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カップ麺の恋人

掲載日:2025/12/27

「カップ麺、落としましたよ。」


 夏の盛りも懐かしく思い出深く思われる秋の初め。

 何もなかった夏に思いを馳せている今日この頃であった。


 会社の残務が終わった帰りの、コンビニエンスストアで「たかお」は声をかけた。

 会社の残務の毎日であった。

 今期の会社の目標である営業成績3期連続1位の達成を目掛けて、努力や試行錯誤の毎日。

 企画資料をまとめ上げて、課長に提出したり、新たな事業計画を提案する資料をプレゼンテーションソフトで練り上げる毎日であった。


「たかお」の香り高いシャンプーの芳香は、ことさら気品高い感覚にさせていた。


 そんなある日のコンビニエンスストアでの出来事だった。

 平凡な毎日であってほしい、そう願う「たかお」であった。

 将来的な願望も、冒険的な人生は歩みたくない。ただ一筋の真面目な社会人であり続けたい「たかお」であった。


 帰り道の途中にあるコンビニエンスストアであるが、いつも気まぐれで店内に入る時があった。

 今日は遅いから、サンドイッチでも買って帰ろう、そう思っていた。


 いつも通りフレッシュサンドイッチのある棚から、お気に入りの商品を探し出していたのだった。


 他にも、できたて海老カツサンドイッチ、フレッシュレタスと生ハムフレンチドレッシング風サンドイッチ、生クリーム高原いちごたっぷりサンドイッチ、あつあつローストんかつサンドイッチ、フレッシュ野菜いろどりサンドイッチ、が並んでいた。

「たかお」は、生クリーム高原いちごたっぷりサンドイッチとロイヤルミルクティーを選んだ。


 食品の陳列棚の右隣には、程よい間隔で、書籍のブースが並んでいた。


 左隣には、カップ麺類やお菓子類の並んだ棚があり、期間限定のセール中に、「この棚から3つ以上購入すると、今流行りのアイドルグループのコンサートチケットが抽選で当たる」という特典付きのキャンペーン中の広告が大きく目立っていた。


