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私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい! ~魔王も魔物もいない、魔法もスキルもステータスもない異世界を、ぼっちが1人でビルドアップ~  作者: 大恵


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9/22

古城は居城となってしまった!

 ダイタムは吸血鬼、ヴァンパイアを知らなかった。

 もちろん娘のクライロウネも知らない。


「ええっと、吸血鬼というのは、そのなんていうか、すみません」


 どこから説明したらいいのか。

 吸血鬼は話題としてあまりにコンセンサスが取れすぎていて、あえて説明したことがない那蠍(なこち)は戸惑った。


「こういうことを説明したことがなくて……すみません。あ、何かを説明すること自体があまりなかった。すみません。……人を話すことも、す、すみません」


「無理をなさらずに。ゆっくりとでよろしいので、ひとまずお座りください」


 那蠍(なこち)は|謝ってばかりなので、ダイタムは気を使い始めた。


「うう……きゅ、吸血鬼になちゃったのに、いい人すぎる。こんないい人を吸血鬼にする人は、なんてやつなんだ……私だ。私はなんてことを……す、すみません」


 自分がやったことも忘れて、ダイタムの気遣いに恐縮する。 

 お茶を一口飲んで落ち着くと、那蠍(なこち)はどういうことかと首を傾げたが、すぐに思い至る。


 現在、サブカル界隈で有名な吸血鬼であるが、ちょっと遡ればまったく別のものだ。

 実在人物をモデルのしたり、創作としてブラムストーカーあたりから現在まで、何人もの作家が相互にインスパイアとオマージュを繰り返し、いくつもの伝承を組み合わせて生まれた存在だ。

 しかも、その伝承ですら、いくつかの民話や噂や風習からの勘違いを取りまとめたもので、吸血鬼の厳密な元ネタは判然としないと言ってよい。

 現代では漫画やアニメでさまざまな吸血鬼が描かれ、原型が皆無である作品すらある。


 加えて、異世界(あちら)では風習が違う。

 棺桶の中で動いた気配のある遺体とか、別の解釈がされているかもしれないので、首元に鎌を置くという風習があるかどうかも怪しい。

 日光過敏症がない可能性も。

 さらに吸血鬼の元ネタとされる狂犬病が存在しないか、症状が全く違うなどそんなことも考えられた。


 那蠍(なこち)はそこまで説明するのではなく、サブカルチャーとして自分がイメージしやすい事実だけを伝えることにした。

 この事実は、呪いによりメリットとなる効果とデメリットについてだ。


「まず、死んだという事実。これは受け止めて」

「わかりました」


 ダイタムは娘の肩を抱き寄せ、現実を受け入れようと努力してくれた。

 

「そして今のあなたたちは、アンデッドと呼ばれる生きる屍」

「はい。そのような伝承はあります。私たちはそうなったのですね?」


 ダイタムの顔が痛々しい表情になり、娘は不安そうに縋り付く。

 アンデッドという言葉がしっかり通じた様子はないが、トランスレートされて彼らに理解できる言葉として伝わったようだ。


「良い点も悪い点もある。まず通常の怪我や病気じゃ死なない。むしろちょっとしたことじゃ怪我もしない、病気もしない。老いもしない」


 ならば良いのでは。と一瞬思った歳を取らないということは、娘は?

 慌てたダイタムは、娘の顔を見てなんとも苦しそうな表情を見せた。娘はわかっているのかおらずか、父親を見上げて「大丈夫」と微笑む。


「娘さんは、その、あの、ずっとその姿。その点はごめんね。ウェヒヒヒ」


 なぜそこで笑うのか。感覚が理解できないダイタムは、娘を抱き寄せた。

 

