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ガマヌラは、目の前で座り込んでいるシヴァリーとジェマをターゲットにドスンドスンと歩き出す。
「どこを見ているんだか」
容易にガマヌラの背後を取ったジャスパーは、蹄を構える。
「礫弾」
ギュッと凝固された石の鋭く尖った先端がガマヌラの背中に突き刺さる。
「ゲロゲロッ!」
ガマヌラは激しく声を上げてその場で地団太を踏む。前進が止まった隙に、シヴァリーはジェマを抱えてナンのところまで引く。
「シヴァリーさんとナンさんは、次のひと瓶をジャスパーが石を打ちこんだところを狙って投げてください。傷から染み込めば、体内の酸も中和できるはずです」
「分かった。やってみよう」
シヴァリーとナンはそろりそろりとガマヌラの背後を取って機を待つ。ジェマはガマヌラがそちらに気を向けないようにジャスパーと共に攻撃を続ける。
「火よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」
ジェマが詠唱すると、小さな火球が辺りを覆う。そしてジャスパーが操る礫弾と共にガマヌラを襲う。石に貫かれ、火に包まれ。ガマヌラは少しずつ後退していく。
そこに、一本の矢が飛んでくる。矢は地面に突き刺さり、ガマヌラは警戒して矢から離れる。矢が飛んできたのは、木の裏。ユウが弓をキリリと引いてガマヌラの足元を狙い続ける。
ジェマ、ジャスパー、そして矢に阻まれたガマヌラが行きつく先は、残された敵のいない方角のみ。そしてそちら側の茂みには、シヴァリーとナンが潜む。
「今だ!」
シヴァリーの合図と共に、二人が手にしていた薬瓶が投げられる。それがガマヌラの背後に飛ぶと、ジャスパーは狙いを定めた。
「礫弾!」
鋭い石が薬瓶と勢いよくぶつかると、両者が爆ぜた。砂ほどまで小さくなった礫弾のカケラとガラス、そしてアルカリ性の中身がその場に散らばる。
その全てを背中から浴びたガマヌラは咆哮を上げながらジタバタと暴れる。
「ゲロゲロゲロォ!」
そのよく響く声に森が震える。鳥たちが飛び上り、小動物たちは逃げ去っていく。
液体によって身体の機能を失われていくふらり、ふらりと身体が揺らぎ、遂には膝をつくほかになかった。その崩れ落ちる衝撃に、近くに隠れていた小動物たちが慌てて逃げだす。
「ジャスパー!」
「ああ! 石剣!」
ジャスパーはその隙にアルカリ性の液体をかけた石の剣でガマヌラを仕留め、素早く捌いていく。やっと終わったと肩の力を抜くシヴァリーたちに、ジェマは厳しく声を飛ばす。
「まだ終わりではありません。ガマヌラの咆哮を聞いた他のガマヌラやアヌラ種がどこかから襲撃をしてくる可能性もあります。ジャスパーが痕跡を消し終わるまで、警戒を続けましょう」
「分かった」
シヴァリーは厳しい顔つきで頷いて、剣を構える。油断なく周囲を観察する視線の鋭さに、周囲にほんのりと圧が滲む。
しばらくの間、襲ってくる小さなアヌラ種たちの攻撃を避けつつ、四人でジャスパーを守る。ジャスパーに魔力の低い攻撃はほとんど効かないものの、作業の邪魔をしてしまえば、その分アヌラ種が集まってきてしまう。
アヌラ種は多種多様だ。致死性の毒を持つものから、麻痺毒を持つもの、何も持たずにただ突っ込んで来るものもいる。彼らの決死のダイブが顔に止まれば、窒息するほどの圧でしがみついてくる。
四人でどうにか凌いでいると、ジャスパーがふわりと飛んだ。
「終わったぞ」
ジェマが振り向くと、そこには骨一つ残されていなかった。シヴァリーがナンとユウにも伝え、揃って最後に周囲の索敵をする。
ピューッ
そのとき、遠くからか細い笛の音色が木々の間をすり抜けるように響いてきた。その音に、騎士たちはハッとする。シヴァリーはすぐにナンとユウを振り向く。
「ナンは俺と来い。ユウはジェマの警護を!」
「了解!」
シヴァリーはナンと共に森を駆けていく。ジェマは首を傾げた。
「どうしたんだろう」
ジャスパーは少し考えて、ハッとする。
「まずい、ジェマ。恐らくあの音はラルドがシヴァリーに借りた笛の音だ。ラルドとジェットが襲われていると考えた方が良い」
ジェマはその言葉に目を見開くと、迷うことなく【マジックペンダント】に魔力を流す。
「風よ、我が呼びかけに応え、具現化せよ」
ウインドシールドに飛び乗って、ジェマはユウに手を伸ばす。
「ユウさんも、急いで!」
ユウが戸惑いながらウインドシールドに乗り、ジャスパーがジェマの肩にしがみつく。ユウがハッとして何か言う前に、ウインドシールドは高速で木々の間をすり抜けて行く。
走っていたシヴァリーとナンは吹き抜けた強風に一瞬足を止めたが、再び走り出す。
先に倉庫に到着したジェマたちはウインドシールドから飛び降りて周囲を警戒する。振り落とされなかっただけまだ良かったユウは、ふらふらしながらもどうにか剣を握りしめる。
ジャスパーはジッと気配を探る。
「裏だ!」
ジャスパーと共に駆けつけると、倉庫の裏の壁が酸で溶けて崩壊していた。
「嘘……ジェット! ラルドさん!」
ジェマが思わず叫ぶと、倉庫のすぐそばの茂みに隠れていたガマヌラがヌッと姿を現した。




