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パーティーの終盤になって、部屋のドアが開かれた。
「ハナナさん!」
ジェマが嬉しそうに駆け寄ると、ハナナはその姿にピシッと硬直した。言葉も出ないまま目を見開いている様子に、シヴァリーは肩を震わせて笑いを堪える。ラルドはどこか不機嫌にハナナを見据えた。
「ハナナさん?」
ジェマが首を傾げると、ハナナはハッとした。いつもは働きの良い頭が、何を言えば良いのか分からないままぐるぐるする。
騎士たちはハナナのらしくない姿に必死に笑いを堪える。互いにつつき合い、宥め合い。ハナナは騎士たちの様子に慌てて咳払いをした。
「ジェマさん、とても素敵なワンピースですね」
「ありがとうございます! ジェットが仕立ててくれたんです。ふふ、やっぱりハナナさんは褒めてくれますね」
ジェマが無邪気に笑うと、ハナナはその笑顔をボーッと見つめた。ジェマを中心に世界が華やいでいくような感覚に、優しく微笑む。そして、不意に真剣な表情を浮かべた。
「ジェマさん。これを使ってください」
ハナナが差し出したのは、分厚いファイル。ジェマはハナナを伺う。ハナナが頷くと、ジェマはそのファイルをそっと開いた。
「これは」
「道具師ギルドコマス支部における不正の証拠です。依頼主から、ジェマさんに渡すようにと言われています」
「ありがとうございます!」
資料の中には、ジェマが求めていた情報がぎゅっと詰め込まれていた。資金の差額の行き先や、その関係者、そして他の道具師たちが被害に遭いながらも何も言えない理由まで。
「早速明日、ギルド本部長のところへ行きましょう!」
「ああ、そうだな。ハナナ、同行できるか?」
「いえ、私は野暮用がありまして」
ハナナの表情はどこか暗い。シヴァリーは何も言わずにその肩を軽く叩いた。
「そうか。分かった。それなら、明日は俺とカポック、ユウの3人でジェマを警護する」
「はっ!」
一気に引き締まった空気。1人おろおろしているリュカ。メイドとしては常に表情管理をすることを意識しているものの、今はただジェマの友人としていようと努力中。普段はできることが難しい。
その姿に気が付いて、ジェマはリュカが座っていたソファの隣にドサッと腰かけた。
「リュカ、何食べてるの?」
「えと、マカロン……シュレッドさんが、くれたやつ……」
「私も食べたい! 待ってて、持って来る!」
ピューッと自分の席からマカロンが山盛りになったお皿を取って来る。そのあまりの量にリュカは目を丸くした。
「そんなに、食べられるの?」
「うん、食べちゃう。マカロンは別腹でしょ」
ジェマはそう言いながらマカロンを頬張る。リュカは隣で小さな口でもしゃもしゃとマカロンを咀嚼する。
「美味しいね!」
「うん、美味しい」
2人が微笑み合う姿に優しい視線を送っていたラルドは、視線をシヴァリーに向ける。
「なあ」
「ん?」
「何か手伝えることはないか?」
大切な人のために、居ても立っても居られない。そんな様子を溢れさせるラルドの立ち姿に、シヴァリーはどこかお兄さん気分でラルドの頭を撫でてやる。
「ラルドはいつも通り、ジェマの商品を売り続けてくれ。ジェマの腕を信じる人を増やして欲しい。ないとは思うが、今回集めた証拠でも言い逃れをされたら、ジェマの立場が危うくなる。そうならないために、民意を味方につけたいんだ」
シヴァリーの言葉にラルドは肩をすくめる。
「そんなことくらいなら簡単だ。ジェマの商品は、置けばすぐに完売する。商品がなくなれば催促される。それくらい、ジェマの人気は絶大だ」
「それを根強くするには、どうしたら良い?」
人気を得るだけでも難しい。根強い人気を得るとなると、さらに難しい。
「ジェマの努力次第だな」
「それもそうだね」
2人はパスタを啜る。ロースト自慢のトマトクリームパスタは、ファスフォリアでは珍しい。大抵はソルトで地産地消されてしまう。
「よく仕入れられたな」
ラルドはグイッと胸を張る。
「ローストさんに頼まれて入荷したんだ。今のところ使うのはローストさんだけだけど、ローストさんのところで食べて、自分でも食べたくなる人たちが出ることも考慮して経路は広く取っているんだ」
「なるほど、家でも作ってみたい気持ちは分からないでもないな」
シヴァリーは大きく頷く。その頬いっぱいに詰め込まれたパスタに、ラルドは苦笑いを浮かべた。
「ラルドは凄いな」
大量に詰め込んだパスタを飲み込んだシヴァリーは、何の気なしに呟いた。突然の褒め言葉にラルドは戸惑って視線を彷徨わせる。
「な、なんだよ、急に」
「いや、学生をしながら大人と肩を並べてこんなデカい商会を運営してるんだ。凄くないわけがないんだよな」
1人うんうんと頷くシヴァリー。ラルドはふいっとそっぽを向いた。
「褒めても何も出ないぞ」
「何か貰おうとはしてないさ。ただ、羨ましいんだ。それだけの才能と周りを認めさせるだけの力があることが」
「なんだそれ。そんなの、シヴァリーだって持ってるだろ。平民上がりで小隊長、その上担当は第2王子の警護と手駒。滅多なことだろ」
「手駒ってな、おい」
ラルドはシヴァリーのツッコミを聞いていないふりをしてジェマを見る。
「その第2王子の噂、聞いたか?」
シヴァリーの眉間に皺が寄った。




