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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。4  作者: こーの新


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 ジェマが机の上に置いた【加重次元財布】を見て、チュベローズは眉間に皺を寄せた。



「これは?」


「これは、【加重次元財布】という魔石付与魔道具です。この袋に入れられたものの最重量を表示し続けるという道具です。この袋に先日【奇怪グラス】という道具の開発登録をしたときにコマス支部でいただいた報酬をここに入れていただきました。その時からこの袋の中身の重さが変わらないことの証明に、この袋の中身の重さを測ります。その重さがこの表示された数字と同じであれば、後から抜き取っていない証拠になります」


「なるほどね。では、一度測ってみましょうか」



 チュベローズが用意した測りに【加重次元財布】から取り出した報奨金を移し替える。その重さは【加重次元財布】が示した重さと同じだった。



「なるほど。確かにこの袋に入れられた金額はこの通りなようですね」



 ジェマはホッと息を吐く。けれど、チュベローズは嫌に口角を持ち上げた。



「ですが、報奨金を入れた麻袋に報奨金を全て移し替えなかったという証拠はありませんよね?」



 その言葉に、ジェマは硬直する。ジャスパーがふよふよとチュベローズの目の前に飛んでいく。



「我がその証明をしよう。その姿を見ていたからな」


「ですが、あなたはジェマさんの契約精霊でしょう? いくらだってジェマさんのためになるように証言を捏造できます。それに、ただの精霊の証言が何になるというのですか?」


「ただの?」



 ジャスパーの眉間に皺が寄る。ジェマは慌ててジャスパーを手のひらの中に納めて胸元に引き寄せた。チュベローズはにこやかに微笑みながら、ジャスパーを見下した。



「そうでしょう? 精霊は人間によって生み出されるとも言います。人間がいなければ存在できない分際で何を言いますか」


「人間が精霊を殺すことは数えきれないほどあるが、人間のおかげで生まれた精霊の数は数えきれるほどしかいない。我ら精霊は自然と共に生きている。自然を破壊するような人間がいなければもっと数を残すことができたのだがな」



 精霊たちを守る5大精霊の一角として、チュベローズの言葉に言い返さずにはいられなかった。最初こそジャスパーを止めようとしたジェマは、そっとジャスパーから手を放してやる。ふよふよと飛びあがったジャスパーは、大きく前脚を広げた。



「我の怒りを買えばこの国も、この世界も。簡単に破壊されることを忘れるな。愚か者よ」



 ジャスパーは土属性の魔力を部屋中にぐるぐると巡回させる。その圧力はあまりにも激しく、レップとエメドはソファの背もたれに、ジェットはジェマに必死にしがみついた。


 チュベローズは小さいはずなのに大きく見えるジャスパーの姿に目を白黒させていた。ジェマは小さく息を漏らすと、濁流のような土属性の魔力の中を平然と歩いてジャスパーに手を差し伸べる。



「ジャスパー。もうやめよう」


「ジェマ。何故止める?」



 ジャスパーの怒りに燃える漆黒の瞳。ジェマは柔らかく見つめ返してあどけなく笑ってみせた。



「だって、ジャスパーは家族だもん。これ以上やったら、一緒に暮らしていられなくなっちゃうでしょ?」



 ジェマの無邪気な笑顔と心からの言葉。家族の愛に満ちた優しさに、ジャスパーは深々とため息を漏らした。



「ジェマのためなら、仕方がない」


「ふふ、ありがとう。それに、もしもジャスパーがこの世界を壊したいなら、私だって魔法で手伝うからさ」



 しれっと物騒なことを言ってのけるジェマに、ジャスパーはフッと肩の力が抜けるのを感じた。



「まったく、恐ろしい子だよ、ジェマは」



 その言葉にいたずらっ子のように笑ったジェマ。2人が笑い合っていると、ジェットが糸を使ってターザンのようにジャスパーに飛びつく。



「ピピィッ!」



 情けなく響いた声に、ジャスパーはへにゃりと笑う。



「怖がらせてしまったな。ごめんよ」


「ピィ、ピィ」



 必死にしがみつく8本の脚。そこに詰まった大好きという気持ちと、失いたくない気持ち。ジェットの切実な思いが胸に流れ込んできたジェマは、そのふわふわの頭を優しく撫でてやる。



「大丈夫。これからも、3人一緒だよ」


「ああ。一緒だ。だから、心配するな」



 2人の顔を見比べて、やっと安心したらしいジェットは、大して体格の変わらないジェットにひしとしがみついて離れなくなった。ジェマがその姿に小さく笑ったとき、後ろでふらふらと立ち上がる影があった。



「な、何、どうして、そんな、精霊ごときに」


「精霊には日ごろから精霊魔石を供給してもらっているというのに。どうして彼らを見下すようなことをおっしゃるのですか? 彼らは彼ららしく生きていて、私たち人間にはできないことができます。その姿をどうして尊敬しないのですか?」



 ジェマの真っ直ぐで綺麗な言葉。チュベローズは奥歯をギリッと噛み締めた。



「世の中、綺麗事だけではやっていけないの」


「どうしてですか? 綺麗事が現実になれば、綺麗な世界なのに」


「綺麗な世界では呼吸ができない人間もいるからよ。まだ幼いあなたには分からないでしょうけど」



 チュベローズが言うと、ジェマは少し考えて微笑んだ。



「分かりますよ。私にも。そういう人たちを、たくさん見てきましたから。でも、綺麗な世界では呼吸ができないと言う人たちほど、息苦しそうに生きていますよ」


「それは、汚い世界で生きているからよ」


「ほら。汚い世界では息苦しいのでしょう? それなら、綺麗な世界の方が息がしやすいかもしれませんよ?」



 ジェマはにこやかに笑ってみせる。その幼さと大人っぽさを兼ね備えた姿に、チュベローズはソファにどっかりと腰を下ろした。



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