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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。4  作者: こーの新


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 チュベローズはふんわりと微笑むと、柔らかく滑らかな仕草で手を動かし道具師ギルド本部の中を指し示した。



「皆さま、どうぞ中へ。詳しいお話は中でお伺いします」



 チュベローズの温和ながらも凛々しさを内包した立ち振る舞いに、ジェマたちは背筋を伸ばしてチュベローズの後について行く。道具師ギルド本部の中は道具師ギルドファスフォリア支部と同じ石造り。けれどその構造は全く違う。誰かを招き入れるよりも中の人物を守るような入り組んだ造りが奥へと続く。



「こちらへどうぞ」



 ジェマたちが通されたのは、受付やいくつかの応接室より奥に置かれた応接室。その扉にはそれまでの部屋とは違い隠蔽効果があるシークレットシルキーで作られたクッションが嵌め込まれていた。防音機能と外部からの視界すら防ぐ機能を持ち合わせるそこは、密談には最適な空間だ。


 中に通されると、事務員らしきスーツを着た男が紅茶を淹れていた。チュベローズが手を挙げると、男はジェマたちに一礼をする。



「どうぞ、お掛けになって?」



 チュベローズに導かれるままにソファに腰掛ける。すると男がローテーブルに人数分の紅茶を並べていく。最後に中央にクッキーを置くと、男は部屋の隅に立って目隠しをした。



「彼は忠誠心が高く、耳が聞こえません。視界はダークアラクネの糸から作られた目隠しで遮断されますので、この部屋で行われた会話が外部に漏れることは心配しなくて大丈夫ですよ」



 チュベローズはそう言いながら、男の目の前で手を叩く。男は微動だにしない。その反応は、目の前で手を叩かれたことに気が付いていない人間のそれだった。



「ご配慮、感謝します」


「いいえ。これは私たち道具師ギルド職員にとっても沽券に関わる問題ですもの。もしも貴女の言葉が讒言であったとき、噂が外部に少しでも漏れてしまえば私たちの組織自体の基盤が揺らぐことになりかねません。それは私たちにとっても、貴女にとっても。望まぬ未来でしょう?」



 暗にジェマの言葉の全てを信じるわけではないという発言。ジェマは安心したように微笑んだ。



「ありがとうございます。改めまして、道具師、〈チェリッシュ〉店主のジェマ・ファーニストと申します。こちらは私の契約精霊のジャスパー、契約魔獣のジェット、そして王命により護衛を務めてくださっているシヴァリー・ケリーさん、ハナナ・バイオレットさんです」



 紹介された一同が一礼すると、続いてレップが手を挙げた。



「私は商人、〈ストライプ商会〉代表のレップ・ストライプと申します」


「同じく、〈エメラルド商会〉代表のエメド・マーチャントと申します。この度はジェマさんの提言の証人として立ち会わせていただくべく同行しました」



 レップとエメドも自己紹介を済ませると、チュベローズはにこやかに微笑んで頷いた。



「レップさんとエメドさんのことはよく存じております。この街の商人の中でも有名なお2人ですからね」


「ははっ。良い話で有名であれば良いのですがね?」



 レップがおどけたように言いながら、鋭い眼光で見つめる。チュベローズはその視線をものともせず、変わらず穏やかに微笑んだ。



「ええ、もちろんです。ただ、お2人のような大手の商会を経営している方が証人として同行するとは思いませんでした。もしもこの提言が虚偽だと判断された場合、お2人の商会の名にも傷がつくことは、もちろん承知の上ですよね?」


「ええ。承知の上です」



 エメドは温和に微笑む。その瞳にも鋭さはなく、チュベローズはどこか拍子抜けた様子で一瞬瞳を揺らした。エメドの優しい瞳はジェマに向けられた。



「ジェマは、まだ道具師としても商売人としても経験が浅いです。ですが、その正義感と道具師全体、ないしは環境のことまで考えた道具の開発や方針の決定。その聡明な姿を私はこれまで何度も目にしてきました。彼女の言葉は信用に値すると、私の商人人生と商会を賭けても言うことができます」



 エメドの全幅の信頼に、ジェマは自然と背筋が伸びた。自分の過ち1つで、ここにいる全員の人生を変えてしまう。それだけではない。彼らが抱える家族や従業員の人生まで変えてしまう。


 ジェマは深呼吸をする。静かに瞼を閉じ、たった十年しか生きていない小さな身体に、全てを背負い込む決意を固めた。サファイアのような瞳を開くと、ジェマはチュベローズを見据えた。



「本日お時間をいただいたのは、事前にお伝えしていた通り、道具師ギルドコマス支部における不正についてお話があるからです」


「ええ。騎士団を通じて手紙は受け取りました。それを読んだ上で、先にコマス支部へ調査隊を送りました。その結果、帳簿にも入出金の記録にもおかしなところはない。そう調査結果が届きました」



 ジェマの話を聞く価値もないと言いたげに、チュベローズは微笑む。その表情にレップとエメドの笑みが嫌に深まる。ジャスパーはチュベローズの真意を探るような眼差しを送り、ジェットはその場で地団太を踏む。シヴァリーは護衛として平静を保つような顔をしながら、苛立ちが握り締められた拳に現れている。


 冷静に微笑むのは、ジェマとハナナだけ。ジェマは穏やかな笑顔を保ったまま、【加重次元財布】をローテーブルの上に置いた。



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