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WALK(仮)  作者: 量盛達人
南東区編
1/1

因果

 戦争による影響か、小さな田舎町には、十年で元に戻る力はなかったのか。

 “()”軍人で着る服がこれしかなかったとはいえ、この(くす)んだ緑の軍服は威圧的すぎる。


 買った家は、周りと同じく廃れて古びた平屋。帝国の農村にありがちな様式。この地域は風が強く、暑い気候の為、建物は二階建てにして熱を逃すのが普通だが、二階建てを買うにはかなり値が張ってしまう。


 町の様子は、冷たい。全員が生きるのに必死になるあまり、優しさはない。


「……離して!」暗い路地裏から、少女の悲鳴が聞こえる。スラムと化したこの地域では日常なのだろうか、誰も気には留めない。

 そんな光景を見過ごせないのは、元軍人の(さが)なのかもしれない。


◇◇◇


 行ったが…後悔した。少女はFGM被害者だ。その上、親の借金を肩代わりして、体の一部を売っぱらっているという。

 借金取りには、今月分と来月分の利息を払って追い払ったが、このままでは、この少女は、また借金取りに追われる身になってしまう。


「あの……私、もう体は売れなくて……」ぼろ雑巾を繋ぎ合わせた服から、ちらりと見える強引に剥がされた皮膚の跡が見える。

「体なんか売らなくたっていい。どこか、お前みたいなやつを引き取ってくれる所を探そう」そう言って、この街を歩くことにした。


◇◇◇


 何故、少女の働き場を探してるのか、自問自答を繰り返しているが、よく分からない。何を原動力にこの少女を助けているのか……?


 少女はこのスラム街では曰く付きらしい。行く先々で、見る冷たい視線は、よそ者を見るではなく、もっと冷酷で、罪人を見る様な目で、この少女を見ている。

 最初は心のどこかで嬉しそうにしていた少女も、今では、暗い表情になっている。早く見つけてやらないと、この少女が何かとつけて、俺から離れて、また借金取りから怯えていきてしまう。

 また、何も救えないまま一般人が苦痛で嘆くのは頂けない。それが戦争に負けた元軍人の償いの仕方だと思う。

……そう信じたい


◇◇◇


───寓話

 騎士の熊は、優しい子犬を愛していた。子犬は言ってくれた。


「私が駆け回れるのは、貴方の持ってる鎧を持っていないから。貴方がみんなを護れるのは、重い鎧を持っているから」


◇◇◇


 こんなに探しても、彼女の働き場は見つからない。それどころか、少女の働き口を探す変人がいると、噂になっている……

 空も暗くなってきた。このままでは、また人一人救えずに夜を過ごすことになってしまう。


「これは、これは。どこか見覚えるのある人がいると思ったら、軍人さんではないですか」目の前にいるは、[[rb:霞>くす]]んだ緑の服を着た男。左の袖には、腕を通していない。いや、通す腕が無い。隻腕だ。

 軍服は汚れやキズをまとっている。本来、 軍服の下に忍ばせる筈のナイフは、左右両方に差し込まれている。


「貴方の隣に子供は何です?」男は少しづつ近いてくる。

「まさか、人助けですか?」男からは妙な圧を感じた。髭も生えておらず、髪も整っている。なのにこの人間からは、[[rb:・・ > 恐怖]]を感じる。服を除けば、人相からは何一つ恐怖に感じる部分はないというのに。


「なあ?あんたの隣は誰!なんだ!」片方しかない腕を使って左側のナイフを取って、少女に刃を向けた。

「俺は知ってる。そいつとそいつの父親は、俺の両親を殺した。殺人犯だ!」少女は泣いていた。震えた唇は、今にも溶けそうで、でも、口は動く。「私がした」の一言。


 男も震える。

「何故俺の両親を!」次の瞬間には、俺の左腕にナイフが刺さっている。

「この子がしたんじゃない。帝国が戦争をして、国民を困窮させたんだ。」

「そんな事、俺の両親の死に様を聞けば言えなくなるぞ」そう軍服の男が言うと、少女が俺の腕の中でか細く言うのだった。

「……べた……」怒りに任させて、男は叫ぶ

「そうだよな!この人喰いの化け物が!」少女はずっとか細く「ごめんなさい」と矢継ぎ早に呟いてばかり。

「泣いたら、俺の親父は戻って、母さんは台所で料理をしてるのかよ!」男は、泣いていた。


 今まで助けていた少女は、人を殺して、そして食べた殺人犯だと言う。その少女が口を開く。

「私がパパを止まらなかったの。だから、私が悪いの。全部悪いから、私をころ……」言葉を遮りながら、突き刺さったナイフを振り解く。しかし、ナイフは抜けなかった。


 男からある程度距離を置きながら、男を見つめながら、訴えかける。

「この子はまだ幼い。だから、罪を許せなんて言わない。情状酌量の余地を与えてあげてくれ!」しかし、男はすぐに反論する。

「そうした。けど、あんたがその子を連れて歩いてた。それが気に入らない。俺は七年間、戦地で戦い、腕を失い、用済みと戻ってくれば、両親は死んでいた。そして、両親を殺した犯人は楽しそうに歩いているんだ」

