遭難者はサバイバルしてしまった!
「ふえ~、これが異世界っすか」
「信じられねぇ……。ここ地球のどこか遠く……いや地球のどっかだとしても、俺たちどうやってここに来たんだ?」
コージとアオトは丘の上で、遠くに見える森を眺めながらそんなことを呟いている。
那蠍からすると、「それで終わり?」という反応だ。
「ウェヒヒヒ。どうもあの鏡は、来れる場所は決まってるみたい」
自宅にある鏡と違い、同質だが同一ではない。
行先が異世界のここだけ、という劣化使用のようである。
那蠍は偵察に出した美少女プラモデル=ゴーレムを回収しながら、鏡の解析した結果を言ってみたが……。
「はあ……そうなんすか」
コージたちからの反応は薄い。
実感が湧いていないのか、どうでもいいと思っているのか、理解できていないのか、那蠍からは判別できない。
現在、那蠍とアオト、コージの三人は、異世界の地に立っていた。
なおマルオは留守番である。
闇の球体を出して廃工場のクレーン制御室でビールケースに座って、異世界へつながる鏡を隠してもらっている。
当初、那蠍は彼らをこの世界に連れてくるつもりはなかった。
しかし、ここまできたら行方不明者たちを探したい、大姐御を一人で行かせるわけにはいかないと強く同行を主張してきた。
那蠍は仕方なくこれを受け入れた。
まず、美少女プラモデル=ゴーレムを偵察として異世界へ先行させて安全を確認。その後、異世界へ足を踏み入れた。
この美少女プラモデルは戦闘機をモデルにしたような擬人化プラモデルで、ゴーレム化したさいに飛行と火器の使用が可能となった。
15センチメートルサイズで、薄着の美少女がロボットをアーマーのように着ているような姿をしている。ジェット飛行をし、豆鉄砲みたいなガトリングガンと花火程度の威力を持ったミサイルを発射できる。
どうもこのゴーレム化アイテムは、形が製造された際のイメージを具現化して実物モデルに近い機能を得るようだ。
ただしそれはある程度科学的な再現ができるものにかぎられる。
なので魔法使いのフィギュアをゴーレム化しても魔法は使えないし、金髪になった戦闘民族の宇宙人フィギュアをゴーレム化しても、気弾を撃ったりなどはできない。
つまりロボ系なら大体原作通りの再現ができる。
さすがにビーム系は無理だったが。
「さて、どこにいるんすかね?」
「生きていてくれればいいけど……どっちにいけばいいですか?」
アオトとコージは真面目に探す気があるようだが、右も左もわからないので那蠍に助言を求めてくる。
「待って。蜂とゴーレムに探させてるから……。まずはどっちへいったらいいかもわからないし、偵察。大事」
とにかくここは目印らしきものがない。
日本ならどこでも当たり前な遠影に山などなく、起伏のある平野にところどころ同じ植生の森が散見されるだけの土地だ。
一度帰還した美少女プラモ=ゴーレムを再び捜索に飛ばせて、落ち着かない二人にまだだと指示する。
しばらく二人がやきもきしている間に、那蠍の足高が人工的らしき煙が立っている場所を発見した。
「ウェヒヒヒ。南に、集落かキャンプ地があるみたい」
「キャンプっすか。レジャーするとこなんすか、ここ」
「この場合のキャンプ地は、野営地って意味」
「はあ……」
コージが平和的な勘違いをしたので、那蠍は訂正した。しかし、まだ理解しているか微妙な反応だった。
ひとまず三人は南へ向かうことにした。
+ + + + + + + + +
南におよそ三キロメートルほど。
那蠍たちが歩いた先に、現代日本人が築いたと思われる野営地があった。
川から少し離れた場所。しかし視界内にあり、そこからみてやや高台。平な場所に十を超えるほどのテントが設置されていた。
なぜ現代日本人と分かったのか?
まずテントが現代日本でよく見られる市販のキャンプ用品であること。
次にこちらへ気がついて声をあげた者が、どうみてもスニーカーにジャージ姿でメガネをかけた日本人の青年だったからだ。
「おーい! 君たちもこっちに転移してきたのか!」
「ウェヒヒヒ。ある程度、わかってる人みたい」
「そうっすね」
ジャージ姿の青年は、第一印象で言えば引きこもりのオタクという人物だった。
やや太り気味で髪はぼさぼさ。無精髭がひどく、身なりを全く気にしていないという印象だった。
「なんだよ、今度はガキがいるじゃん」
「マジかよ、またお荷物が増えんのかよ」
続いてテントから出てきたのは、数日前まではばっちり決まっていたであろう髪が崩れ始めている少年たちだった。
「あ、アイツら」
「いたっすね」
アオトとコージが探していた廃工場を根城にしていたグループのようである。
「げっ! てめーらかよ! けーれよ!」
あちらのグループも気がついたようで、吐き捨てるように拒絶する。
アオトは少しムッとして憮然としながら、敵対グループの男たちへ言い返す。
「そういうなって。赤本のおじさんに頼まれてさ。迎えにきたんだよ」
「迎えぇ~?」
赤本とはアオトの父の勤め先の同僚の親族の苗字だろう。これに反応した赤く髪を染めた男が、露骨に顔を歪めて嫌悪の表情を見せる。
「迎えってどういうこと! 帰れるの!?」
一方、ジャージ姿の男が劇的な反応をした。
「どうやって! 帰れるのか! 僕たちは、帰れるのか?」
「待って、説明するから。みんな集めて」
ジャージの男が駆け寄ってきたので、那蠍はアオトとコージに押し留めてもらう。
そしてこの野営地にいる日本人たちを集めるように要望した。