 そのチケットで応募すると、後で当選発表があり、1組ペアチケットが無料で送られてくるのだった。


 かなり若い、秋のコート姿の女性はゆっくりと棚から商品を選んでいた。

 たくさんの種類のカップ麺の中からお気に入りのカラーやデザイン、キャラクターを選んで、すでに彼女の両腕に山積みになっていた。


「カップ麺、落としましたよ。」


「たかお」は落ちたカップ麺を手に取り、その彼女に手渡したのであった。

 彼女はカップ麺を両腕で6個ほど持とうとしてその1つを落としてしまったようである。


「たかお」にはすぐにわかった、


「アイドルチケット」か。


 彼女は、にこにこと朗らかな笑顔で「たかお」を見ていた。


 とても個性の強い声で彼女は答えていた。


「どうも、ありがとう。」

「たかお」には彼女の風貌や服装が、原色の淡いカラーが明るさを際立たせていて、彼女の個性と存在がはっきりとわかっていた。


 コンビニエンスストアでの普段と違うハプニングに「たかお」は、何かを予感し始めていた。

 今日の運勢は、良いようで、天気は今日一日快晴であり、会社でもいつも通り、業務日程を終えていた。

 なぜかしらこのハプニングは何かよい予感がすると、しとやかに思われた。


 気になることがあるとすれば、それは「たかお」には、今は彼女がいないことであった。


 カップ麺を6個レジで精算して、応募チケットを2枚受け取った彼女は、そのうちの1枚を、「たかお」にプレゼントした。


「どうも、ありがとう。ご褒美に応募チケットをプレゼントするわ。」


「チケットの裏に私のメッセージを書いておいたから後で、ご覧になって。」


「たかお」は快くチケットを受け取った。


 コンビニエンスストアを後にした「たかお」は、程して帰宅した。


 着替えを済ませ、夕食の身支度を整えて、ほっと一息ついていた。


 冷凍食品の中から酢豚と冷奴が夕食のメインであった。


 コンビニで購入した、サンドイッチは、食後のデザートにしてみた。


 そういえばと、今日のチケットを思い出した。


 裏には、彼女のメールアドレスらしい文字とお礼のメッセージがあった。


 メッセージにはこうあった。


「人気アイドルのコンサート楽しみなの。私が当選したらあなたに連絡するわ、一緒に見にいきましょうよ。」

「あなたも、当選したら私に連絡してね。」


 さっそく、「たかお」は、彼女宛のメールアドレスを入力して、メッセージを送った。


「今日はありがとうございます。」

「私のメールアドレスは、○✖️▲◆□」です。


 1時間ほど後に彼女から返信があった。


 メールの表題は、「今日はありがとう。自己紹介します。」


 彼女は「かおり」さんという普通のOLだった。

 彼女も彼氏がいなくて、偶然にコンビニエンスストアで今日の出来事があったのだ。


 3分でできあがる恋愛なんてどこにもあり得ないことだと思っていた「たかお」であるが、それは、アイドルチケットの運命に託されることになった。


 前提条件は揃っていた。「たかお」と「かおり」の双方は付き合っている彼・彼女がいないこと、それぞれがアイドルチケットを持っていること、双方の付き合うという意思があっていることが揃っているのであった。


 あと1つの条件、アイドルチケットの当選----が揃えば、2人の運命は変わる。


 コンステラーアイドルたちの笑顔は、社会を明るくしているようで、コンビニエンスストアの中まで、明るさに満ち溢れていた。

 カップ麺のデザインにあしらわれた明るいカラフルなイラストやロゴは現代の日本を象徴するドリーミーさを表していた。


 カップ麺のチケットは「たかお」と「かおり」をドリーミーな世界へと案内する運命的な招待状なようなものであった。


「カップ麺、落としましたよ。」


 あの時の、彼女の笑顔が今でも忘れられなかった。

 写真のフレームに入った写真集のような鮮やかなその瞬間が、彼の記憶に保存され続け、いつまでも劣化しないデジタルの記憶として、いつでも彼の記憶から引き出すことができた。


 程なくして彼女からメールが届いた。


「今回のアイドルチケットのキャンペーン運営事務局に問い合わせた。

 応募期限は11月末日、当選発表は12月15日専用サイトで公表して送付先にチケット送付、アイドルコンサートの開催日は12月24日午前か午後いずれか選択可能。

 当選チケット1枚につき2名まで入場可能。開催会場は○○□スタジアム、天候に関わりなく開催、その他詳細は特設サイトで発表予定」


「たかお」は特設サイトをスマートフォンで開いていた。

 出演アイドルは最近流行の、どこでも会えるアイドル、ネットや学校や会社でも普通にいる、普通の友達のようなかわいいドレスアップされた、アイドルたちだった。

 コスチュームは、一人一人異なっていて、キャラクターが決まっていた。


 コスチュームの色を並べ替えると、虹の7原色に相当するのだった。

 7原色とはいえ厳密な7色というわけではなく、7色の間の色がグラデーションで補完された、さらに深みを持った虹色が完成するのだった。

 7色かける7パターンの49名のコンステラーアイドルユニットだった。

 7色のそれぞれに7つのグラデーションがあり、色彩に繊細さが窺えた。


 コスチュームはファンが決めることができて、一定期間が過ぎると、コスチュームが変わることになっていた。


 お気に入りのアイドルが自分の好きなコスチュームを装うことで、さらに興味が深まり、人気投票でどのコスチュームのアイドルが何位になるのかは、ファンにとって重大な関心事であった。


 今回のキャンペーン専用サイトでも、出演する際のコスチュームを募集する枠があった。

「たかお」は殊更その記事に興味を持ち始めた。


 かなりの種類の決まったコスチュームから、ファンが毎回、投票や流行で決めることができた。


「たかお」もその仕組みに関心が高くなり、コンステラーアイドルたちのファンになりそうであった。


「たかお」はそのコスチュームの中から、猫のキャラクターに扮したコスチュームと、文学少女風のノベルキャラクターのコスチュームともう一つ、コンビニエンスストアで出会った、彼女の服装にそっくりな、流行のコスチュームを選んで投票した。