「それから常人じゃ振るえないような力がある。人間が何人襲ってきても片腕一つで吹っ飛ばしちゃうよ」


「そうなの? ダディ、わたしすごい!」


 力があると説明を受けて、無邪気に喜ぶ娘が痛々しい。


「頑張ればいずれ、肉体を霧にさせたり、蝙蝠に変身したりできる。たぶん……」

「たぶん、ですか」


 ダイタムは娘の様子を見た。

 クライロウネはピンとこないのか、今度は喜ぶ姿は見せなかった。 


 那蠍(なこち)は確証を得られないので、はっきりと断言はできなかった。

 少なくても那蠍(なこち)が知る限り、こちらの吸血鬼は《《そんなことはできなかった》》。


「それに魔法も使えるようになるかも?」

「魔法ですか」


 ダイタムはイマイチぴんと来ない様子だ。

 科学が未発達とはいえ、彼は医師なのでそのような物への理解が乏しい様子だ。

 技術が未発達であるため信じている常識や学問、技術が間違いだったりするが、それでも魔法という概念を信じているわけではない。


 この時、那蠍(なこち)はこの親子に「魔法開発」のアウトソーシングを振るつもりである。

 転んでもただでは起きないというか、人の心あるんかというか、合理的というか、もう少し手心を……と言うべきか。


「あともしも肉体が破壊されても復活する。基本、死なない」


「っ! それは!」


 ダイタムの驚きは、喜びによるものではない。

 医師であるダイタムにとって、命は定量である考えがある。

 不老と合わせ、定量のない存在は、はたして許される者なのか。


「やった、ダッド! ずっと一緒だよ!」

「ああ、そうだな」


 娘が無邪気に喜び、笑顔を向けてくる。

 戸惑う顔を見せるわけにいかず、ダイタムは笑顔で答えた。


「もちろん、良い事ばかりではありません」


 喜ぶクライロウネに水を差すように、那蠍(なこち)が語気を強めて言う。


「まず。もう二度と日中を歩くことはかなわないでしょう。日の光に当たれば、皮膚は焼けただれ、やがて灰になります」


 この説明を聞いて、やっとダイタムの顔に焦燥が浮かんだ。

 ああ、人間ではなくなったのだな……。

 そう納得した顔だった。


「そうか……」

「ダッド……夜更かし、していいの?」


 クライロウネは子供らしい心配をしている。

 夜更かししかできない体になったので、その辺を納得させ、今までの教育とどう擦り合わせていくのか。

 父親としての課題である。


「それから、聖別された水でやけどを負うようになります」

「ふむ」

「それと流れる水を渡れません」

「はい」

「あと食事は人間の血となります。招かれないと他人の家に入れませんし、宗教的施設に入ることもまずできません。宗教のシンボルに触れてもやけどをしますし、ニンニクなどの一部の植物が苦手になり、入りマメを投げられて当たるとやけどしますし、種粒を見ると数え始めたり集めたり、縛った縄を見ると解かずにはいられなくなる衝動にかられ、それにそれにえっと……」


 デメリットの説明が終わらないので、ダイタムは慌て始めた。


「ちょ、ちょっとあの、ナコチ様」


「……なに?」


 せっかく饒舌にしゃべれてたのに……。

 那蠍(なこち)は普段苦手だった会話が、一方的な説明であればできるとわかって上機嫌だった。それを止められ、少しだけ不満になる。


「申し訳ありません。あの、不都合な点、その悪い事、というか弱点が多すぎませんか?」


「ウェヒヒヒ、そ、そうですね」


「そうですねって……」


「吸血鬼とはそういうものです、ウェヒヒヒ。あとで紙に書きだしておきます。多すぎるので」


「ま、まだあるのですか……いえ。考えてみれば、不死の代償と考えれば、そのくらい当然かもしれませんね」


「言われてみれば、そうですね」


 ダイタムの物わかりの良い納得の発言に、那蠍(なこち)が気付かされたという反応を見せる。

 お前がやったことだろう。と、この場に突っ込む人はいなかった。


 その他、こまごまとした説明をし、ダイタムは一応、吸血鬼という存在を理解した。

 食事は人間の血、というのは抵抗があったが、あくまで力の維持のために必要だと聞き安堵した。

 普通の食事もとれるので、ダイタムは娘のことは心配ないなと胸をなでおろす。


「では、ひとまず新しい住まいへご案内します」

「なにからなにまで、お世話になりまして申し訳ありません」


「ウェヒヒヒ……。いいですよ。いわば確保した場所の管理人を任せる意味もあるので」


 那蠍(なこち)は鏡の前に立ち、ダンジョンコアを配置した古城への転移門を繋ぐ。

 場所を譲り、鏡の中へ入るように促す。

 

「どうぞ」


 ダイタムは娘と手を取り合い、鏡の前にたち、何かに気が付く。


「ああ、鏡に姿が映らないのですね……私たちは」

「え? ああ、はい」


(そういえばそんなデメリットもあったなぁ)


 那蠍(なこち)も吸血鬼の弱点や特徴を把握しきれていない。


 鏡は転移門であり、あちらの世界を映す画面であって、鏡ではない。なので那蠍(なこち)も映っていなかったのだが、彼女が神秘的な存在だからと捉えているようだ。


 那蠍(なこち)に導かれ、ダイタム親子は恐々(こわごわ)と鏡をくぐった。


 そこは森に飲み込まれかけた古城だった。

 城はちょっとした丘一つを飲み込むような大きさだ。

 それが半分ほど森の木々に呑まれている。


 ダイタム親子と那蠍(なこち)が姿を現した場所は、この古城の楼閣の一つで見晴らしがよい。

 だがどこまでも黒い森が続き、目印となるものがこの丘と城しかないという辺鄙な場所だった。

 