+ + + + + + + + +
那蠍の要望に応え、水汲みや薪拾いに行っていたグループも呼び寄せて、野営地に全員が集まった。
このキャンプ地で、二十三人の行方不明者が集まって共同生活をしていた。
警察で得た情報では二十五人だったので、二人ほど足りないが彼らは知らないという。
異世界のこの地で出会えなかったか、それとも日本で別の事件に巻き込まれただけだったのか。
とにかく、彼らはいつの間にかこの世界にいて、なんとか今まで生きてきたという。
幸い、最近ネット小説どころか漫画やアニメで流行りのスキルというかチートというか、なんらかの特殊能力を持っていたため、なんとか生き延びることができた。
ありきたりのキャンプ用品がある理由は、三番目にこの地に来た男性の能力だという。
一度でも自分のお金で購入したことがある物品を、対価を払って取り寄せる能力で手に入れたらしい。
一番最初にこの場所にきたジャージの青年は、単純に身体能力と格闘能力だという。
これでなんとか外敵……主に狼などを倒し、身を守ってきた。
他にも狩猟に最適な能力や、発火能力や、鑑定能力、アイテムボックスなどの能力を持ち合わせ、皆が協力しあって今まで脱落者もなく生き延びた。
しかし、もう限界だったようである。
「怪我や病気をしたら、もうどうにもならないですからね。僕たち医療の知識もないし」
彼らがここまで生きてこられた理由は、日本で健康的……とは言えなくても現在まで適切な医療を受けて、栄養もしっかり取れてきた生活をしていたからである。
加えて鏡を通過する際に、異世界でパンデミックが起きないよう病原菌などを除去されていた効果もあり、クリーンな身体でこちらにこれたことも大きな要因だ。
免疫も鏡通過時に与えられているので、こちらの病気にかかる可能性も激減していた。
だが、そろそろストレスや外的要因によって、ひどい怪我や病気にかかる恐れがある。
科学的知識やサバイバル技術に長けた人物もいたが、医療となるとより専門的だ。
能力に浮かれながらも現実が見える彼らは、この状況を好ましく思っていなかったようだ。
「ところでジャージのあんちゃん、なんでその格好なんすか? あの人が服も買えるんでしょ?」
「ああ、彼は自分が買ったものだけだから、サイズが彼用なんで。ほら、僕太っててでかいから」
コージがどうでもいい疑問を口にしたが、ジャージの青年からは貴重な話が聞けた。
狩猟や採取で得た物を対価とし、物資の補給はできるにしても、購入できるものは偏りがあった。
見ればキャンプ用品も同一商品である。考えてみれば、テントを何種類も買うことはあまりない。
服は自分に合うサイズを買うので、体格が大幅に違うと融通が効かない。
なお食べ物は能力を持つ人が自炊派だったので、満遍なく食材を手に入れられたようである。
「ウェヒヒヒ。とにかくそろそろ無理があるってのは分かった。帰りましょう」
那蠍の帰りましょう宣言は、異世界でサバイバル生活をしていた彼らを思っての発言ではない。
自分が大人数に囲まれていることに耐えられなくなったので、とっとと帰って解散したいだけで言っただけである。
「いやだ。帰らねぇぞ」
誰かが拒絶した。
ほとんどの視線が、ジャージの青年に向けられたが彼ではない。
先入観で彼が言ったと思ったが、発言者は意外な人物だった。
「俺たちゃぁ戻らねぇぞ!」
廃工場の不良グループ……その一部である五人が、戻らないと宣言した。
那蠍は面倒なことになりそうなので、妥協案を示す。
「ウェヒヒヒ…………。一旦、日本に戻ってから、あとでこっちにくれば……」
「うるせぇよ、ガキ! 黙ってろ! なあ、オタクくんさぁ……てめぇもさあ、もどらねぇだろ?」
「え、いや……僕は、あの……帰る」
「うっせぇよ! てめぇの意見なんざきいてねぇ!」
那蠍は残りたいなら勝手にすればいい、と思っていたが、他人を巻き込むとなると話は別である。
意見を聞くフリをして都合が悪い返答なら黙ってろという対話できない人物がいては、これまたさらに話が別となる。
ガキと言われて腹は立たない那蠍だが、わがままを言う相手はそれなりに不愉快だ。
那蠍やアオトたちが反応する前に、不良グループの残らないつもりでいる赤本をはじめとした仲間たちが声をかける。
「おい、井川。お前なに言って……」
「なあ、帰ろうぜ」
「俺たち、もう帰りてぇんだよ」
「いやだ! もどらねぇっ! 帰さねえぞっ!」
強く拒否する男は井川と言う名前らしい。
心配する仲間の声を振り切り、井川は跳ねるように立ち上がる。
戻らない、帰らないと何度もさけびながら彼の腕が輝きだす。
「ちょ、お前! マジか!」
「やめろ、本気か!」
井川の腕が光り出すと、仲間たちが慌てて止めようとする。
しかし怯えて、近寄るのを躊躇っていた。
輝く腕を仲間の反応を見て、那蠍はすぐさまジャージの青年の隣に駆け寄り問いかける。
「あ……あの井川って人の能力は?」
便利系の能力を中心に聞いていたため、井川の能力は聞いていなかった。
となると便利系ではなく、単純な戦闘能力だろう。
危険なので、那蠍はまずその能力を確認することにした。
「光の剣と光のバリアです」
ジャージの青年は簡潔に能力を説明してくれた。
単純明快な答えと想像しやすい能力に、那蠍の引き攣ったような笑みがさらに引き攣った。
「ウェヒヒヒ……。も、もしかして、この中で最強?」
「はい、最強の能力です」




