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私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい! ~魔王も魔物もいない、魔法もスキルもステータスもない異世界を、ぼっちが1人でビルドアップ~  作者: 大恵


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8/22

親子は呪われてしまった!

「殺せ! 悪魔の娘も殺すんだっ!」


 医師ダイタムは、自分にトドメの鉈を振り下ろした若者の背を見送りながら、力なく手を伸ばした。

 彼に先導された街の人々が、娘がいる館へと雪崩れ込んでいく。

 急速に体温が地面に奪われていき、意識が遠くなる中、ダイタムはどうしてこうなったのか……よりも娘の心配だけをしていた。


「む、娘だけは……」


 それがハリハ・フイフラムト国の病魔に立ち向かった医師ダイタムの最後の言葉と──。


 ならなかった。 


 次の瞬間、目を覚ますとダイタムは光の中で倒れ伏していた。

 涼しい空気に満ち溢れ、どこか静かで、それでいて遠くから喧騒が聞こえてくる。


 どこかいい匂いがしてくる……。

 ゆっくり、目を開く。

 悲惨な光景が飛び込んでくるかと思ったが、そこか殺風景だがとても清潔な落ち着いた部屋だった。

 痛みもなく、身体が動くので……ゆっくりと身を起こす。

 とたん、誰かが飛びついてきた!


ダッド(お父さん)!」


「クライロウネ! 無事だったのか?」


 最愛の娘、クライロウネだった。

 病気の予後でまだ痩せて歩けないはずだったが、どうしてこんなにも元気なのか?

 娘はどうして無事なのか?

 暴徒から逃げ出せたのか?


 いや、あの暴徒は夢だったのか?


 冷たい。

 最愛の娘の身体が冷たい。

 嫌な、最悪な発想がダイタムを襲う。

 

 それとも、ここは……死の世界?

 

「ウェヒヒヒ……。すいません、ダイタムさん」


 死がそこにいた。

 甘美な、それでいて退廃的な存在が、部屋の隅にいた。

 なぜ、そんな隅?


 だが、そんな細かい事はダイタムにはどうでもよかった。

 数々の打撃を受ける感触、刺されて血も温も魂も流れてる出る喪失感、そして館を包む業火……。

 まちがいない。


「やはりここは死の世界でしたか。私は仕方ないですが、10になったばかりのクライロウネには、こんな……」


「いえ、死んでませんよ、す、すいません」


 娘の頭を撫でながら、感慨深く呟くダイタムに、冷や水をかけるような甘美な死の少女からの回答


「え? どういうことで?」


「あ、いえ。死んでますね、すいません」


「ど、ど、どっちなんだ?」


 どうにも調子が狂う。

 ダイタムはこの少女には慣れないな、と思うと同時に、慣れてはいけないと理性がどこからか囁いてくる。


「あの、そ、それを……ウェヒヒヒ。その、説明する前に」

「な、なんだろうか?」


 甘美な死の少女は視線を合わせてこない。

 目線を合わせると、人を殺してしまうのだろうか? 

 そんな妄想がダイタムの脳裏に浮かぶ。


「……あの、その、説明する前に、いえ、すみません。説明してくれませんか?」


「なにを?」


 か、会話が、会話が進まない!