「ナコチ様、ここは……」


「あなたがいた国から西に……メートル単位って通じるの? たとえば1キロメートルと言われてピンとくる?」

「はあ、ぼんやりと。半区ですな」

「私も分かる。……な、なるほど。ダイタムの国では、区が2キロメートルなんですね」


 これにより那蠍(なこち)は翻訳が度量衡もトランスレートしてくれていると確認できた。


「現地の人と会話をしていかないと、翻訳の機能性が把握できない……ウェヒヒヒ。つらい……」


 会話をこなさないと、万能翻訳能力の冗長性と問題点が見えてこない。

 これは那蠍(なこち)には辛い仕様である。


「と、とにかく。あなたのいた国から西に、3000キロメートルほど離れた場所です」

「ふむ。キテルピーナとキテリオルを越えてさらに西になりますね」


「……」


 この世界の地理をすべて理解しきっていない那蠍(なこち)は、黙ってうなずく。

 

「近くに町はありますか?」


「東にあるけど名前を知らない町が。3000人くらい住んでるかな? それから言葉が通じるか、気にしなくても平気です。あの鏡を越えた時点で、ほぼすべての言語は理解できて、口に出せば相手に通じるようになります」


「ダッド! 町、町に行ってみよう!」

 

 不思議な力にはもうダイタムは驚かない。

 クライロウネはさっそく行ってみたいと言い出すが、まずダイタムは確認しなくてはいけない。


「……ほぼすべての言語?」

「ええ。個人の独自言語……つまり、自分勝手な自分だけの言葉は無理……」


「ああ、狂人の類いですね」


 ダイタムがさらりと納得して、対象である条件を口に出す。

 態度も冷たく、そのような人を心のそこからバカにしている態度だった。


 那蠍(なこち)はまだ現代日本人としての感覚があり、やむ得ぬ病気や心的ストレス、外的要因でそうなった人たちだという考えがある。だから距離は置きたいと思いながらも、狂人とひとまとめで切って捨て、唾棄する相手だという態度は取れない。

 だが、ダイタムは違うようだ。 


(ダイタムさんみたいな立派な人でも、それなりにこういうところがあるんだな)


 安心すると同時に、倫理観やタブーの違い、理解度の扱いに苦労するな。そう那蠍(なこち)は覚悟にも似た認識を得た。


「ひ、ひとまず日用品は用意しておいた」


 那蠍(なこち)は崩れていない古城内部へ案内し、そこにあるいくつか無事な部屋を案内した。


 那蠍(なこち)が普段利用しない両親の遺産であるタワーマンションの自宅に、転移門を開いた理由の《《一つ》》がこれだ。

 誰も住んでおらず、もう使わない家具が残っていたので、処分を兼ねてこちらへと移動させておいた。


「見て、すごい! ダッド! ベッド、ふかふか!」


 クライロウネは部屋に入るなり、那蠍(なこち)が3年前まで使っていたベッドに飛び乗り、ぽんぽんと跳ねて遊び出す。


「ああ、すごいね」

「ベッド、お姫様のみたい! ここ使っていいの? ナコチ様!」


「ええ。私のおさがりですが」

「やったーっ!」

 

 一際高く跳び、空中で横になってバスンッ! とベッドの上に着地し、そのまま仰向けでシーツをかぶる。


「ウェヒヒヒ、か、可愛い…………。あ、ダイタムさんの部屋は隣です。まだいろいろ入りようなものがあるかと思いますが、少しづつ用意しますね」


「なにからなにまですみません」


「いえ、お気になさらず。これからはお仕事を手伝ってもらいますので」

「かしこまりました」


 娘のためにも、そしてせっかくの力をいただいたのに、有用できなかった負目からか。

 ダイタムは素直に、そして礼儀正しく那蠍(なこち)に臣下の礼を取る。


「旦那様! ご無事で!」


 突然、廊下から一体の骸骨が、飛び込んできてダイタムの前でひざまづく。

 骸骨は服こそ着てるが、その中も骨であるため、妙に小さく薄っぺらな体型に見える。骨なのだから当然だが。


「わ、なんだ!」

「きゃあ、ダッド(お父様)!」


 ダイタムは引き下がり、ベッドの上でシーツを抱き寄せて驚くクライロウネを庇い立つ。

 骸骨は怯える親子に、つとめて必死に訴える。


「私です! カルハントです!」

「なに! カルハン? おまえなのか!」


 ダイタムは娘を庇ったまま、骸骨の様子を見る。

 よく骸骨の額を見れば、そこには大きな刀疵があった。

 

