようとした時、踏み台昇降が始まってしまった。
メトロノームのリズムに合わせて、足を動かす。
俺より身長の低い咲。
チラッと横を見ると、真剣な表情で挑んでいる。
ダンダン、トントン、ダンダン、トントン・・・
なんか甘い香りがする。
左隣りの咲から、漂ってきている。
女の子の匂いだ。
俺は、足を動かしながら、意識は完全に咲へ。
ハア、ハア、ハア、ハア・・・
そのうち左隣から、荒い呼吸音が聞こえてきた
ドキドキ、ドキドキ
俺の呼吸も乱れてきた。ハア、ハア、ハア、ハア・・・
なんだか、エロイ。
「んぐぁぐ」
隣から、魚の骨が喉に詰まったような音が聞こえた。
咲を見ると、下を向いたまま、耳が真っ赤だ。
足を動かいし続けているから、体調不良ではないだろう。
好きな子の甘い匂いと、重なる呼吸音。全集中の3分間が終わった。
踏み台昇降の台の上に座り、ペアの人に脈を測ってもらう。
俺とペアの男友達は、俺を見てニヤニヤいている。
バチン
そいつの頭を叩いてやった。
踏み台昇降の台が小さいせいか、動くと咲と肩がぶつかった。
ぷにょん
柔らかい!!!
接触は一瞬だったが、左肩に意識が集中。
動けない。またぶつかりたいが、変態だと思われたら、死ぬ。
俺は身体が硬直したみたいに、微動だにしなかった。
そのうち、脈の測定も終了し、俺のペアの男友達と交代した。
ペアの男友達が踏み台昇降中。
俺は、顔が挙げれない。
体操座りして、ずっと下を向いている。
いい匂いが、下半身に来てる。
何度か、円周率を唱え、下半身を落ち着かせた。
ペアの脈測定も終わり、咲は、次の体力測定場所へ移動しようとしている。
幸せな時間が終わってしまった。残念に思いながら咲を見ていると、咲と目が合った。
俺が、咲に向けて片手を上げると、咲は、満面の笑みを返してくれた。
やっぱり可愛い。挨拶ぐらいすればよかった。
今後が気になる。シリーズ化したい。




