悪魔な幼馴染
「惠美は死んだんだよね。」
私の問いに彼女は優しく微笑むだけだ。
何も答えないのが答えなのかもしれない。
答えなくてもわかっているでしょと言われている気がする。
ただ彼女は私に優しくしてくれる。守ってくれる。その行動が本当に彼女が生きているみたいで、私は嬉しくなる。
嬉しくてそしてなぜか悲しくもなる。
誰に言われたわけでも、望まれたわけでもなく彼女は自らの意思でここにいる。いてくれる。
それだけで私の願いは叶ったようなものじゃないかと、満足しなくちゃいけないんだと思う。
なのに目の前に座る悪魔に、幼馴染の姿をする悪魔に何かを期待しているのだろう。
彼女が生きてるうちに変わらなかった関係をこんなことで変えたくはなかったのに。
「ねぇ」
私は優しく微笑む悪魔に聞く。
「惠美は私をどう思ってた?」
外見を真似ているだけの悪魔に聞いたところで、それは彼女の言葉ではない。
そうとわかっていても聞いてしまう。
「変なこと聞くのね。」
悪魔は彼女と同じ口調で返事をする。
強くて優しくて私の幼馴染。
今も変わらず隣にいるはずだった大切な人。
「もちろん好きよ。今も変わらず。」
彼女は私の耳元で、優しく囁いてくれる。
その言葉は私を蝕む毒となり全身を巡っていく、体が勝手に動いてしまう。
椅子に座り頬を赤くする彼女はまるで、本当にそう思っているようで私の理性を壊そうとする。
悪魔が私を誘っているとわかっているのに、それだけで騙されそうになる。
「どうしたの?」
黙り込んだ私を彼女が見てくる。
彼女と目を合わせることすら今の私には難しい。
鼓動が早くなって、全身が熱くなるのがわかる。
彼女に聞こえていないか不安になる。
「私のこと嫌い?」
「違う。」
「じゃあさ、もっと話そうよ。」
顔を上げると優しい笑みがそこにある。
私にだけ向けられるその笑みが私の救いだ。
他の誰にも向けてほしくなくて、独占したくなる。
「ねえ、惠美はどうして死んだの?」
答えが返ってくるとは思えない。
「私が死んだ理由ね、なんだと思う?」
優しい笑みは変わらずそこにある。
初めて会った時から彼女は私に微笑んでくれた。
その微笑みが今も変わらず私に向けられている。
「話してほしかった。あんなことする前に。」
彼女の飛び降りる瞬間が、地面に広がる赤が目に焼きついて剥がれない。今でも鮮明に思い出せるほどに。
「ごめんね。でも私はちゃんとここにいるよ。もう実香から離れたりしないよ。」
彼女は私を優しく包み込むように抱きしめる。
彼女の体温は私を温めてくれて心地いい。
今も彼女がここにいるのは、惠美が望んだからなのかもしれないと期待してしまう。
私は本当に期待ばかりしてしまう。
「もう、私から離れない?」
「もちろん。」
「もう、黙って死なない?」
「死なないよ。」
嘘だとしても私は、その言葉に安心してしまう。
この悪魔がなにを考えているかはわからないけど
私はもう離れることはできないとわかる。
もう一度、惠美を失うことには耐えられない。
私は実香を抱きしめながら笑みを浮かべる。
これで私から離れることはないとわかるから。
嬉しくて笑みを隠す事ができなくて、私はほんとの悪魔なんだと思う。
彼女が悲しんでいるのに、私だけを見てくれるこたが嬉しくてたまらない。
実香の前で死んだのは正解だった。私が死んだことによる傷は、心に残り続けるだろう。
それを私が癒していけば良い。私から離れなければ良いのだ。
私は抱きしめる力を強くする。
隣にいた彼女はこれからも変わらず、私の隣にいる。
「愛してる。」
耳元で囁くとくすぐったいのか体を動かす。
本物の惠美だよとは私から言えないけれど、いつか実香が気づいくれると信じている。
可哀想で、可愛い彼女は私だけのものなんだ。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
楽しく読んでもらえたら嬉しいです。