 ダイタムは自分と娘に起こったことよりも、少女との会話に困惑するしかなかった。


 + + + + + + + + +


「ウェヒヒヒ……。まさ、か、まさか、そんな……」


 那蠍(なこち)は、ダイタムから事の経緯を聞き、愕然とするしかなかった。


 鏡に残っていたログと、ダイタムの話をまとめ、彼が私刑にあった理由は、かいつまむとこうだ。


・毒性のある生薬を利用した薬を調合。それをもって寄生虫と併発した尿毒症症状の改善。

・金に目がくらんだ弟子から製法が漏れる。

・さらに漏れ出た半端な製法から、原材料である毒性が高い薬草をそのまま煎じて飲む人が出た。

・むろん毒なので死亡。

・ここで拗れて、「ダイタムという医者は、毒を病人に飲ませている」という噂が立つ。

・漏らした張本人の弟子が保身に走り、「そうなんです! あいつが悪いんです」ムーブを行う。

・扇動する者が出てくる。手前勝手調合薬の犠牲者遺族が武器を持って襲撃。

・医者だから金持ってるだろうと、略奪しようとする者も混じる。

・なんだかわからないけど、悪い奴がいるならと合流する大衆

・お祭り気分で、襲撃に参加するものも合流。

・大惨事。


「い、異世界の民度……いや、知性と品性と大衆性と……ええい、とにかく全部、見誤ってた」


 那蠍(なこち)は異世界を甘く見ていた。舐めていた。

 同時に高く評価していた。


 よく「転移転生するなろう作品」への批判で、異世界の住人が頭悪いという意見がある。

 そのくらいのアイデアが出てこないなどおかしいだとか、主人公のつたないアイデアを大絶賛するなどだ。

 たしかにそういう風になっている作品もあるだろう。

 だが、それは現代日本人だから言い出す意見である。


 技術チート系で多いが、主人公がアイデアを説明したり、発明品現物を見て説明され、それを理解できるだけでそれは異常に知性が高いのだ。

 現代人でも初めて見る機構や、アイデア商品を見て、説明されたからと一回で理解できる人たちばかりではない。

 技術チートで作ってくれと無茶ぶりをされて、苦労したけど完成しましたなどという展開だって、ご都合かもしれないが優秀である証拠でもある。


 さらに新しいものを受け入れる柔軟性、それが役立つと気が付く理解力と先見性、拒絶しない順応力に、間違った悪用をしない的確性。

 どれをとっても、これらが出来ている異世界人は、下手なリアル世界の大衆よりも優秀なのだ。

 まあ、そうでないと話にならないからというのもあるが……。


 そして、那蠍(なこち)が今回が手を加えている世界では、それらすべてが皆無だったと言ってよい。

 さらに道徳や倫理観が低いにとどまらず、人間性の欠如までも露呈した。


 素晴らしかったのは扇動だけだ。

 素晴らしくてはいけないことだ、これ。


「ナコチ様より、あのような素晴らしいお力を頂いたにもかかわらず、このようなことになってしまい、まことに恥ずかしい限りです」


 驚愕している那蠍(なこち)に、ダイタムは深くお詫びの言葉を告げた。

 ダイタムはどうしこんなにも殊勝な態度になっているのか。


 それは那蠍(なこち)の力を垣間見たから……だけではない。


 実は現在、那蠍(なこち)たちは、麻布十番の築30年のマンション4階の自宅ではなく、()()()()()()()()()()にいるからだ。

 ここは東京でも指折りのタワーマンションのほぼ最上階。

 カーテンを開けると、大都会の摩天楼。

 地上300メートルからの光景と、どこまでも続く人の営みを示す灯りを見て、ダイタムとその娘クライロウネは、ここが天上の世界だと思い込んでしまった。


 しかも那蠍(なこち)は自己紹介のおりに──。


『い、一応、この世界で虫の女神って言われてて……そちらの世界の管理とか、頼まれて……あの、やってます。すいません』


 などと言ってしまった。


 天上の世界で虫の女神であり、下界を管理する命を受けた。

 ダイタムはそう解釈した。

 というより、そう受け取るほかにない。

 そしてそれはあながち間違っていないので、彼が敬意をはらうこともまた間違いではない。

 

「あ、謝らなくていいですよ、ダイタムさん。この件は貴方の世界が悪い」

「はは……」


 謝られた那蠍(なこち)は、ダイタムを鷹揚な態度で赦す。

 しかし、貴女の世界が悪いという言い方は、ダイタムでも少し眉を顰めるほどだった。


 那蠍(なこち)はまだ異世界を別の世界だと考え、自分が管理している言いながら、どこか管理しているという意識がなかった。

 そこまでダイタムは察したわけではないが、やはり神の考えはわからないという気持ちと、一種の警戒感にも似た拒絶を覚えた。


「あ、クライロウネちゃん、お菓子のお代わりいる?」


「は、はい!」


 難しい話についていけなかったクライロウネは、天上のお菓子……といってもそれは彼女の主観であって、ただのきのことたけのこを模したチョコなのだが……を食べ終えて夢見心地であった。

 おかわりを勧められて、遠慮することなく即答するほどである。


 これにはダイタムも苦笑いだ。


 那蠍(なこち)はきのこ型のチョコクッキーのパッケージを開け、ひとつをつまんでクライロウネの顔に近づける。


「はい、あーん」

「あーん……」

「ウェヒヒヒ……。金髪美幼女が私のきのこを……ウェヒヒヒ」


 ダイタムの警戒レベルが跳ね上がる。

 やはりこの女神は危険だと。

 ただし危険性の方向は、やや迷子気味だ。


「あ、そうだ。あなた方が、死んではいないが死んでいる。の説明をしてませんでしたね。ウェヒヒヒ」


 チョコクッキーを箱ごとクライロウネに預け、そういえば那蠍(なこち)がダイタムに向き直る。


「え、ええ。そうでしたね? いったいどのようなことで?」


「それは……んんっ!」


 那蠍(なこち)はソファから立ち上がり、それはそれは大げさに宣言してみせた。


「ダイタムとクライロウネよ。汝らは吸血鬼の真祖として生まれ変わったのだ!」


 急に芝居がかった那蠍の宣言。

 ダイタムは気圧され、椅子から腰を浮かせる。クライロウネはチョコクッキーに夢中だ。


「お、おどろきましたか?」


「は、いえ? その、なんというか」


 那蠍(なこち)がどうだとばかりに問いかけたが、ダイタムはなんと答えたらいいか迷っている様子だった。


「なんというか? なんですか?」


 ダイタムは意を決意したように、座り直して尋ねる。


「まずその、吸血鬼? とはなんですか?」


「そこからっ!」

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