那蠍は見つけてしまった!
「ウェヒヒヒ……。街中華、美味しかった」
日に焼けて色褪せた赤い中華中華したのれんの下を潜り、那蠍は満足げだった。
「口にあってよかったっす」
「大盛りで有名な店なんすけど、味もいいんですよ、ここ」
「じゃ、車。回してきます」
地元の店を紹介し、それを褒められて三人もご機嫌だった。
マルオは近くの駐車場に停めた軽自動車を取りにいく。
那蠍は待っている間、中華店の隣に立つ立派なビルを見上げる。
実はこの店、警察署の隣で営業をしている。
「警察の隣って立地は意外……」
「そうっすかね? 警察に出前とかあるんで儲かるんでしょ?」
「ウェヒヒヒ。よくある取り調べ室のかつ丼とか?」
「そうそう、それっすよ。あと拘置所はちょっと離れたところにあるんすけど、そこの隣にもこの中華店の二号店があるんすよ」
これを聞いて那蠍は鋭い推理力が光る。
「本店と二号店が両方……警察施設の隣に? ……妙だな。これはきっと、警察とのゆちゃくが──」
那蠍は渾身のギャグを放ったつもりだった。
「しっかし、警察も役にたたねぇっすよね。捜査してくんねぇとか」
コージは警察へ愚痴をつぶやいていて、那蠍のギャグを聞いていなかった。
ウケなかったより、聞き逃されたほうのがいいだろうと判断した那蠍は、コージの愚痴に反論する。
「……警察も何もしてなかったわけじゃない」
「どういうことですか?」
那蠍の切り返しに、アオトの方が驚いて尋ねる。
ニヤニヤと不気味に笑う那蠍が、そっと手を前に出して人差し指を立てると、そこに小さな蜂が留まった。
ニホンミツバチの羽斑だ。
「ウェヒヒヒ……。ご飯食べてる時に、この子に調べてもらった」
「いつの間に! 大姉御は蜂を操れるんですか?」
「なんすかそれ! 使い魔ってやつっすか?」
不良少年である彼らでも、今のサブカルチャーの洪水を浴びているため漫画などよく読んでいる。
そのため使い魔などの設定などは、細部は間違っていても知ってはいる。
「ウェヒヒヒ。説明が省けて助かる。そう。使い魔みたいなかんじ」
「すげえ、ただ中華を食いたかっただけじゃなかったんすね?」
「警察署の近くに中華屋さんが知ってて、言ってたんですね!」
偶然である。
たまたま警察署の隣の街中華に連れてこられたので、思いついて羽斑を偵察に出しただけである。
「ウェヒヒヒ。それほどでも……」
だが、那蠍は訂正しなかった。
那蠍はわりと俗物である。
「この子に調べさせた結果、行方不明者の捜索は行われてる。……さっき言ってた外国人の摘発。あれって行方不明の捜査の延長上でやったみたい」
「どういうことっすか?」
「あー。あれか。警察もアイツらが関わってたと思ったのか!」
アオトは察しがいい。
満足げに笑う那蠍。
「ウェヒヒヒ。そういうこと。集団でいなくなったのは、工場の人たちだけど、他にもちらほら若い人がいなくなってるって」
「そんな話聞かないですけどね」
「いやニュースで言ってた……あ、俺たちも今日のテレビの取材で知って、親父から同僚の親戚の話も聞いてたし、気になって朝に工場へ見に行ったんです」
アオトたちが行動的になったのは、どうやら今日の朝からのようである。
よく考えると、元とはいえ不良少年たちが朝早くの報道バラエティーに出るとは、なかなか健康優良少年になってしまったなと、那蠍は感慨深くなった。
「今月に入って25人。数そのものは毎月の家出人からすれば変じゃないらしいけど…………どうも、数人が探さないといけないような家庭の子っぽい」
「あー、そういうことっすか」
オレたちみたいのだと、警察動かないよなという不満を漏らそうとした時、マルオの車が到着した。
車に乗り込み、マルオに羽斑の偵察について教えつつ廃工場へと移動する。
その道中、アオトのスマホに着信があった。
「……はい、はい。わかりました。ありがとうございます、宇須野さん。はい……。あ、今、宇須野さんから連絡あって、工場の持ち主から許可取ったそうです。調べるのに入って大丈夫ですよ」
車はいったん、ニコニコたんぽぽ交流事務所へ向かい、工場主から預かった鍵を宇須野から受け取る。
那蠍はアオトたちのこの様子を見て──
(不良少年だったわりに、こいつら、地元の人たちから急速に信頼を受けていないだろうか?)