「そういえば…………その額の傷は、まさか!」

「そうです! 旦那様に治療していただいた傷です! 遠征のおり、旦那様がこの傷を治療し、お救いしたあのカルハントです!」


「そうだったのか!」


「カール? カールなの?」


「私が助けました」


 奇妙な再会に戸惑う中、ちょっと蚊帳の外だった那蠍(なこち)が遠慮がちにフェードインしてくる。


「い、いや……助けたというのかな? えっと、カール半年ぶり食べたさんでしたか?」


「カルハントです」


「そう、カルハントさん。こんな姿にしちゃったから、助けたとはいえないけど」


 那蠍(なこち)は申し訳ないと頭を下げた。


「そのようなことはございません! ありがとうございます! こうして永遠に旦那様にお従えする体をにしていただき、感謝の言葉もありません!」


 熱狂する骸骨カルハント。

 死んで、骸骨にされ、永劫に働き続ける運命となったのに感謝するカルハントの姿を見て、さすがの那蠍(なこち)も戸惑いがちだ。


「あの、那蠍(なこち)様。カルハンは、どうしてこうなってこのような姿に?」


 ダイタムが説明を求めてきた。


「ウェヒヒヒ。そのカルハントさん。娘さんを守るため、地下室に隠したあと、一人で暴徒を引きつけていたんです。おじいちゃんなのにすごいですね」


「カールは40歳だよ」


「ウェヒヒヒ。西欧人っぽい人で、過酷な生活してる人の年齢わかりにくい。す、すみません」

 

 クライロウネからの訂正が入り、那蠍(なこち)は羞恥でくねくねとし始めた。


「娘がすみません、ナコチ様」


「いい。年齢は大切。……それでカルハントさんは焼け死んじゃって、流石にほとんど炭化してたから、肉体のほとんどが使えませんの……。仕方なく、こうしてスケルトンとして復活してもらいました」


「そうだったのですか。スケルトン? ですか」


 那蠍(なこち)はスケルトンについても説明しなくてはいけないのかと困った。

 その件については、まずカルハント本人に説明しようと後に回す。


「クライロウネちゃんは、地下室で酸欠で亡くなりました」

「地下室で、酸欠ですか」


 医師であり、多少は科学の知識があるダイタムは首を捻った。


「あ、お気づきですか? 詳しいですね。二酸化炭素は重いから普段は下にたまりますが、密閉空間で火事の場合、二酸化炭素は上から溜まります。燃えて発生した二酸化炭素は加熱されてるので、もともとあった空気より熱いから上昇して溜まるわけです。


「ではなぜ、娘は酸欠で?」


「あの地下室、もともと酸素少なかった。そして酸素が足りなかったし、子供で背の低いクライロウネちゃんは床に近い。そこで隠れるように身を低くして箱の中に入ったりしたら……」


「……なるほど、わかりました」


「ウェヒヒヒ……。でも、一酸化炭素中毒……は知らないですかね。それとは違って、眠るように気を失ったはずですから、強烈な眠気くらいしか感じていないはずです」


 那蠍(なこち)は慰めにはならないが、クライロウネが苦しまなかっただろうということを伝えて置いた。


「煙で苦しかったよ」


 気遣いをぶち壊すクライロウネ。


「す、すいません」

「申し訳ない」


 那蠍(なこち)とダイタムが互いに謝り合った。分からないのはクライロウネだけだ。

 続けて那蠍(なこち)は、吸血鬼にとって一番大切とも言えることの説明を始める。 


「あと地下にある本棚は棺桶として利用してください。あとで故郷の土を持ってくるので」


「棺桶?」


 ダイタムは首をひねった?

 クライロウネも、カルハントも、なんのことかという顔をしている。

 彼らは異世界人。

 吸血鬼が棺桶で寝ることや、そこで復活する条件など知らなくて当然である。


「あ、これも説明してませんでしたね。ほ、本当に要素もりもりで面倒くさいな吸血鬼」


 吸血鬼をゼロから作って、1も知らない人に伝えるのは大変だと那蠍(なこち)は思い至った。


「なんで吸血鬼にしちゃったんだろ……私」


「ナコチ様がそれをおっしゃいますか……」


カール半年以上食べてない…

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