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私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい! ~魔王も魔物もいない、魔法もスキルもステータスもない異世界を、ぼっちが1人でビルドアップ~  作者: 大恵


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那蠍は疑っている!

 

 異世界開発は躍進した。


「ウェヒヒヒ……。ウェ、ウェヒヒヒヒヒヒ」


 吸血鬼が住まう古城から帰還した那蠍(なこち)はほくそ笑んだ。

 果たしてほくそ笑むとは?


 クライロウネが披露した死霊たちは、異世界に魔法のようなモノを定着させるための資料として非常に有益であった。


「死霊が資料……ウェヒヒヒ」


 こちらの世界でもある、蓋然性を高めるという能力。那蠍(なこち)の使う呪いも実は、この蓋然性を高めることによって行使される。


「死霊が資料……」


 蓋然性とは、たしからしさ。

 可能性という意味に似ているが、厳密には違うそれ。

 ごく稀に勘違いされることもあるが、いつの頃からかネットで当たり前のように使われている観測されるまでどちらかわからないという猫のあれとは全く違う。


「死霊が……」


 蓋然性を説明するさい、よく使われる例をある有名人が提示したエピソードがある。


 かの文豪、夏目漱石が英語の授業の際に蓋然性を説明する際に使った例だ。


 夏目漱石は『教壇に講師が立っているとそこで逆立ちをする可能性があるが、蓋然性はない』と例文を出した。


 講師が逆立ちが得意だからと言って、急に意味もなく逆立ちをするわけがない。苦手ならなおさらだ。


「あの、死霊……と資料……」


 この例を叩き台にして、独自に少しづつ蓋然性を高めてみよう。

 学生に逆立ちが得意だとバレて、やんややんやと見せて見せて囃し立てられる。

 これで少し蓋然性が高まる。

 だが、まだ講師が「なぜそんなことをせねばならん」と拒否するだろう。まだ蓋然性は低い。


 講師がどうしょうもないお調子者だったり、逆立ちすることで学生たちの信頼を得られるなどリターンが見込まれる場合。

 これでまた少し蓋然性が高まった。

 だがまだまだだ。


 前日、学生と講師が結託した場合。

 たとえば「俺が得意の逆立ちを披露したいから、さもどこからかバレたかのように囃し立てて教室を盛り上げてくれ」と講師が頼み、「わかった。そのかわり評価よろしく」などと取引を行ったならば?

 この条件ならば、蓋然性は確定化した。


 だが、ここでさらにこう付け加えることができる。

 講師と学生がそんなくだらない結託する可能性はあるが、蓋然性は低い──、と。


 現在、この蓋然性という用語は金融などで使われているが、簡単にいえばどの銘柄も跳ね上がることもあるし、とんでもない下落をする可能性がある。

 

 しかし、そうなる条件が見受けられないならば、そうなる蓋然性はない。

 こんな使われ方をする。


 呪いも同じだ。

 呪った相手が清廉潔白なら、呪いの効果がでる蓋然性がない。

 ちょっとした交通違反を繰り返す人ならば、呪いの効果が出る蓋然性が少しある。

 事故を起こしたり、巻き込まれる可能性があるからだ。


 もしも、普段から恨まれていたり、疎まれていたり、犯罪を行っている人物ならば?

 それらの報復などとして、めざましい呪いの効果として現れる蓋然性が高い。


 恨まれているから、誰かに刺されるかも。

 疎まれてるからイジメられて、鬱になるかも。

 犯罪をしているなら、それが露見したり、大きな犯罪に巻き込まれて社会生活に戻れないかも。


 このように蓋然性が、どんどん高まることになる。


 とにかく、クライロウネのおかげで、あちらでも魔法というものを作り、体系化する見通しが出来た。


 雨は空から降る。だから空が見えてればそこに雨が降る可能性があるが、雲一つないならば蓋然性はない。

 ここから、雲があれば蓋然性が高まる。

 それが雨雲ならばさらに高まる。

 雨雲が近く雲が低くすでに空気は湿り気を帯びており、


 こうして雨を降らせる魔法を作ることができる。


 天気予報とか観測とか、そんな科学的アプローチの話ではない言葉遊びだが、もともと魔法とは不条理な物。


 こうやって確定化は結びつける能力を、すでにクライロウネは手に入れていた。


「ウェヒヒヒ……。応用して、汎用性増やして、確実性を高めて、細分化していけば……クライロウネちゃんが、あの世界で最初の魔法使いになるかな?」


 マンガやアニメのような魔法にはならないが、伝承や神話にあるような魔法や奇跡を異世界で再現することができる。

 クライロウネの才能が、どれほどあるかまだ未知数だ。

 しかし彼女が魔法使いとなる()()()()()()

