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私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい  作者: 大恵


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25/25

甘えん坊がチートを手に入れてしまった。

【注意とお詫び】2026/02/06(金)

「15話 魔女はドロップしてしまった!」と「那蠍(なこち)は陥落してしまった!」の間となる「16話 ゴーレムは乗られてしまった。」が話抜けていましたので、割り込み更新を行いました。

さかのぼって、更新をお読みください。

大変申し訳ありませんでした。


ほかにも長文タイトルを作者が見間違ったりなど、インシデントがおきたためタイトル変更(サブタイ削り)しました。

 ジャージ姿の青年こと、佐藤 ケンゴはニートである。


 ケンゴはある日、気が付くと見知らぬ土地にいた。

 これは夢か? と思う前に「すわ異世界転移か!」と叫んだ彼は、いかにも令和の青年であった。


 しかし彼は無気力な人間であっても、無邪気な人間ではなかった。

 すぐに着の身着のままで異世界へ放り出された恐怖に気が付いた。


「おいおい、チュートリアルがないのはまだしも……。この状況は遭難も同然だろ!」


 周囲一体は起伏のある丘陵地帯の原っぱ。遠くに町どころか山もない。目印もない。

 見渡すかぎりに点在する森とて、規模としては狭い。

 多少、知識のあるケンゴは、こういった地形では湿地帯が潜んでいることも想像できた。

 運良く親切な第一異世界人が現れるなどと、甘い考えは持っていない。が、なにかチートの一つでも持ってるかな? という甘い期待は持っていた。

 甘い期待というか、ここまでくると一縷の望みだ。


 果たしてそれはあった。


 三年にわたるニート生活で鈍っているはずの体は、無限の体力でもあるかのごとく疲れ知らずだった。

 軽く走れば陸上競技選手顔負けの速度! ……を出して、驚き転んでも怪我一つない見事な受け身と咄嗟の身のこなし。

 

 もしやと思ってパンチやキックを出してみれば、空気を裂くような一撃を放てた。

 ここでケンゴはできると確信し、自分がアニメキャラや格闘ゲームキャラの動きを思い浮かべて、そんな技を放ってみた。


「で、できた…………。うおおおおおっ! できたぞーーーーっ!」


 3Dゲームのキャラクターのように、ほとんど物理法則を無視したコンボを繰り出したケンゴは興奮のあまり一体に鳴り響く雄叫びをあげた。

 肺活量も化け物である。


 なお、いくら試しても気弾は放てなかった。

 あくまで格闘能力だけだ。


 異世界生活1日目の夜。

 ケンゴはさっそく異世界……いや現実の洗礼を浴びた。

 火起こしに失敗して、すでに心折れかけていたケンゴは狼のような動物の群れに襲われた。


 必死に追い払い、泥だらけになり、油断して後ろから噛みつかれ、運良くジャージを引っ張られただけで済み、これらを素手で撃退したケンゴは自信を取り戻した。


「やっぱり、俺にはチートがある! やったぞ! 異世界ライフの始まりだ!」


 直後、ケンゴは青ざめた。

 どこからか、撃退したはずの狼の遠吠えが聞こえたからだ。

 

「……仲間を、呼んで……いるのか?」

 

 それはケンゴの勘違いなのだが、そんなことは知る由もない。

 ケンゴは倒木に隠れ、汗で冷えた体を丸めながら、眠れぬ異世界1日目の夜を越した。


 このまま遭難者同然のまま、異世界ライフが終わるのだろうか?


 そんな心配をしていた二日目の……たぶん太陽が頂点を過ぎたくらいだから正午ころ。


 二人の日本人と合流できた。


 彼らは異世界やオタク文化などほとんど知らない社会人だったが、ケンゴはとても心強かった。

 これで夜は交代で眠れると、それだけでも嬉しかった。


 のだが、この二人の持っていた能力が便利すぎた。

 一人は対象者の強さがおおよそわかる能力。しかもかなり大雑把だが距離、方向がわかる。

 もう一人は、彼が一度買ったことあるものを、地球から取り寄せるという能力だった。

 対価こそ必要だが、それも当然とケンゴは思えた。それほど破格の能力である。


 彼らはピンとこなかったようだが、ケンゴはこのあたり能力に狂喜乱舞した。


 さっそく財布の中身や持ち物をかき集め、すぐに水と食料、ライターや炭、エマージェンシーポンチョなどキャンプ用品を購入し、手にいれた。


 この際、ケンゴが倒した狼のような生き物を、対価として利用できるか死体を提供した。


 死体一体で、おおよそカップ麺程度の価値判定された。


「い、生きていける…………。この分なら、加工すればもっと高く……せめて解体すれば少しは高く評価されるはずだ……」


 前日の苦労を知っているケンゴは、命が繋がったとボロボロに泣き崩れ、ニューカマーの二人を困惑させた。


 もっともその苦労の片鱗を、当日の夜に二人も味わってすぐに笑い話ではないと実感したようである。

 


