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6話:琥珀色の休息と、波及する愛(?)の触手

 ◆◆◇◇◆◆

 1. 聖域からの追放


「シュティア、一時間ほど船から出ていてください。生命維持システムの精密調整をします。一人で集中したいのです」


 レデアの淡々とした、けれど拒絶を許さない言葉に、シュティアは内側から崩れ落ちそうになった。


(お姉ちゃんに追い出された……。私、何かした? 昨日の寝顔の録画時間が長すぎた? それとも、クローゼットに隠しておいた『お姉ちゃん専用・シュティアセレクションお姉ちゃんKawaiiコーデ案』が見つかった?)


 脳内で負の連鎖が爆速で回転する。だが、シュティアは決して「嫌だ」とは言わない。


「……了解、お姉ちゃん。一時間だね。良い子で待ってるよ」


 なぜなら、レデアに「めっ」と眉をひそめられること。


 それこそが、シュティアにとって宇宙が崩壊するよりも恐ろしい絶望だからだ。


 トボトボとハッチを降り、ステーションのショッピングモールへと繰り出す。


「お姉ちゃんの匂いが足りない……。お姉ちゃんの二酸化炭素を吸いたい……」


 そんな不穏な独り言を漏らしながら歩く彼女の美貌は、すれ違う人々の目を嫌でも引くが、シュティアには一ミリの価値もなかった。


 ◆◆◇◇◆◆

 2. 招かれざる(?)邂逅


「あ、シュティアさん! 奇遇ですね!」

 弾けるような声に顔を上げると、そこには『ハル・メンテナンス』の一人娘、サティがいた。


「こんにちは、サティさん。本当に、奇遇ですね」


 シュティアは瞬時に「有能で安定した妹」の仮面を被る。


 内心では(お姉ちゃんの肩に触れた女……!)という澱のような独占欲が渦巻くはずだったが、今日に限っては少し様子が違った。


「今日、お店休みなんです! これから新しくできたハンバーガーショップに行こうと思ってたんですけど、良かったら一緒にどうですか?」


 サティの瞳には、シュティアに対する純粋な尊敬と興味がキラキラと輝いている。


 本来、シュティアにとって他者は「姉以外の背景」でしかない。


 だが、この眩しいまでの善意を前にして、なぜか毒気が抜けていくのを感じた。


「……ええ、喜んで」


 ◆◆◇◇◆◆

 3. ファーストフードと奇妙な萌芽


「ここのポテト、絶品なんですよ! あ、シュティアさん、口の横にソースついてますよ。あはは!」


 サティが屈託なく笑い、ナプキンを差し出す。

 シュティアはそれを静かに受け取りながら、不思議な感覚に陥っていた。


(おかしい。この子は、お姉ちゃんと仲良くしていた『敵』のはずなのに……)


 シュティアは愛する姉と再会するまでの間、

 そして今現在の「何でも屋」としての生活の中で、円滑に仕事を進めるための処世術を身につけてきた。


 相手を観察し、属性を把握し、最適解を出す。


 サティを「観察対象」として見つめれば見つめるほど、その素直な挙動が、なんだか小動物のように愛らしく見えてくる。


(世界で一番可愛いのは、宇宙の真理としてお姉ちゃん。それは動かない。

 ……けれど、サティさんのこの、ポニーテールがぴこぴこ動く感じ……。少しだけ、なでなでしてみたいかもしれない)


 姉への異常な執着が、変な方向にアンテナを伸ばし始めた瞬間だった。


「ねぇ、サティさん。今度二人きりの時に、頭を撫でさせてもらってもいいかな?」


「えっ!? あ、は、はい! 私で良ければ、いくらでも!」


 サティが顔を赤くして喜ぶ姿を見て、シュティアは満足げに目を細めた。


(お姉ちゃんは宇宙一……宇宙一……サティさんはそう、このステーション一かもしれないわ)


 その時、手元の端末が震えた。

 レデアからの『戻ってきていいですよ』という短いメッセージ。


「ごめんね、サティさん。お姉ちゃんが私を呼んでいるから」

 シュティアはサティに完璧な微笑みを残し、弾かれたように店を飛び出した。


 ◆◆◇◇◆◆

 4. むにむに、じっくり、逃がさない


 船に戻ると、共有スペースのソファでレデアがぐったりと横になっていた。

 薄い胸を上下させ、無防備に目を閉じている。


「お疲れ様、お姉ちゃん。だらしない姿で寝てるのも、宇宙一可愛いね」


 シュティアは吸い寄せられるように膝をつき、レデアの細い腕を「むにむに」と揉み始めた。


「……あー。気持ち良いです、シュティア。そこ、少し凝っていたかもしれません」


 レデアは目を閉じたまま、マッサージを受けているかのようにリラックスしている。



 シュティアの右手は姉の腕をむにむに、左手は柔らかな銀髪をゆっくりと愛でる。


「お姉ちゃん、疲れが溜まってるんだね。よし、決めたよ。

 これから二時間、じっくりたっぷり、隅々までマッサージしてあげるね」


 シュティアの瞳に、再び「甘い熱」が灯る。


「……二時間は、ちょっと長すぎますよ、シュティア……」


 レデアの微かな抗議を、シュティアは至福の笑みで塗りつぶした。


 二時間。

 それは、サティに向けられた「浮気な好奇心」をすべて、本命の姉へと注ぎ直し、その匂いと感触を骨の髄まで上書きするために必要な、最低限の時間だった。


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