 すでに死霊使い(ネクロマンサー)と呼んでも問題ないが、せっかく魔法使いとなれるかもしれないのだ。

 絶対に見守り、愛でて、育てたほうが良いと、那蠍(なこち)は判断した。


「ウェヒヒヒ……。せっかくだから、魔導書でも探してくるかな?」


『主様。大丈夫ですか? その時間とか』


「そうなんだよねぇ……」


 角短が不安要素を告げ、那蠍(なこち)もうなずいた。


 那蠍(なこち)が住まうこの地球でも、魔法というものはある。那蠍(なこち)が呪術師として存在しているので、なんら不思議でもない。


 ただ魔法使いはほぼ絶え、魔導書も偽物が氾濫している。

 あてはあるが、異世界開発改造の片手間ではできそうにない。


 どうしようか、那蠍(なこち)は服を脱ぎ始めようとしたとき──。


「進行しているようですね。けっこうなことです」


 兆候も脈絡も気配もなく、超越者が無遠慮に現れた。


「あ、ウェヒヒヒ。これはこれは、えっと超越者、さん」


 那蠍(なこち)は急に現われた超越者に対して、様つけにするか、呼び捨てにするかを悩んでさん付けで呼んだ。


「急ですが服を脱がれる前にと思いまして、お邪魔しました」


「つまり私が裸かどうか監視しているということでは?」


「……」


「なにか言ってください」


 超越者は無言だったので、那蠍(なこち)は変質者から逃げるように身を庇いつつ半歩下がった。


「ところで……」

「誤魔化さないで」

「今のままでは異世界の開発も大変でしょう。さらなる力、いりませんか?」


 強引に話を進める超越者。

 那蠍(なこち)は彼だか彼女だかも、会話が苦手なのでは? と疑い始めた。


「ウェヒヒヒ。いりませんが……」


 強引に断る那蠍(なこち)

 二人はどこか似ていた。


「なぜですか? 異世界の開発も楽になりますし、力はあっても困らないでしょう?」


「対価とか、さらなる仕事の追加とかあるのでしょう?」


 那蠍(なこち)()()()()()()()()()という不確かな権利が、誰かの手に渡らないように超越者が投げてきた仕事を消化しているだけである。


 半分は地球への滅私奉公であり、力という報酬を求めているわけではない。

 たしかに取り掛かったならば、それはそれで面白いという面もあるが、ひとたび責任について考えると途端に気が重い。

 ダイタム親子をあのような形であれ助けられたがよいが、関われば関わるほど人を直接的に、間接的に、不幸にしていくだろう。


「あなたが警戒するのも当然ですが、私に悪意はありません」


 自分のスタンスだけを言い、さらなる仕事の追加や対価やデメリットについて語らない。

 那蠍(なこち)の考えは決まった。


「ウェヒヒヒ……。そうですか。わかりました」

「では」

「では、このままで当たらせてもらいます」


 超越者は固まった。

 まるで配信動画のラグのように固まった。

 

 あんがい本当に映像なのかもしれない。と、那蠍(なこち)は超越者の正体を一部見抜いた気分になった。


「よろしいのですか?」

「納期は余裕があるのでしょう? ぎりぎりになったら泣きつきます。ウェヒヒヒ」


 それは拒絶に近い。いや、拒絶だ。

 ぎりぎりまで関わってくるな、という宣言でもあった。


「……あなたがそれでよろしいのなら」


 超越者はあっさりと諦めた。

 その顔には、理解してくれた印象すらあった。


「しかし、このままではなんのために来たのかわからないので、対価も条件もなく一つ、サービスいたしましょう」


「く……手ごわい」


 決定事項だとばかりに、超越者は何かを押し付けてきた。

 無理強いに弱い那蠍(なこち)は、それを受け取ってしまった。

 そっと手の平の上に置かれた物質は、大き目のビーズが入った小瓶と、250ミリリットル缶くらいの大きさの円筒型のユニットだった。


「別の世界で使われているゴーレムの演算装置とコアです」


 那蠍(なこち)が受け取った1セット以外にも、11セット。超越者は合計1ダースの演算装置とコアをテーブルの上に置いた。


「ほう……」


 那蠍(なこち)は素直に喜んだ。

 異世界を留守にしている最中の警備や監視、活動の肩代わりのため、願ってもない道具である。


「これは助かります。このような物であれば歓迎です」

「ええ。力を与えるより、道具のほうがよろしいみたいですね」


「はい、さっそく、美少女フィギュアに使わせていただきます」

「はい、さっそく、無駄遣いしない」


 似た者同士──。那蠍(なこち)の胸の中に潜んでいた羽斑は、主と超越者を並べてそう評した。

 

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