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パーティーを楽しむジェマたち。ジェマはこの旅で見た景色や得た素材について話しながら、ローストの料理に舌鼓を打った。
「ジェマ、悪かったな」
ジェマがお肉のおかわりをもらいに行くと、ローストが呟いた。ジェマ以外には聞こえないようにしているような声に、ジェマは何も言わずに微かに首を横に振った。
「ありがとな。ほら、じゃんじゃん食えよ」
「わ! いっぱい! ありがとうございます!」
ジェマは山盛りのお肉に目をキラキラと輝かせて席に戻る。早速肉を頬張りながら、ジェマは騎士たちにも山盛りの肉を盛り付けてやるローストの姿を盗み見る。
全てを知っているようだった。
普通、暗殺者ギルドに登録されている人間は、暗殺者ギルドに所属している人間であっても全てを知り得ることはない。もちろん、家族に知らせることもない。
もし自らが暗殺者であることが知られれば、シュレッドが〈チェリッシュ〉を襲ったように相手を抹殺することを考えなければならない。それが自らの命、延いては家族の命を守ることになるからだ。
ハナナのように一家全員が暗殺者ギルドに所属しているわけでもない限りには、己が暗殺者であることは伝えない。悟らせることもしない。気が付くのは、その道のプロがその道に関わる道具師や情報屋の類の人間くらいだ。
それなのに、ローストは〈チェリッシュ〉の店で何が起きたのか、誰が店を破壊したのか。全てを知っているような様子だった。
考えられる可能性は、ローストも暗殺者であること、もしくはシュレッドが暗殺者をしていることに気がつきながらも黙っていること。恐らく後者だ。さっきのローストは、特にシュレッドに聞こえないように細心の注意を払っていた。
それに何より、ローストからは暗殺者特有の気配が感じられなかった。どれだけ上位の暗殺者であっても、一瞬普通ではない気配が漏れ出るものであったが、ローストにはそんな気配はなかった。
「ジェマちゃん」
ジェマの隣に腰かけたシュレッド。その手に持たれたお皿にはスイーツが山盛りになっていた。
「良かったら、これも食べて。マカロンやケーキ、プリンもあるから」
「ありがとうございます!」
ジェマは嬉しそうにそれを受け取ると、ハッとして【次元袋】をがさぞそと漁る。
「そうそう、渡すのが遅くなってしまってごめんなさい。完成したんです。シュレッドさんの新しいトレー!」
ジェマがシュレッドに手渡した袋の中に入っていたのは、一見すると何の変哲もないトレー。けれど薄く刻まれた溝にはホールアラクネの糸が仕込まれている。一度トレーをフリスビーのように投げたとしても、ホールアラクネの糸を手繰れば簡単に回収できるようになっている。
シュレッドの獲物を新しく改良すると約束したときに提案したものが形になった。ホールスタッフが持っているものとしておかしくないことを大前提に、より戦いやすくなるように。
「ありがとう、ジェマちゃん」
「いえいえ。そうだ、このトレーの裏を見て欲しいんですけど」
シュレッドがトレーを裏返すと、そこには赤と青の小さなでっぱりが2つ。
「そのでっぱりの奥に水属性と風属性、火属性の魔石を埋め込んであるんです。水属性の魔石に風属性と火属性の魔法がそれぞれ回路で繋げられています。それで、赤のでっぱりに微量の魔力を流すとトレーが温かくなって、逆に青のでっぱりに微量の魔力を流すとトレーが冷たくなります」
「なるほど、お料理の温度を変えないための工夫ね?」
「はい。注意点としては、温度変化に際限がないので、魔力の流し過ぎには気を付けてください」
その言葉にシュレッドはフッと微笑んだ。ほんのりと溢れる暗殺者としてのオーラ。
「素敵なものをありがとう」
ジェマとシュレッドがすっかり和解し、友人のように会話を交わす姿を窓枠に腰かけて眺めていたジャスパー。ふと、以前シュレッドが話していた内容を思い出した。
10年前にシュレッドが引き受けた王妃と第一王女の暗殺任務。運悪く王妃の出産が終わってしまい、それでも任務を遂行しようとした際、シュレッドは魔力の暴発に巻き込まれて腹の子を亡くした。恐らくは、子宮の活動が永眠している。
光属性の魔力の暴発は心身を過剰に癒す。そして時に、光の刃が周囲を貫く。身体の一部を永眠させるような効力を発揮するのは、闇属性の魔力だ。第1王女カタリナは光属性の魔力を持つと言われている。では、シュレッドが受けた魔力の暴発を引き起こしたのは誰か。
あの日魔力の暴発があったことは世間にも知られている。けれどそれは光属性のものだったと偽られている。精神を崩壊した従者の噂は、王妃によって掻き消された。
「闇属性の魔力の暴発があった、なんて言ったら、王妃と第1王女の嘘がバレるということか」
ジャスパーは誰に伝えるわけでもなく、仲良くスイーツを頬張るジェマとシュレッドを眺める。知られてはいけない真実は暴かれるべきだと思っても、知らなくて良い真実は知らないままで良いと思った。