 スマートフォンの専用サイトに夢中になっていると、「かおり」からメールのメッセージが届いていた。


「アイドルのコスチューム選んだかしら?」

「私は、讃岐うどんがとても好きなので、カップ麺でよく知っているコスチュームにしたわ。」

「キャンペーンでなくても、このカップ麺のファンなの。」

「このコスチュームが投票上位になると嬉しいなぁ。」

「たかおは、どんなコスチュームが好みかしら?」


 たかおは返信メールに次のようにタイピングした。


「僕は、小説を読むのが好きなので、文学ノベル風キャラクターにしました。」

「当日のチケットが当選するか、楽しみです。」


 チケットの抽選に当選すると、メールアドレスに当選メールが来ることになっていた。


 勤務先の残務をこなす毎日が過ぎてこと3週間ほど、秋の落ち葉はすっかり消え果て、気づいたら、12月初旬になっていた。


 粉雪が舞い落ちる日が多くなり、デパートや店内でジングルベルのテーマ曲を使った、セールやキャンペーンの広告が目立つようになっていた。


 テレビやラジオなどでは、ジングルベルの音楽にナレーションを挿入したお馴染みの広告、ビジュアル効果を狙って若者に強く印象付けるファッショナブルな広告、最新流行歌を用いた斬新なクリスマス向けの明るいキャンペーンソングなど、クリスマスや年末を彩るセールやキャンペーンが繰り広げられたいた。


 そんな中、たかおは気づいたことがあった。


「ニューカップ麺のアイドル誕生。夢のドリーミーアイドルはこのカップ麺から。」

「ニューアイドルのコンサートチケット当選発表。当選者は専用サイトで発表中。」


 多くのお知らせの中から、このアナウンスが際立って聴こえた。


 たかおは「あっそうか。そういえばそうだった。」


 スマートフォンのメールの表題を見ると、「当選おめでとうございます。アイドルコンサートペアチケット当選です。詳細は専用サイトをご覧になってください。---広告--- ニューカップ麺のアイドル誕生。夢のドリームアイドルはこのカップ麺から。」


 夕食を終えた、たかおは、なんともいえない心境に駆られていた。

 コンサート開催日は久々のホワイトクリスマスになるのかと、サンタクロースからの、プレゼントに喜びをどう表現しようかと、若いエネルギーを昇華させるべく、思いを馳せ巡らせていた。


 その行先は、彼女以外に考えられないのだった。

「ピピピピピピっ、ピピピピピピっ........」


 たかおの携帯電話の着信音が感高く鳴り響いていた。


 たかお「はいっ!」


 かおる「おめでとうーっ。」

「専用サイト見たわー。」


 たかお「ああっ。そうなんだ。」


 かおる「私も一緒に行っていい?」


 たかお「もちろん。」


 かおる「ありがとう。うれしいわ〜。」


「あのコンビニのことまだ覚えてる?」


 たかお「もちろんさ。」「こちらこそありがとう。」


 たかおは少し(ほとぼ)りが覚めたように思えた。


 彼には、鮮明なままのあの日の彼女のイメージがデジタルなままで、記憶の引き出しから思い出されていた。


 記憶からは少し先鋭化した脚色がされて思い出されるようだった。


 白い粉雪が舞い散る光景に、クリスタルの氷の光線が走るような、透き通った記憶として鮮やかにあの日の記憶が蘇るのだった。


 かおり「カップ麺が1年分当選したから、たかおさんにも送るね。」


「24日は午後がいいわ。」

「コンサート観覧が終わったら、たかおさんのところへ行っていい?」


 たかお「もちろんいいよ。」

 かおり「その時に、カップ麺も持っていくね。これもチケットだから。」

 たかお「ありがとう。楽しみにしてるよ。」


 かおり「わぁ〜、よかったわ〜。」


 3分で出来上がる恋愛など存在しないと思っていた、「たかお」だったが、こんなこともあるんだなと、カップ麺のアイドルに感謝すべく、これからも愛の天使に導かれることを願いつつ、これからも平凡な社会人として過ごそうと思う、今日この頃であった。

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