 それから実に三ヶ月。

 転移者は次々と増えて、二十人を超える大所帯となった異世界サバイバーたちは、なんとか生き抜いた。

 各々のチートといえるか怪しい特殊能力を駆使して生きてきた。


 ただ生きるだけではなく、もちろん文化圏へ脱出に向けた調査も進めていた。


 調査でわかったことは、この地域がとてつもなく広い丘陵地帯であり、この辺一体が7つある丘の一つだとわかった。

 低地はもれなく湿地帯で、おそらく雨季は川となり丘を網目のようになって取り囲むだろう。


 歴史に詳しい人が──。


「はは。ローマの建国前の土地みたいだな」


 などといって、やはり知っている人たちが──。


「じゃあ俺たちはロムレスか?」

「狼に育てられたどころか、狼を追い出したぞ、俺たち」


 と笑って答えた。

 ケンゴも思わず笑ってしまった。 


 こんな冗談をいうと、反発するグループがいた。


「くだらねぇこといってんなよ、オタク!」

「調子にのんなよ!」


 ケンゴや知識のある人をオタクと侮蔑し、嘲笑う赤本をはじめとした不良グループ11人だ。

 彼らもそれぞれ様々な能力を持っているのだが、ケンゴ以上に異世界生活に馴染めず、至る所でコンプレックスをぶつけてくる。

 彼らは40日ほど前、同時にこちらへ現れた新しいグループだ。

 

 いきなり倍にサバイバーが増えたが、それでもすでに二ヶ月強も異世界生活をしてきたケンゴたちは彼らを受け入れることができた。

 先達ということもあり、単純な力関係ではケンゴ側が強い。


 しかし、人数的には彼らは半分を占めるため、ケンゴたちも軽んじることはできない。

 もしもケンゴたち側が戦闘能力を得ていなかったら、やっと形になってきたサバイバル村を彼らの好きにされたかもしれない。


 ケンゴの力を見たからか、異常事態を理解したからなのか、赤元たちはある程度は分をわきまえて共同生活になんとか馴染んでいった。


 ケンゴはこの生活で分かったことがある。

 確かにケンゴは就活に失敗しただけでニートになったどうしょうもない人物だが、甘える家族がいた。

 暖かい家と生活に困らない親の金。なにより口うるさく働けだの、しっかりしろだの言う家族がいた。

 言い返しても、喧嘩しても、賢吾は今の生活が続くだろういう甘えを家族に持っていた。


 赤本たちは違う。

 それなりに交友を結んできたケンゴは、彼らの事情を少しだけ知った。


「どうせ親父のやつ、俺がいなくてせいせいしてるぞ」

「俺んちなんて、金持って帰るオレがいねぇから、いまごろ泣き喚いてんぞ」

「ざまーねえな、おまえんとこひっで〜もんな」

「誰のうちがひでーんだよ」

「わりいわりい」


 たまにの贅沢で豪遊しながらヒドい話を聞いていると、本当にヒドいなとケンゴは実感した。


 彼らは家族に甘えられない。

 ちょっとでも口答えをすれば殴られて、家から出ていけと言われる。いや、追い出されている。

 もしくは家には誰もいない。

 勝手に生きろという態度なのに、金の無心をしてくる。誰のおかげででかくなったんだ、と……。


 だから彼らは社会に甘えていた。


 日本の社会は比較的甘えやすい。

 警察だって甘い方だ。

 どこまで好き勝手していいのか、騒ぎながら探って甘えてきた不良グループである。

 一線を超えないのは、それをしたらもう社会に甘えられないからやらないのである。そのくらいの頭はあるのだ。


「うおおおおっ! 異世界サイコー!」

「見てるか、オヤジー! てめーがいなくてせいせいしてるぞーぉおおぉぉぉぉっ!!」


 なにかうまくいくと、赤本のグループの一部は、雄叫びをあげる。まるで異世界で初めて力を自覚したケンゴのようである。


 だが、そんな甘えていた社会から放りだされたこの世界のサバイバル生活は、赤本たちが初めて得た家族抜きの成功体験なのだ。

 いやむしろ家族が自分の足を引っ張っていたと、再確認したようである。


 ケンゴが子供のころから成功体験を重ね、たった一度の就活失敗で挫折したニートである。

 一方の彼らは子供のころから頭ごなしに押さえつけられ、学校ではろくな成功体験を得られず、家族からは放置されたり足を引っ張られながら、この地で初めて大きな成功体験を得た集団だ。