と、疑問には思ったが、宇須野から聞くことは那蠍にとって難易度が高いので保留する。
鍵を預かり廃工場へ舞い戻った那蠍と三人の更生少年は、改めて門扉を開く。
錆びたチルト車輪が甲高い悲鳴をあげているが、三人の男たちの力で強引に開け放たれた。
「ウェヒヒヒ。あまり動かした様子がないけど? どうやってここのグループは出入りしてたの?」
「ああ、それはあっちから」
アオトが指さす方向は、壁代わりであったろうカラートタンが押し倒されて転がっている。
通りから見て反対側の目立たない場所から不法侵入していたようだ。
「朝はうちらもあっちから入ったんすけどね」
「今は鍵があるんで」
ニコニコたんぽぽ交流会事務所に戻り、宇須野から預かった鍵を見せるアオト。
「…………今、鍵つかった?」
「え? ……あ、使って…………ないですね」
那蠍の指摘を受け、やっと三人は気がついたようだ。
門扉には鍵が開いていた。
「いつからなのか、誰かが解除したのか……、行方不明の後か前か。そして誰なのか」
「犯人……すかね?」
那蠍が疑問に思うことを並べると、コージが結論を急いだ。
「ウェヒヒヒ、これで前回様子見にきた工場もちぬしが、鍵かけ忘れてただけだったりして」
「かもしんないっすね」
可能性はいくらでもあるが、一番ありそうなのがかけ忘れだ。
捜索と調査のため、那蠍たちは廃工場へと踏み入れた。
クレーンや工作機器はすでに撤去され鋼材は処分されているが、ここを占拠していた者たちよってかなり散らかっている。
事務所内から持ち出した椅子に加え、椅子代わりにしていたらしいビールケースが散乱し、ビールやジュースの空き缶、菓子の袋ゴミなどが散らばっている。
「ウェヒヒヒ。こんな何もないとこで、なにしてたんだろう?」
「ここは道路から離れてるし、外から中が覗けない作りになってますからね。見つかりたくない、見られたくないってだけで、俺らは選ぶときがあるんすよ。こういうところ」
「意味は?」
「いえ、だから見られたくないっていうか、うざいっていうか?」
「……?」
コージの説明を聞いても、那蠍は実感できない。
アジトや隠れ家などは目的があって用意するものだというイメージが、那蠍にはある。
ただ周囲がうざいから、という理由を飲み込めなかった。
「まあいい……。そういうのもあるんだね、ウェヒヒヒ」
那蠍は探索に戻る。
裏返されてテーブル代わりにされた大型のゴミ箱の上を探る。
ゴミだらけだ。
ゴミ箱をひっくり返して、ゴミをその上に散らかすのは対偶か哲学だろうか?
不良少年の行動にさらなる疑問を抱いたところで、那蠍は異変を見つけた。
呆然とそれを見上げて、ゆっくりと壁際の階段へ向かう。
「あれは…………」
「どうしたんっすか? 大姐御」
「……なんで、なんで、あれが、ここになんであるの?」
那蠍はふらふらと鋼材でできた階段を上がり、クレーンが撤去された中二階通路を進む。
人が一人歩くのが精一杯の壁際通路を進み、中程の一角、クレーン制御室へと入り込む。
クレーン制御の機材は全てなく、剥き出しの配線と唯一壁掛け扇風機が残っている。
その中心で、那蠍はそっと手を差し出して、コマンドワードをつぶやいた。
指先が光る。
「……やっぱり」
「なんすかそれ!」
「マジかよ!」
那蠍が改造中の異世界。
そこへと繋がるゲートが、那蠍と三人の前に現れた。




