11人いない!
敵対グループと、一種即発…………からの真剣語り場と化した廃工場。
難癖をつけてきた五人の男たちも廃工場の敷地から出て、那蠍と三人の男と情報の交換を行うことになった。
当初こそ、「てめーらがやったのか?」「知らねーよ」の応酬をしてたが、こちらも行方不明となったことを不思議に思っており全く無関係でないこと。五人グループの家族が居なくなっていることから、互いの不安と心配がメンツより優った結果となった。
人口がそこそこ多い都市だが、同じ街の住人同士である。
グループとしては仲は悪くても、親兄弟の関係者を辿ればまったくの無関係者でもない。
実際、アオトの親の勤め先の同僚の親族の子が、行方不明者の仲にいる。
一見、関係者としては遠く思えるだろう。
他人といえば他人だし、抗争してた相手といえば相手だが、行方不明になってよかったと平気で無責任に言えるような人間はそうそういないし、心配するくらい当然のことだ。
むしろ街と無関係な那蠍の方が、いざとなったら五人グループを呪いの力や眷属たちで痛めつけてやろうと考えていたので、この集団では一番の危険人物である。
「じゃあ、あんたらも探してんのか?」
行方不明になったグループの親族や友人である男たちの代表が、矛をおさめて対話に入る。
彼は行方不明者の一人の兄で、もう4日も帰ってない弟を心配して、同じように行方しれずとなった者の関係者と一緒にここを訪れていた。
いかつい友人やらなんやらを引き連れているのは、やはり荒事になることを警戒しているからの結果だ。
他の四人も無関係ではなく、それなりに親しい人たちが行方不明者の中にいる。
アオトたちもそんな彼らの事情を知って、集団で初手威嚇されたことは不問として話に入った。
なお溜まり場にしたという不法占拠の件は、棚の上にあげている。
「そりゃアイツらとは揉めてたけど、十人からいなくなったわけっすよね?」
「十一人だ」
「そんなに行方不明とか、異常だよな」
「なあ、これ…………ガイジンのやつらじゃね?」
五人グループの一人が、あからかに差別的な感情を隠さない口調で、犯人たちを推測する。
彼らはそうかも、そうだあいつらだ、という顔つきになったが──
「あ、それはないっすね」
コージがあっさりと否定する。
「なんでそんなこと言えんだよ!」
「てめぇっ! あいつらかばってんのか?」
五人は怒りと不安をぶつける対象を逸らされたせいか、今にもつかみかかりそうな態度でコージを問い詰める。
「いやいやいや。ちょうど4日前に、そいつらのグループは全員とっ捕まってんすよ。ほら、違法な売春宿の摘発ってのあったっしょ? それ、あいつらの根城」
「あー、でも、全員じゃないかもしんねぇじゃん」
「そうだ! まだ残ってるやつらがやったかもしれねぇだろ?」
「仮にっすよ、数人残ってても、それで十一人をどうこうできるっすか? 男たちほとんど捕まって、残ってるの女とかガキっすよ」
「しかも一人も逃さず、工場で争った跡とかもなく、なんの連絡すらさせずに……か」
コージの反論を、冷静なアオトが補強する。
箇条書きマジックに近いが、この場にいる誘拐の知識などない素人の想像でも無理そうだと思えてしまう。
五人たちは「でもよぉ」と言い返そうとしたが、リーダー格の男が止めた。
「アオト、つったか? あんたの親父さんの仕事先にいる人の親戚は、どれくらい戻ってないんだ?」
「今日で4日だな。俺が話を聞いたのは昨日の朝」
リーダー格の確認に、素直に答えるアオト。
4日と聞いて、相手方のグループも反応する。
「やっぱり。やっぱみんな4日前か」
「じゃあ全員一斉に?」
「連絡の既読がつかないのも同じ時間だし」
互いの話をまとめ上げると、ほぼ同時刻にいなくなったらしいことが推測できた。
「…………やっぱ、警察に届けっぞ」
「そうか」
弟がいなくなったという男が、沈痛な面持ちで決断する。
仲間たちも疑う先がなくて、それしかないかと納得した。
反社会的なグループに片足を突っ込んでいるような者たちが、警察に頼るなんて……と、思うかもしれないが、なにしろあまり事態が深刻だ。
この日本で行方不明者十一名は異常事態と言う他ない。
そうでありながら、警察の動きが鈍い……のはありえる話だ。
一度に一斉というのは奇妙だが、不良グループが4日くらい連絡つかなくてもそのくらいあるだろうと構えている可能性がある。
実際、行方不明者数名の親族は、すぐ戻ってくるだろうと気にしていなかったり、あと数日くらい待ってみると危機感がない者もいるという。
しかも、あからさまに消えてせいせいしたという態度のものもいると男たちは伝えてきた。
警察に相談している家族は、たったの3家族だという。
リーダー格の男も加わるので、これで4家族目だ。半分にみたない。
「ち……まじかよ」
アオトたちは反応に困り、薄情なやつもいるなと唾棄している。
一方、ほとんど無関係である那蠍は、彼らとはまったく違う視点で、あることが気になっていた。
なぜなら、廃工場からは禍々しいほどの呪いの気配が感じられたからだ。
決して、会話に参加できず、ぜんぜん喋れなかったり、存在を無視されていたわけでもない。
「ウェヒヒヒ……。一言もしゃべれなかった…………」
…………たぶん。
+ + + + + + + + +
敷地内へ一歩も踏み入れていないにも関わらず、那蠍が感知できるほどの呪い。
この世界でたった一人の呪い師だと思っていた那蠍にとって、これは衝撃的な現象だった。
「すいませんね、大姐御。変なことに付き合わせちゃって」
五人グループを別れたあと。
連絡先を交換したアオトが、那蠍に頭を下げる。
「ウェヒヒヒ。平気、気にしてない。っていうか、私、ちょっと思い当たる節がある」
「な、なんだってー」
空き地に停めた車へ向かおうとした三人は、那蠍の告白を聞いて一斉に振り返った。
「ど、どうして、それを……さっきあいつらがいる時に言ってくれなかったんですか?」
「ウェヒヒヒ…………。私の秘密をバラすわけにはいかないから」
嘘である。
知らない男性五人相手に、力を誇示せず普通の会話ができないからだ。
「そ、そうっすよね。わかりました」
「ああ、大姐御の底はしれねぇからな」
「隠しておくに限る」
三人組はこの嘘を見破れず納得した。
なお三人組は、すでに那蠍の力の掌握下である。
子分相手なら、那蠍は一方的に話せるので、かろうじて会話らしきものはできた。
「とりあえず、一旦移動。調べるのはお昼食べてから。ウェヒヒヒ。急ぐ必要はない」
「あ、そういやそろそろランチっすね。どっかで食べましょう」
コージはスマホの時計を見て、那蠍の昼食案にのった。
マルオはイマイチ納得してない様子だが、昼飯は大切だよなと車に乗ってエンジンをかけた。
アオトも特に異論はないようで、助手席に座る。
「ウェヒヒヒ……。あ、できれば中華で」
会話下手なくせに、わりと図々しい那蠍であった。