 ケンゴは身体能力と格闘能力を得て、まるでアニメか格闘ゲームのキャラのように戦えるようになった。

 しかしそれは手にいれて嬉しい能力であって、努力して達成した結果から得たわけではない。


 誰かが勝手に選び買い与えられた車より、自分で苦労して働き稼いだ金で買った好き車の方が手に入れたときの達成感と満足感が強く、愛着が強いのは当然の話である。

 

 だから異世界で無双をする小説やアニメが好きでも、異世界へ本当に来たかったわけではない。あれは娯楽、消費物だ。

 恒常的に経験するものではない。


 なによりその好きなアニメをこの異世界ではみれないのだ。

 ケンゴが帰りたいと思うのは当然である。


 だが、彼らは違う。


 ある日、助けにきた小柄な少女を大姐御と呼ぶ男性二人との会話の中で、家族から捨て置かれたように探されていない井川はケンゴと違う。


 彼はこちらにきて、最初の能力は指先が光るだけだった。

 他のみんなが便利だったり、強さのある能力だったにも関わらず、彼の能力は非常に……こういってはなんだがショボかった。


「懐中電灯じゃん!」

「夜、助かるって!」


 みんなフォローしたが、井川は反発した。


 そして彼は努力した。


 最初は光が太くなるだけ。

 やがて目眩しになるほどの光量。

 距離は伸びなかったが、光が落ち葉を押し除けるほどのエネルギー体になり──。

 やがては押し当てて焼き切る程度の出力となり──。


 30日の努力を得て、一太刀で大木を絶つ光の剣と、狼の突撃を弾く光の盾まで手に入れた。


 こうして井川はとんでもない成功体験と、努力の成果を初めて手に入れた。

 だから──。


「俺は帰らねぇ! 絶対に、クソみたいな日本に! あの家には帰らねぇぞっ!」


 不思議な女の子とその仲間が現れ、日本に帰れると告げられた時。

 井川は駄々っ子のように、光の剣を振り回して暴れ始めた。


「気をつけてください! 光の剣を受けたら最後です! 光のバリアは同時に出せません。切り替えて展開するまで正面から広がって、背後まで包み終わるまで1秒強あります!」


 ケンゴは被害が少しでも減るようにと、井川の能力の特徴を簡潔にまとめて周囲に伝えた。


 ケンゴはゲーマーである。

 ゲームなど役にたたないというが、それは応用できない人間の言い分であるとケンゴは考えている。

 能力の長短や切り替えのタイミング、効果時間などをデータ化することはゲームでは基本だ。

 またそれに応じて対策することも基本だ。


 実際、ケンゴは井川の成長に協力してきた。

 威力や切り替え時間の計測をしたのも、成果を確認するため一緒に行った。


 井川の成長と成功の影には、ケンゴのゲームプレイスタイルが関与している。


「ウェヒヒヒ…………。わかった」


 警告を受け入れてくれたようで、不思議な女の子は、井川に近寄ったりしなかった。

 しかし、ちょっと不気味な笑い方をする女の子だ。

 ケンゴは自分を棚に上げてそんなことを思った。

 

 ──可愛いのに、姿勢とかこの態度は損してるよなぁ。


 たぶん学校では、距離を置かれているんだろう……と、窮地にも関わらずそんなことを考えていたら。


「開け、クロバム」


 少女が何かを呟くと突然、井川が光に包まれて消えてしまった。

 ケンゴは新しい光の技かと思ったが、どうもそんな様子はない。

 みな何が起きたのか、何をしたのかと、誰がやったのかと、顔を見合わせる。


 そんな微妙な空気の中、少女が一人笑う……。


「ウェヒヒヒ、彼には先に帰ってもらった。あ、帰るとチートは無くなるみたいなので、安心して」


「え、ええ……」

「なにしてんすか、大姉御……」

「なにそれ……」

「強制かよ……」

「もう少し手心というものを……」


 少女は何者なのか?

 そんな疑問などより、情け容赦のないスピード解決法にケンゴだけでなく他のサバイバーも困惑するほかなかった。

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