「分かるかよ。あんたに俺の苦痛が!」今度は右のナイフを抜いて、男は叫ぶ。

「次は殺す。あんたも、隣のガキも、その後、俺も死ぬ」腕に刺さったナイフを抜こうとするが抜けない。

「……ウォークか……仕方ない……」それもそうだ。軍人なのだから、ウォークの移植手術は受けているか。民間人が近くにいるから使いたくはないが、ナイフを抜こうとしている腕に力を入れて、奥に差し込み、その後、引き抜く。血はドバドバと流れていたが、すぐにウォークで止血した。

 どうやら、話し合いでは解決できないらしい。あまり気乗りしないが、[[rb:拳銃>これ]]だけは使いたくなかった。


 拳銃を男に向ける。射撃能力は得意とは言えないが、元軍人の身、人よりは出来る。

 銃を向けられた人間の動きは知ってる。走って銃の照準を合わせられないようにする。狙いが定まらなければ、弾の速さは無に帰る。


 男の狙いは決まって、俺の半歩後ろにいる少女。狙いが分かっていれば、狙いは定まる。銃声が一度鳴る。

 銃弾は左脚に当たり、男は転がる。少女は大きな音に怯えて固まっている。少女を抱き抱えて走る。


 少女は俺の腕の中で、泣いて掠れた声で俺だけに言う。

「私がお腹空いた。ってパパに言ったの。戦争で、貧乏ふで、お金も無くて……だから、パパがお肉を持ってきた時、私、嬉しかった。久しぶりのご飯で、泣きながら食べて、その後、街に言って分かったの。あの食べた美味しいお肉が誰のお肉か……」


 走って逃げたが、土地勘のある彼から逃げられないらしい。先回りにされて待っていた。

「帝国が起こした三度目の対連邦戦争は、帝国中に不幸と死を振り撒いた。そんなの腕を失った俺でさえ分かっている。けど、その不幸を実行したのは、確実にそのガキの父親だ」待っていた男は淡々と語る。

「親父は斧で頭をかち割られて、母さんは、大量の刺し傷による失血死。何度も思い出す。戦地に行く時にかけられた言葉を。この失った腕を見ると、両親の事を思い出す。五体満足で産んだくれた事を思い出す」

「だから、これは俺の償いの仕方だ」持ったナイフを喉に突き刺そうとする。

 やめろ。何て言葉より良い言葉を考える。が、やっぱり脳よりも速く動くのは体だった。

「俺は、帝国の弱虫どもを殺す。それが俺[[rb:グレン>・・・]]と言う男の償い方だ。反乱者と呼ばれるかもそれない。もしくは、救済者かもしれない」男の喉元に刺さる寸前のナイフを掴んで、訴えかける。

「だから、何だって言うんだ。俺はあんたと、そこの[[rb:少女>・・]]を殺そうとしたんだ」

「死ぬ事が償いになるなら、あんたみたいな被害者は死んじゃいけない。俺が全ての悪人を排除して、戦争の無い平和な国を作る」

「だから、俺を助けてくれ。 優秀な軍人のみで構成した組織を作る。それに加わってくれ」男は戸惑いを隠さずにいる。目からは殺意はなくなった。


◇◇◇


 落ち着いた彼と、泣き疲れて寝てしまった少女を家に入れる。さっきまで殺そうとした人間を家に入れるとは、如何なものか。だが、多分大丈夫だろう。そんな気がする。


「反乱者になるのも悪くないか……」そう呟くと、寝てたはずの少女が言う。

「私、貴方に許されるとは思ってない。けど、貴方を助けたい。借金取りから追い払ってくれた貴方も」あまりしたくなかったが、仕方ない。

「お前、うちで働きながら、暮らすか?」

「お前じゃなくて、ミリシャ。よろしくお願いします」軍服の男も言う。

「俺はもう、怒っちゃいない。これからは二人ともよろしく頼む。名前はガルスミスだ」


 奇妙な事が起きている。今日会ったばかりの三人が、これから母国の腐った部分を取り除く話をしている。

終戦十年目。戦争の余波でスラムと化した街に移り住んだ《グレン》は少女と出逢う───

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