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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。4  作者: こーの新


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 チュベローズが何か言おうとして言葉がまとまらない様子に、向かい側で座り直したレップが微笑んだ。



「チュベローズさん。あなたが言いたいことも分かりますよ。私だって、綺麗な世界だけでは生きてくることができませんでしたから」



 レップの言葉にチュベローズは眉間に皺を寄せる。その様子に、レップは肩を竦めた。



「商人にもあるのですよ。納得がいかないような昔からのしがらみや、命を掛けたやり取りというものがね。ですが、こうも思うのです。それを後悔するくらいなら、最初から綺麗な世界だけを生きたかったと。もしもジェマが言うような綺麗な世界しかなければ幸せでした」


「でも、そうもいかないでしょう?」


「ええ。ですが、同じ後悔を後世に引き継がないことは、私たちにもできることです。お互いに立場がある身ですから。その力は、正しき道を示そうとする者のために使うべきだと私は思いますよ」



 レップの言葉に、チュベローズは躊躇う。そして、迷うように視線を彷徨わせる。



「たとえ、その決断で全てを壊してしまうことになっても、ですか?」


「噴火で全てを失った地にも、やがて命が芽吹きます。そして段階を経て、豊かな森を形成していくものなのです。元の姿とは同じではなくても、必ず新しいものがそこに生まれるでしょう」



 チュベローズは考え込む。自然のように、そう簡単に行くものなのかと。けれど、自然があったから人間が生まれた。自然の摂理は、人間にも当てはまる。



「そうですね。壊したとしても、再構築まで導くことが私の仕事です」


「ええ。代表者とは、そういうものですよ。ついてきてくれる者たちを導き、彼らの人生や生み出すものに対して責任を負う。まったく、気が抜けない仕事ですな」



 豪快に笑うレップに、チュベローズは悲し気に目を伏せる。そしてその瞳をジャスパーに向けた。



「ジャスパーさん。先ほどは、ごめんなさいね」



 ジャスパーはふんっと鼻を鳴らすとそっぽ向いた。



「構わない。人間の感情の機微など、長く生きている我には手に取るように分かるからな。ただ、今後何があっても我ら精霊を侮辱することは許さない。我らは自然を作る者だ。この世界の守護者として存在しているのだからな」


「そう、なのですね。私も、まだまだ学びが足りないようです」



 チュベローズはどこか情けなく、力なく微笑んだ。そして困ったように眉を下げる。



「こんな姿を見せてしまった後ですから、素直に言いましょう。私は、迷っています。コマス支部長や直属の部下である調査隊を信じたい気持ちと、ジェマさんのこの証拠に動揺する気持ちです」


「この証拠となっている【加重次元財布】は、ソルトのレッド・プッチ支部長に開発登録をしていただきました。この性能に間違いはありません。ただ、私が先ほど指摘された通りにあの時渡された全てをここに入れたという証拠もありません」



 ジェマは状況をまとめるように、淡々と告げる。その表情には1人の道具師としての力強さが宿っている。不利な状況でも、己が信じる正義のためなら覚悟を貫く姿。チュベローズはその姿にかつて憧れた人の面影を見た気がした。



「では、どうすると言うのですか?」


「どうしましょうか」



 チュベローズの言葉に、ジェマはへにゃりと笑う。困り果ててしまったという様子に、シヴァリーは思わず笑みを零す。子どもらしい姿をしながらも、全てを背負い込む覚悟を秘めた瞳の奥の炎は消えることなく燃え盛っている。


 チュベローズはしばらく考え込んで、ため息を漏らす。



「まだ情報不足ということでしょうね。少し、持ち帰って考えさせてもらいます」


「分かりました。私も他に証拠になるものを集めておきます」



 ジェマはそう言って立ち上がる。チュベローズはその背中の大きさに驚いて目を見開いた。大人たちも困り果てる状況に、ついこの間成人したばかりの新米道具師が食らいついている。その様子は異質で、けれど眩しかった。


 ジェマは本部を出ると、すぐにレップとエメドに頭を下げた。



「申し訳ございません。詰めが甘かったです」


「大丈夫だ。まだ勝負はこれからだからね」


「うん。大丈夫だよ。とりあえず今は、1度休もう。長旅の疲れを癒して、それからゆっくり考え直してみよう」



 レップとエメドの思いの外優しい言葉に、ジェマは申し訳なさそうに肩を落とす。



「ありがとうございます」


「いやいや。それより、ラルドが待っているからね。1度うちへ行こうか」


「はい、分かりました」



 ジェマたちが歩き出そうとしたとき、ハナナはそっとシヴァリーに耳打ちをした。



「少し、用事を済ませてきます」



 ハナナの言葉に、シヴァリーは困ったように笑った。そしてポンっと肩を叩く。



「ありがとうな。でも、無理はするなよ」



 ハナナがこれからやろうとしていることを見透かしたような言葉に、ハナナはひっそりと緊張していた気持ちが緩むのを感じた。



「はい。ありがとうございます」


「大丈夫だ。それと、行く前に詰め所から誰か交代の人員を連れて来てくれ。この件が片付くまで、コマスからの刺客に備えて警護を強化する」


「分かりました。2人ほど呼んでおきます」



 ハナナは一礼すると、風のように消えてしまった。



「まったく。能あるハナナは爪を隠すってわけか」



 その言葉には、呆れと共に信頼と心配が込められていた。シヴァリーはハナナが消えていった先をしばらく見つめてから、ジェマの警護に戻った。


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