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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。4  作者: こーの新


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 ジェマは接客の合間を縫ってジャスパーの視線を辿った。そしてそこに立っていた男に目を丸くした。



「わ、そっくり」



 思わず小さく呟いた声に、近くの客がその視線の先を見た。



「あら、バイオレット男爵家の次期当主様じゃないですか」



 平民であろう女は、物怖じすることなく声を掛ける。すると周囲の客もその存在に気が付いて駆け寄った。



「次期当主……ということは、ハナナさんのお兄さんってことかな?」



 ジェマはこっそりとジャスパーに耳打ちする。するとジャスパーは考え込むように頷いた。



「そうだな。それにしても、貴族なのに平民からも人気とは、珍しい」



 ジャスパーの言葉に、ジェマはシヴァリーのことを思い出す。平民上がりの騎士として、貴族出身の騎士たちから嫌がらせをされているとかなんとか。


 男爵位といえば、貴族の中で最底辺の貴族。他の貴族から疎まれていることは、旅の途中でなんとなく聞いた。けれど平民人気があることは知らなかった。



「貴族も色々なんだねぇ」


「ああ、そうだな。それにしても、なんでここに来たんだろうな」


「確かに。ハナナさんが紹介したとか?」


「どうだかな」



 ジャスパーは警戒を解かない。一方のジェマは、ハナナの兄なら大丈夫か、と安堵してまた仕事に戻る。



「君がジェマさんかな?」



 不意に声を掛けられて、ジェマは振り向く。いつもの微笑みを浮かべて、ハナナよりも背が高そうな男を見上げる。



「はい。店主のジェマ・ファーニストです」


「そうですか。初めまして、ハビエル・バイオレットと申します。弟がいつもお世話になっています」


「いえいえ! お世話になっているのは私の方です。ハナナさんには、いつも助けてもらっていますから!」



 ジェマが慌てたように言うと、ハビエルは目を細めた。そして、ふわりと朗らかな笑みを浮かべる。



「そうですか。ふふ、あの子が気に入るわけですね」



 なんだか嬉しそうなハビエルに、ジェマは何がなんだかという様子で首を傾げる。その様子に、ハビエルは目を見開いた。



「なるほど……そういうことでしたか」



 ジェマはその言葉の意味が分からなかったが、ジャスパーは苦笑いを浮かべた。ハナナのあからさまな、というか溢れ出ている好意に気が付いていないのはジェマ本人だけ。ハナナはきっと家族にもジェマのことが好きだと明言はしていないのだろうが、こうしてバレている。


 そこまで分かりやすいのにハナナの恋に進展がない理由として考えられるのは、ジェマがハナナに対して好意がない場合。わざと知らないふりをしている場合。きっとそう仮定してやってきたであろうハビエル。


 ジャスパーはハビエルの何とも言えない複雑な心境を察した。


 弟の恋路は応援したい。けれどその相手は気になる。弟の想いに応えないひどい相手らしい、顔を見ておかなければ。なんて、兄心だ。


 実際、ハビエルが今日やってきた主な目的はそれだった。もちろん、それだけではないのだが、そっちはおまけだ。



「いえいえ、なんでもありませんよ。私が今日来たのは、貴女にこのお手紙を渡すためです」



 周囲の客がざわつく。男爵とはいえ、貴族に手紙の使いをさせるのは、王家だけだ。



「まさか、王妃様?」


「ええ、流石にそれは……でも、ジェマさんの腕なら……」


「スレートさんも、王妃様の命令に背いて殺されたなんて噂もあるでしょう? 怖い怖い」



 客たちがひそひそ話をする。それは当然ハビエルの耳にも入ったが、知らないふりをしてジェマを見つめる。



「ここでは開かないでおいた方が良いでしょうね」


「それもそうですね。後で読ませてもらいます」



 ジェマは手紙を【次元袋】に収納した。ハビエルはそれをジッと見つめると、ジェマに視線を向ける。



「その便利な袋が、【次元袋】ですよね? ハナナが帰ってきて早々に自慢していたんです」


「そうなんですか? 旅の護衛をしてくださった騎士の皆さんには、お礼と、荷物の運搬のお手伝いをお願いしたくてお渡ししたんです」


「そうですか……これは、売ってはいないのですか?」


「これは売ってはいません。儲けになりすぎますから。代わりに、こちらの……あ、在庫切れてる。えっと、こちらの技術を応用した【次元財布】は販売しています。お時間をいただければすぐにお作りしますよ」



 在庫は十分だったはずなのに、すっかり売り切れ。〈エメラルド商会〉で販売をしていたから、平民階級でも持ち歩いている人は多い。けれどラルドの助言でアラクネ種を乱獲しようとする人が現れることを防ぐため、そして長く価値を生むために少しずつ売ることにしている。



「それなら、特注という形でお願いしても良いですか?」


「分かりました。デザインや構造にこだわりがあれば、お伺いしますね」



 みんなが気になる手紙のことなんて、2人の頭からはすっかり消えている様子。他の客たちは2人のそんな様子に唖然とし、ジャスパーは頭を掻く。


 とりあえず敵ではなさそう、ではあるが、王家からの手紙の中身は気になるところ。ジャスパーはそわそわしながら手紙が開かれるときを待った。



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